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婚約破棄されたので王都を出ましたが、なぜか辺境都市を立て直し、王都より発展しています。  作者: はねださら


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第25話 同じ方向を見る

 夜の執務室は、静かだった。


 窓の外では、街の灯りが点々と揺れている。

 遠くの喧騒は届かない。


 机の上には、二組の書類が並んでいた。


 エリアナは、左側の束に目を通し、不要な紙を抜く。

 ガイウスは、右側の束を黙って整理している。


 会話は、ない。


 だが、気まずさもなかった。


「……この数字」


 ガイウスが、ぽつりと口を開く。


「南区の?」


「ええ」


 エリアナは、視線を落としたまま答える。


「少し、想定より早いですね」


「問題か」


「いいえ」


 それだけだった。


 ガイウスは、それ以上聞かない。

 エリアナも、説明しない。


 必要なことだけが、共有されている。


 紙の音が、しばらく続く。


 ふと、ガイウスが立ち上がった。


「……今日は、ここまでにしよう」


「はい」


 理由を聞かれることもない。

 理由を言う必要もない。


 エリアナは、書類を揃えた。


「明日は?」


「街は回る」


 短い言葉。


「念のため、昼に一度確認を」


「分かりました」


 それで、十分だった。


 窓際に立ち、二人で街を見る。


 灯りの数は、以前より増えている。

 だが、騒がしくはない。


「……変わったな」


 ガイウスが言う。


「はい」


「君が来た頃とは、別の街だ」


 エリアナは、少しだけ考えた。


「人が、変わりました」


「街じゃなくて?」


「街は、人ですから」


 ガイウスは、苦笑した。


「相変わらずだ」


 沈黙。


 だが、それは居心地がいい。


「……次は」


 ガイウスが、ふと呟く。


「どうするつもりだ」


 エリアナは、すぐには答えなかった。


 レティシアの言葉が、脳裏をよぎる。


 ――ここ専用ではない。


「まだ、決めていません」


「そうか」


 それ以上、踏み込まない。


 ガイウスは、視線を街に戻した。


「どこに行っても」


 小さな声だった。


「……ここは、残る」


 エリアナは、その言葉を聞いていたが、返さなかった。


 代わりに、同じ景色を見続けた。


 同じ方向を。


 それは、約束ではない。

 告白でもない。


 ただ、確認だった。


 夜が更け、灯りが一つ、また一つと消えていく。


 王妃にはなれなかった。

 だが今、自分は“隣に立つ人”を選び始めている。


 言葉はいらない。

 同じ方向を見られるなら、それでいい。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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