第12話 選ばないという答え
王都への返書は、簡素なものだった。
飾り立てた言葉も、感情的な表現もない。
事実と意思だけを、淡々と記した文面。
エリアナは、それに封をしながら、深く息を吐いた。
これで、終わる。
――少なくとも、一つの区切りは。
使者が城を発ったのは、昼過ぎだった。
街の人々は、そのことを特別視しない。
いつも通りに働き、話し、歩いている。
それが、今のリュネアだった。
夕刻、ガイウスが執務室に顔を出した。
「返事は出したか」
「はい」
「内容は?」
「お断りしました」
ガイウスは、一瞬だけ目を閉じ、短く頷いた。
「そうか」
それ以上、何も聞かなかった。
夜になり、王都では。
王太子レオンハルトは、返書を静かに読み終えた。
拒絶の言葉は、どこにもない。
だが、そこに書かれている意思は、揺るぎなかった。
「……そうか」
彼は、机に書簡を置く。
怒りは、なかった。
悔しさも、薄い。
あるのは、理解だった。
「彼女は、王妃向きではなかった」
それは、今も変わらない。
「だが――」
王都に、必要だった。
それもまた、事実だ。
宰相が、慎重に口を開く。
「再度、条件を変えて打診を?」
「しない」
レオンハルトは、はっきりと言った。
「選ばれなかったのではない。彼女は、選ばなかった」
その違いは、重い。
「代わりは、探す」
「はい」
だが、誰もが分かっていた。
完全な代わりなど、存在しないことを。
一方、リュネアでは。
エリアナは、いつも通り机に向かっていた。
特別な達成感も、喪失感もない。
ただ、少しだけ肩の力が抜けている。
「終わったか」
ガイウスが、声をかける。
「一つは」
「後悔は?」
「ありません」
即答だった。
ガイウスは、ふっと息を吐く。
「……この街は、運がいいな」
「そうでしょうか」
「お前が残った」
エリアナは、少し考えた。
「私が残ったのではありません」
「?」
「私が、ここを選びました」
その言葉に、ガイウスは何も言えなくなる。
選ばれるのではなく、選ぶ。
それは、彼女が王宮でできなかったことだ。
翌朝。
街は、いつも通り動いていた。
配給は定刻に始まり、
市場は賑わい、
兵士は巡回に出る。
エリアナは、その様子を城の窓から眺めた。
王妃にはなれなかった。
それは、もう変わらない事実だ。
だが。
王妃でなければ、できないこともある。
王妃でなくては、できないこともある。
そして――
王妃でないからこそ、できることもある。
エリアナは、静かに微笑んだ。
この街は、彼女のものではない。
彼女が支配する場所でもない。
それでも。
ここで生きることを、彼女は選んだ。
それで、十分だった。
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