第41話 もう同じ場所には立たない
呼び出しは、夜だった。
公的な会議ではない。
記録も残らない。
王城の一室。
装飾は控えめで、窓からは王都の灯りが見える。
「来てくれてありがとう」
王太子は、以前と変わらぬ穏やかな声で言った。
「助言者として参りました」
エリアナは、距離を保った位置で立つ。
互いに、椅子に座らない。
それが今の関係を正確に表していた。
「王都は、動き始めた」
「はい」
「想像以上に」
「それは王都の力です」
王太子は、わずかに笑う。
「君は、自分の功績を取らないな」
「設計はしましたが、決めたのは王都です」
沈黙が落ちる。
過去の話題には触れない。
婚約破棄も、あの日の判断も。
だが、互いに忘れてはいない。
「……あの時」
王太子が、ゆっくりと口を開く。
「私は、王妃に必要なのは華だと思っていた」
エリアナは、静かに聞く。
「国の象徴としての強さだと」
「間違いではありません」
否定しない。
「だが、今は違う」
王太子の視線は、窓の外へ向く。
「国を動かすには、構造がいる」
「はい」
「君は、それを持っていた」
評価は、静かだった。
悔恨ではない。
後悔でもない。
認識だ。
「戻る気は、本当にないのか」
直接的な問い。
エリアナは、少しだけ考える。
感情は揺れない。
怒りもない。
「ありません」
はっきりと答える。
「なぜだ」
「私は、今の立場で十分だからです」
王都に縛られず、
リュネアに縛られず。
「王妃になれなかったことを、悔いていないか」
「いいえ」
即答だった。
「なれなかったから、今があります」
王太子は、長く息を吐いた。
「……私は、君を失ったと思っていた」
「失っていません」
エリアナは、穏やかに言う。
「立場が変わっただけです」
それは、優しさでも慰めでもない。
事実だった。
「あなたの場所は、ここです」
「そして君は」
「別の場所です」
視線が交わる。
もう、同じ未来を描くことはない。
だが、敵でもない。
「王都は、変わる」
王太子が言う。
「変わらなければ、ここまで来ません」
「君の設計が、残る」
「王都の選択が、残ります」
言葉を訂正する。
それが、彼女の矜持だ。
しばらく、沈黙が続いた。
重くはない。
だが、深い。
「……ありがとう」
王太子が、静かに言った。
過去への謝罪ではない。
今への感謝でもない。
ただの言葉。
「こちらこそ」
エリアナは一礼する。
それで、十分だった。
廊下に出ると、夜風が流れる。
かつて、この城で未来を思い描いたことがある。
だが今は違う。
王妃にはなれなかった。
そして――
ならなくてよかったと、心から思える。
王都の灯りが、揺れている。
同じ場所には、もう立たない。
それでいい。
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