第35話 受け入れるという決断
王都に返答が届いたのは、夕刻だった。
封蝋は簡素だが、重い。
セドリックは執務室でそれを受け取り、静かに開封した。
読み進めるうちに、眉がわずかに動く。
「……復帰なし」
声は小さい。
条件は明確だった。
三十日間の滞在。
助言のみ。
決裁権なし。
名を前面に出さない。
依存構造の再生産には協力しない。
挑発ではない。
だが、甘くもない。
すぐに王太子の執務室へ向かう。
「返答です」
王太子は受け取り、最後まで目を通した。
読み終えたあと、すぐには口を開かない。
「……厳しいな」
「はい」
「だが」
王太子は、ゆっくりと紙を机に置く。
「正しい」
セドリックは、わずかに目を細めた。
「受け入れますか」
「受け入れなければ、来ない」
「来なければ、現状は続きます」
「そうだ」
王太子は、窓の外を見た。
王都は美しい。
整然とした建物、広い通り、規律ある兵。
だが、その整然さの中で、判断は滞っている。
「……私は」
王太子が、静かに言う。
「彼女を失ったとき、自分は正しいと思っていた」
セドリックは沈黙を保つ。
「王妃に必要なのは、華と決断力だと」
「今は?」
「違うかもしれない」
それ以上は語らない。
感情の清算をする場ではない。
「受け入れますか」
セドリックが、もう一度問う。
「受け入れる」
即答だった。
「名を出さないという条件も?」
「構わない」
「決裁権なしも?」
「当然だ」
王太子は、短く息を吐いた。
「助言だけで足りるなら、それで十分だ」
それは、王都の覚悟だった。
セドリックは、深く頷いた。
「では、正式に受諾を」
「頼む」
夜。
返答の文書が整えられる。
条件は、すべて受け入れる。
三十日の滞在を正式に要請する。
付け加えは、ひとつもない。
封蝋が押される。
中央が、譲歩した瞬間だった。
王太子は、書状を見つめながら呟く。
「助言だけで、王都が変わるか」
「変わらなければ」
セドリックは、静かに言う。
「我々が変わるしかありません」
王太子は、短く笑った。
「それも、正しいな」
書状は、夜のうちに出立した。
王都は、初めて自分から“依存しない条件”を受け入れた。
それは敗北ではない。
だが、確かな転換だった。
三日後。
彼女が来る。
戻るためではなく、
中央を試すために。
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