第24話 確認という名の答え
レティシアの滞在は、三日目に入っていた。
だが彼女は、依然として城に長く留まることはなかった。
朝は市場へ行き、昼は倉庫街、夕方には巡回所を覗く。
誰かを呼びつけることも、特別扱いを求めることもない。
「……確認は、ほぼ終わりました」
そう言ったのは、三日目の夕刻だった。
執務室には、ガイウスとエリアナだけがいる。
「結論は?」
ガイウスが尋ねる。
レティシアは、手にしていた小さな手帳を閉じた。
「この街は、機能しています」
簡潔な言葉だった。
「誰かが欠けても、致命的にはならない」
それは、都市評価として最も高い部類に入る。
ガイウスは、わずかに息を吐いた。
「評価は?」
「“安定”」
レティシアは続ける。
「だが、それだけではありません」
視線が、エリアナに向く。
「仕組みが、人に依存していない」
「それは、理想ではありますが……」
「実現できている例は、ほとんどありません」
レティシアは、淡々と事実を述べる。
「多くの都市は、有能な誰かに頼ります」
「その誰かが倒れれば、街も揺らぐ」
「ですが、リュネアは違う」
彼女は、少し言葉を選んだ。
「ここでは、判断が共有されています」
エリアナは、静かに頷いた。
「それが、狙いでした」
「でしょうね」
レティシアは、初めて小さく笑った。
「だから、私は“確認”だけで済みました」
「確認、とは?」
ガイウスが聞く。
「この街が、あなた一人で回っていないかどうか」
レティシアは、はっきり言った。
「……結果は?」
「あなたは、いなくても問題ない」
ガイウスは、その言葉を噛みしめるように黙った。
エリアナもまた、すぐには言葉を返さなかった。
少しだけ、胸が締めつけられる。
だが、それ以上に――
安堵があった。
「誤解しないでください」
レティシアは、続ける。
「それは、あなたの価値が低いという意味ではない」
「むしろ逆です」
彼女は、静かに言葉を置く。
「あなたは、この街を“卒業”させた」
その表現に、エリアナは目を上げた。
「都市を、ですか」
「ええ」
レティシアは頷く。
「保護が必要な段階を終えた、という意味で」
ガイウスが、苦笑する。
「随分と、寂しい言い方だ」
「成長とは、そういうものです」
レティシアは、感情を交えず答える。
「必要とされなくなることは、失敗ではありません」
エリアナは、静かに息を吐いた。
その夜。
レティシアは、出立の準備をしていた。
「もう行かれるのですか」
「はい」
エリアナが声をかけると、彼女は頷く。
「報告書は、簡潔に書きます」
「どう書くのです?」
レティシアは、少し考えてから答えた。
「“特筆すべき人物なし”」
エリアナは、思わず微笑んだ。
「それは……」
「最大の賛辞です」
レティシアは、真顔で言った。
「一人に依存しない街は、長く生きます」
出立前、レティシアは一度だけ振り返った。
「エリアナ」
「はい」
「あなたは、ここに留まる必要はありません」
それだけ言って、去っていった。
夜。
エリアナは、執務室で一人、灯りを落とす。
机の上には、何もない。
判断も、指示も、今日はいらない。
――街は、回っている。
王妃にはなれなかった。
だが今、自分は“役目を終えられる人間”になっている。
それは、
次の場所へ進めるということでもあった。
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