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Prologue
あれはまだ十歳に満たない頃。近くの廃工場に等身大の人形が棄てられているのを見た事があった。
若葉色のレインポンチョを被ったその人形はまるで五歳くらいの男の子のようで、乱雑に積まれた鉄パイプの束を背にして座り曇天を見つめていたのだけれど、その右眼の眼球はこぼれ落ち、眼窩からは一輪の黒い花がまっすぐに茎を伸ばして咲いていた。
燻る炭のように少しの赤が交じった黒い花びらは、廃材置場に溜まっていた汚泥を吸って咲いたのではないかと思うほど禍々しくも美しくて、もともと、コンクリートのわずかな隙間にも咲こうとする雑草が好きだった私は、その花の生命力にすっかり心を奪われたのだった。
それ以来、私は花が好きで、見た目の美しさよりもその生きざまに魅了された。どんな環境でもただ空へ向かって伸びるのみ。生きるために他の個体を捻じ伏せたり殺したりする動物とは違って、ただただ己が成長することのみに専念する。
それこそが花の真の美しさだと思った。




