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王妃にはなれませんでしたが、婚約破棄後に街を立て直したら評価が逆転しました  作者: はねださら


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第20話 判断の代償

 異変は、夜明け前に起きた。


 南区の倉庫街で、小競り合いがあった。

 盗難未遂――それ自体は珍しくない。だが今回は、刃物が出た。


「怪我人は?」


 ロルフの問いに、副官が首を振る。


「軽傷が一人。命に別状はありません」


「よし」


 ロルフは、即座に判断を下した。


「南区の夜間通行を制限する。巡回を倍にしろ」


「商人から反発が出ます」


「出るだろうな」


 それでも、迷いはなかった。


「今は、治安を優先する」


 命令は即座に実行された。

 兵士が増え、通りに灯りが増える。


 結果は、はっきり出た。


 その夜以降、盗難は止まった。

 喧嘩も、目に見えて減った。


 ――判断としては、正しい。


 だが、翌日。


「急に通れなくなったんだが!」


 商人の声が、市場に響いた。


「夜の搬入ができない。損失だ!」


「説明もなしに制限するなんて!」


 不満は、連鎖する。


 ロルフは、城に呼び出された。


「やりすぎだ」


 バルドが、苛立ちを隠さず言う。


「治安は良くなったが、商いが滞っている」


「短期的な話だ」


 ロルフは、低い声で返す。


「刃物が出た以上、放置できなかった」


「それは分かる」


 バルドは、腕を組む。


「だが、説明がなかった」


 ロルフは、言葉に詰まった。


 説明――。

 確かに、していない。


「……俺の判断だ」


 それだけ言った。


 エリアナは、会議の端で黙っていた。

 視線を上げることも、口を挟むこともない。


 ――介入しない。


 それが、彼女の役割だった。


「住民からも、不安の声が出ている」


 別の管理者が言う。


「夜に動けない理由が分からない、と」


「理由は一つだ」


 ロルフは、机に手を置いた。


「危険だからだ」


 正論だった。


 だが、正論は、必ずしも人を納得させない。


「……説明の場を設けよう」


 ガイウスが、ようやく口を開いた。


「公開で、だ」


 ロルフは、一瞬だけ迷った。


「俺が?」


「お前が判断した」


 ガイウスの声は、淡々としている。


「なら、お前が説明する」


 逃げ道は、なかった。


 その日の夕方、広場に人が集まった。


 商人、住民、兵士。

 皆、ロルフを見る。


 彼は、深く息を吸った。


「……昨夜、南区で刃物が出た」


 ざわめき。


「死人は出ていない。だが、次は分からない」


「だから、夜間通行を制限した」


 誰かが、声を上げる。


「それで、俺たちの仕事はどうなる!」


 ロルフは、目を逸らさなかった。


「困るだろう」


 正直だった。


「だが、命より重い仕事はない」


 別の声。


「いつまでだ!」


「分からない」


 また、ざわめき。


「……分からないからこそ」


 ロルフは、言葉を続ける。


「三日だ。三日で、状況を再確認する」


「それ以上は、延ばさない」


 その言葉に、空気が少し変わった。


「判断を、約束に変える」


 ロルフは、そう締めくくった。


 完全な理解ではない。

 だが、納得は生まれ始めていた。


 遠くで、エリアナはそれを見ていた。


 ――よくやった。


 そう思ったが、口には出さない。


 夜。


 ロルフは、一人で城壁を歩いていた。


「……疲れた」


 呟いたとき、足音がした。


「お疲れさまです」


 エリアナだった。


「来るな」


「来ません」


 彼女は、少し離れて立つ。


「判断は、正しかったです」


「反発も、な」


「はい」


 エリアナは、頷く。


「それが、代償です」


 ロルフは、苦笑した。


「楽じゃないな」


「楽な判断は、脆いです」


 どこかで聞いた言葉だ。


「……次は、説明を先にする」


「それで、十分です」


 エリアナは、それ以上何も言わなかった。


 ロルフは、夜の街を見下ろす。


 治安は、守れた。

 信頼は、少し削れた。


 だが――壊れてはいない。


 判断とは、そういうものだ。


 王妃にはなれなかった女は、

 今日も、判断しないことで街を支えている。


 そして、街はまた一つ、

 自分の重さを知った。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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