第18話 うまくいく、という感触
変化は、静かに始まった。
朝の市場で、商人たちが少し早く集まっている。声は低く、だが動きは速い。以前のような迷いは見えなかった。
「北回りで、今日一便いける」
「費用は上がるが、止まるよりはいい」
「次は、南側も試す」
判断は、その場で下されていた。
エリアナは、少し離れた場所からその様子を眺めていた。声をかけることはしない。聞かれもしない。
――それで、いい。
城に戻ると、ロルフがすでに待っていた。
「巡回ルートを変更した」
「問題は?」
「今のところはない」
短いやり取りだ。
だが、その中に迷いはなかった。
「判断は?」
「俺だ」
昨日と同じ言葉。
だが、今日は重さが違う。
昼前、商人会から報告が上がる。
「一部の流通は回復しました」
バルドの声は、落ち着いていた。
「完全ではありませんが、致命傷は避けられています」
ガイウスが、報告書に目を通す。
「損失は?」
「出ています」
バルドは、はっきりと言った。
「ですが、見通しは立ちました」
その言葉に、室内の空気が少しだけ緩む。
エリアナは、黙って数字を確認していた。
――成功だ。
だが、勝利ではない。
「エリアナ」
ガイウスが、ふと声をかける。
「どう見る」
彼女は、少し考えてから答えた。
「再現可能です」
「それは、成功と言っていいか」
「はい」
即答だった。
「一度きりで終わらないからです」
ロルフが、低く笑う。
「分かりづらいな」
「派手ではありませんから」
「だが、悪くない」
それで十分だった。
午後、街を歩くと、昨日より人の動きが多い。店先で話し合う姿も、どこか落ち着いている。
「今日は、早く決まったね」
ミーナが、箱を運びながら言った。
「そうね」
「前は、誰かの返事を待ってた」
エリアナは、その言葉に足を止めた。
「今は?」
「今は、自分たちで決めてる」
それは、何よりの成果だった。
夕方、ガイウスが執務室で言った。
「……正直に言う」
「はい」
「君が決めないことで、街は速くなった」
エリアナは、小さく息を吐いた。
「よかったです」
「少し、悔しいな」
「正常です」
彼は、苦笑する。
「俺たちは、指示される方が楽だった」
「楽な構造は、脆いです」
「分かっている」
しばらく、沈黙が落ちた。
「……完全には、戻っていないな」
ガイウスが言う。
「はい」
「だが、進んでいる」
「それで十分です」
夜。
エリアナは、記録を更新していた。
――《再配置後の判断:機能》
その下に、小さく書き足す。
――《損失あり。許容範囲内》
完璧ではない。
だが、続けられる。
それが、この街の今の強さだ。
王妃にはなれなかった。
だが今、自分は“うまくいく感触”を、街と共有している。
それは、誰かに与えられる評価より、
ずっと確かな手応えだった。
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