第37話 同じ能力、違う設計
初日の午後、エリアナは政務院調整局の執務室に通された。
壁一面に並ぶ書架。整理された案件箱。色分けされた進行札。
整然としている。
中央らしい、と彼女は思った。
「まずは現状説明を」
セドリックが席を勧める。
向かい合う形になるが、距離は保たれている。
「物流混乱は三か所。治安摩擦は二か所。いずれも原因は部局間の優先順位不一致です」
彼は資料を差し出す。
簡潔で、的確だ。
エリアナは目を通しながら言う。
「あなたは、有能ですね」
唐突な言葉に、セドリックの手が止まる。
「……評価として受け取ります」
「事実です」
数字も把握している。構造も理解している。
問題点も認識している。
それでも、王都は滞っている。
「ですが」
エリアナは紙を閉じる。
「あなた一人で、抱えすぎています」
セドリックは、わずかに眉を動かした。
「中央とは、そういうものです」
「違います」
即座に否定する。
「中央だからこそ、分散させるべきです」
静かな対立が、そこに生まれる。
「分散は混乱を招きます」
「集中は渋滞を招きます」
言葉は鋭いが、感情はない。
「王都は巨大です」
セドリックは言う。
「地方都市とは規模が違う」
「規模が違うから、なおさらです」
エリアナは、視線を逸らさない。
「今の構造では、あなたが止まれば王都も止まる」
「……誇張です」
「いいえ」
彼女は、静かに続ける。
「あなたが三日不在になった場合、決裁は滞りますか」
セドリックは、即答できなかった。
代行はいる。
だが、最終判断は彼に戻る。
完全には、回らない。
「……否定はできません」
「それが限界です」
沈黙が落ちる。
セドリックは、指先で机を軽く叩いた。
「あなたの都市では、どうしていますか」
「決める人を複数持つ」
「責任は」
「分散させる」
「混乱しないのですか」
「混乱します」
あっさりと答える。
「ですが、止まりません」
それが違いだった。
王都は、止まらないために統制する。
リュネアは、止まらないために分ける。
「あなたは」
セドリックが静かに言う。
「中央の構造を壊すつもりですか」
「いいえ」
エリアナは首を振る。
「壊しません」
「では?」
「重さを、減らします」
壊すのは簡単だ。
だが、王都は国家の中枢。
必要なのは、崩壊ではなく再設計。
「まずは」
エリアナは立ち上がる。
「あなたの机から、三件、決裁を外します」
セドリックの目が細まる。
「誰に渡すと?」
「現場に」
「暴走します」
「一度は」
淡々とした答え。
「それを、見ます」
セドリックは、ゆっくり息を吐いた。
「王都で失敗を可視化するのは、危険です」
「承知しています」
「それでも?」
「変わる覚悟があると聞きました」
王太子の言葉を、引用する。
セドリックは、しばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「……三件、選びましょう」
「私が選びます」
即答。
彼は、初めてわずかに笑った。
「強引ですね」
「三十日しかありません」
時間は短い。
衝突は避けられない。
だが、これは敵対ではない。
思想の違いだ。
同じ能力。
違う設計。
王都がどちらを選ぶかは、まだ分からない。
だが、初めて中央は“自分以外の設計”を目の前にしていた。
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