第44話 線を引くということ
三十日目の朝。
王都は、いつも通りに動いていた。
暫定一次決裁制度は正式規程として公布され、
部局間の連絡網も更新された。
混乱はゼロではない。
だが、止まってはいない。
それを確認した上で、エリアナは政務院の会議室に立った。
王太子。
セドリック。
各部局長。
全員が揃っている。
「本日をもって、私の助言期間は終了します」
簡潔な宣言。
感傷は混じらない。
「総括を」
王太子が促す。
「制度は機能しています」
「改善余地はありますが、停止はしていません」
「評価基準は達成しています」
数字は、すでに提出済み。
「問題は、今後です」
エリアナは、ゆっくりと続ける。
「私が去ったあと、修正を続けられるか」
それが本質だった。
「続ける」
セドリックが、迷いなく言う。
「局長の判断として?」
「王都の判断として」
短い視線の交差。
「では、問題ありません」
それで終わる。
王太子が、静かに立ち上がる。
「改めて問う」
全員の前で。
「王都に残る意思はないか」
形式ではない。
最後の確認。
「ありません」
エリアナは、揺れずに答える。
「王都は、自走可能です」
「だが、あなたがいれば更に安定する」
「それは依存です」
空気が、わずかに張る。
「依存は、短期的に安定します」
「長期的には、脆くなる」
王太子は、ゆっくり頷く。
「……線を引くのだな」
「はい」
「王都と、あなたの間に」
「いいえ」
エリアナは、首を振る。
「立場の間に、です」
断絶ではない。
境界だ。
「私は所属しません」
「ですが、要請があれば助言します」
「対等な関係で」
沈黙。
やがて、王太子は一礼した。
「理解した」
それは、受諾だった。
◇
会議が終わり、廊下に出る。
セドリックが隣に並ぶ。
「あなたがいなくなったあと」
「制度は揺れます」
「ええ」
「ですが、崩れません」
確信がある。
「……感謝します」
セドリックが言う。
「中央を、信じてくれた」
「信じたのではありません」
エリアナは微笑む。
「可能性を見ただけです」
それで十分だ。
◇
夕刻。
王城の門を出る。
見送りは最小限。
王太子も、セドリックも、城門の内側に立つ。
「戻らないのだな」
王太子が、最後に言う。
「戻りません」
「だが、断絶ではない」
「はい」
短い沈黙。
「ならば」
王太子は、静かに言った。
「王都は、あなたに恥じない選択を続けよう」
「それが何よりです」
一礼。
それで、すべてが終わる。
王妃にはなれなかった。
だが今、王都と対等に線を引ける。
戻らないと決めることは、
負けではない。
選択だ。
門の外へ一歩踏み出す。
王都の灯りは、背後で揺れている。
重くない。
もう、背負っていないからだ。
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