第33話 中央の限界
王都は、静かに混乱していた。
暴動が起きているわけではない。
炎が上がっているわけでもない。
だが、価格は上がり、荷は滞り、指示は重なっていた。
「この命令は誰の承認だ」
セドリック・アルヴァーンは、机の上の書類を指で叩いた。
「第三補給局です」
「なぜ調整局を通さない」
「緊急対応と判断したようで」
彼は、深く息を吐く。
緊急。
例外。
暫定。
その言葉が増えるほど、中央は鈍る。
王都の構造は、強固だ。
命令は明確で、責任は上に集まる。
決裁は速い。記録も完璧。
だが――
速いのは、上に届くまでだ。
「南区の価格急騰、原因は」
「流通の一部が滞った影響です」
「滞りの原因は」
「補給局と警備局の判断不一致」
セドリックは、目を閉じた。
どちらも正しい。
補給局は物を動かしたい。
警備局は治安を守りたい。
だが、両者を横断する権限は、自分の机にしかない。
それが、中央の強みであり――
限界でもあった。
扉が開く。
「殿下がお呼びです」
王太子の執務室は、過度に華美ではない。
だが、空気は重い。
「セドリック」
「はい」
「状況は」
「悪化はしていません」
「改善もしていない、か」
王太子は、短く頷いた。
「リュネアの件は」
「返答待ちです」
「三日だったな」
「はい」
王太子は、机の上の地図を見つめる。
「辺境が安定し、中央が揺らぐとは」
自嘲でも、怒りでもない。
事実の確認だ。
「……彼女は、戻ると思うか」
名は出さない。
「分かりません」
セドリックは、正直に答える。
「ですが、戻らない可能性の方が高い」
「なぜだ」
「戻る理由がないからです」
王太子は、黙った。
婚約破棄の日のことは、互いに触れない。
「助言だけでも、欲しい」
「そのための要請です」
「条件を出してくるだろうな」
「間違いなく」
王太子は、ゆっくりと椅子にもたれた。
「受け入れるべきか」
「受け入れなければ、何も変わりません」
セドリックは、迷いなく言った。
「中央の構造は、強い」
「だが、重い」
その重さを、彼は知っている。
自分がいなければ止まる。
だから、止められない。
「……彼女は」
王太子が、静かに言う。
「中央を、どう見ると思う」
セドリックは、一瞬考えた。
「未成熟、と」
「厳しいな」
「事実です」
沈黙。
窓の外には、王都の灯りが広がっている。
規則正しく、整然と。
だが、その整然さの裏で、判断は渋滞している。
「三日後だな」
「はい」
セドリックは、深く息を吐いた。
助言を求める側に回る。
それは敗北ではない。
だが、認めるには勇気がいる。
中央は、強い。
だが、完璧ではない。
三日後。
王都は、選択を迫られる。
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