第43話 戻ってほしいという言葉
三十日のうち、残りは七日。
制度は定着しつつあった。
暫定一次決裁は拡張され、部局間の連絡は以前より速い。
調整局の机は、かつての半分の高さだ。
王都は、動いている。
その事実を確認した上で、王太子はエリアナを呼んだ。
今度は昼間。
公式ではないが、隠しもしない。
「順調だ」
「はい」
「想定以上に」
「王都の適応力です」
やはり、自分の功績にはしない。
王太子は、少しだけ笑った。
「君は最後までそれを言うのだな」
「事実です」
短い沈黙。
窓の外では、兵の隊列が入れ替わる。
現場判断で配置を微調整している。
「……三十日が終わる」
「はい」
「そのあと」
王太子は、視線を正面に戻す。
「正式に、王都に残る気はないか」
遠回しではない。
はっきりとした言葉。
「役職は問わない」
「官位も」
「形式も」
「必要なのは、構造を見られる人間だ」
それは、王妃という言葉を使わない誘いだった。
過去とは違う。
象徴としてではなく、
機能として。
エリアナは、静かに息を吸う。
感情は揺れない。
誇らしさも、怒りもない。
「ありません」
穏やかな即答。
王太子は、目を細める。
「理由を聞いても?」
「私は、中央の人間ではないからです」
「だが、中央を変えた」
「変えたのは王都です」
繰り返す。
「私は、期間限定の助言者です」
「それで終わらせるには、惜しい」
「惜しさで残るべきではありません」
王太子は、黙る。
説得はできる。
立場も、権限もある。
だが、それを使えば、意味がない。
「……戻ってほしい」
それでも、言った。
感情ではなく、
国家として。
エリアナは、ほんのわずかに目を伏せる。
かつてなら、揺れたかもしれない。
だが今は違う。
「私は、戻りません」
声は柔らかい。
「王都が変われると証明された今」
一拍置く。
「私が残る理由はありません」
それは拒絶ではない。
完成の確認だ。
王太子は、長く息を吐いた。
「……そうか」
否定しない。
怒らない。
「だが」
彼は続ける。
「繋がりは、残してほしい」
「切る理由はありません」
エリアナは頷く。
「王都が必要とするなら、助言はします」
「所属はしない」
「はい」
線は、明確だった。
王太子は、ゆっくりと立ち上がる。
「君は、もう私の下ではない」
「はい」
「だが、敵でもない」
「もちろんです」
視線が交わる。
過去は、そこにある。
だが、今は違う。
王妃にはなれなかった。
けれど――
戻らなくても、対等に立てる。
それが、今の位置だった。
窓の外、王都は静かに動いている。
彼女がいなくても。
だからこそ、
彼女は去れる。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




