『社交界の薔薇』は妹に婚約者をとられたのち、騎士団長に求婚されまして 〜滅多に笑わないはずの彼、何で笑ってるんですか!?〜
初めまして、葵生です!
今回、新たに短編を新作として投稿させていただきました。
どうか、皆さまが楽しんでくださることを祈りつつ・・・。
よろしくお願いします。
「あなたとの婚約を破棄させていただく。クラリッサ・ファルーネ・ヴィシェロエ公爵令嬢」
美しく着飾り、自分が最も綺麗に見えるように化粧を施し、高いヒールで整えられた会場を悠々と踏みしめる淑女たち。
びしっと正装を着こなし、髪をワックスで固め、光を放つように磨かれた革靴を履きこなす紳士たち。
たくさんのドレスが花開くようにダンスを舞う人びとが集う夜会ははっと息をのむほど美しい光景だった。優雅に奏でられる音楽も、その雰囲気を作り上げるのに一役買っている。
そして、婚約破棄劇も、また一役買っていた—————。
少し動けば、ふんわりと広がる裾は、金糸の刺繍が刺してある。布地の色は神々しさを感じさせる高貴な水色。オフショルダーのそのドレスは、父に仕立ててもらった最高級品の品である。
それを纏い、優美に微笑みを絶やさずに人びとの挨拶を受けているのは、わたし、クラリッサ・ファルーネ・ヴィシェロエだ。
ヴィシェロエ公爵家は、クラーツ王国の筆頭公爵家である。その長女として、『社交界の薔薇』と君臨するのが一応わたしだ。
しかし、わたしよりも可愛らしく愛らしい容姿と、明るく人との社交を得意とするわたしの妹、ローズマリーがいた。
彼女がほんのりと笑えば、大概の男性は気を良くする。あら、まあ!という鈴を転がしたような声を聞けば、大概の男性は頬を赤らめる。少女じゃあるまいに。そして、極めつけは彼女が上目遣いで男性を見上げれば、大概の男性は彼女に恋をする。
ローズマリーの可愛らしさとは反対に、わたしにはそう言った取り柄はない。だから、影で妹に比べて、姉は・・・という噂をされているのは予想できるし、そうだろうなと思ってしまうのも仕方がないのだ。
「お姉様!」
友人たちが華やかな会話を交わしているのを微笑みながら、聞いている振りをしていると、後ろから可憐な声が聞こえた。
くるっと振り返ると、ローズマリーが愛らしい笑みを浮かべていた。
「あら。ローズマリー、どうかなさって?」
わたしは社交界の薔薇。自分に言い聞かせ、できるだけ、優雅に、落ち着いて話しかける。
ローズマリーは、ニッコリと微笑むと、くるりと振り返った。つられて、視線をやると、そこには金髪に水色の瞳の王太子殿下ベルートがいた。
「王太子殿下」
呼びかけ、慌てることなくすっとカーテシーをする。
「我が国の輝く星であらせられる王太子殿下にご挨拶申し上げますわ」
先ほどまで話していた友人たちも、ならってわたしの後ろでカーテシーをしているはずだ。
「ありがとう。皆、顔を上げてくれ。さて、我が婚約者殿。話がある」
王太子ベルートはわたしの婚約者でもあった。わたしは、微笑みを浮かべたままに小首を傾げ、少しだけ悩む。それから、小さく頷いてみせた。
「何でしょうか?」
王太子は、すうっと息を思いっきり吸うと。
「あなたとの婚約を破棄させていただく。クラリッサ・ファルーネ・ヴィシェロエ公爵令嬢」
一瞬、消えた音。そして、徐々に戻ってきた聴覚に入ってきたのは大きなざわめきだった。
わたしは、笑みを崩すことなく、ベルートに尋ね返した。
「一体、どういうことでございましょうか?詳しいことをご説明していただきたく存じますわ。ああ、けれど、ここでは少し都合が悪いでしょうから、悪いのですけれど、お部屋を貸していただけません・・・」
か?と言おうとしたのを、ベルートが即座に遮った。
「その必要はない」
「—————さようでございますか。では、お話しくださいますのね?」
にっこりと笑ってみせる。決して、屈しはしませんわということを意思表示するように。
ベルートはぐっと唇を噛み締めると、覚悟を決めたようにわたしの方を見つめた。わたしも、見つめ返す。どうぞ、話して?と言う風に。
「好きな女性が、できたんだ」
「なるほど。それは、ローズマリーでしょうか?」
即座に切り返すと、ベルートは流石に驚いたようだった。
「何故、分かる?」
「あら。長年連れ添ってきた婚約者様と我が妹のことですもの。分かりますわ」
嫣然と微笑むと、わたしはローズマリーに目をやった。すると、ローズマリーはううっ、ふうっ、と泣き始めた。大きな瞳は潤み始め、ぎゅっとベルートの腕を掴む。
「ゆ、許してくださいますか?お姉様。わたくし、もうこの気持ちを抑えられませんでしたの・・・。ベル様は悪くはありませんわ!わたくしが悪いのです」
妹の泣きながらの弁解に、わたしも少しのショックで泣きそうになるのをこらえ、笑顔をつくり直した。
少し、声が震えてしまっていたかもしれない。
「そうですのね。殿下。今まで、お支え致していた分、きっと妹はしっかりとやり切ってくれるでしょう。ローズマリー。お幸せにね。クラリッサ・ファルーネ・ヴィシェロエは、婚約破棄を承りますわ」
そう言って、きちっとカーテシーで締めくくる。
それから、振り返らずにわたしは会場を後にしようとした。
そのときだった。
「待ってくれ」
少し低いけれど、良く通る美しい声。魅力的な響きと、どこか感じられる圧にあらがえず、わたしは立ち止まってしまった。
「ベルート王太子殿下。本当に、婚約破棄なさるのですね?」
振り返ると、そこにはこの王国の騎士団を纏める騎士団長である、セドリック・シューティエがいた。紺色の髪に銀色の瞳を持つ、シューティエ公爵家の次男だ。
滅多に笑わない男としても有名だし、王国一を争う美貌でも有名だ。
騎士にしては、細い身体をしており、どこか洗練された空気を醸し出している。
ベルートは、少しびくりと震えながらも、「そうだ」とはっきりと答えた。
「そうですか。では、ヴィシェロエ公爵令嬢」
唐突に名前を呼ばれたわたしは、驚きつつも、落ち着いて返答する。
「はい。何でしょうか、シューティエ騎士団長様」
そう返すと、彼は頬をほころばせた。滅多に笑わない男として有名だったはずなのに、と貴婦人方がざわめき始める。
「名前をご存知でいてくださったんですね」
「もちろんですわ。あなた様は有名でいらっしゃいますから」
「そうでしたか・・・。嬉しい限りです。改めて、ヴィシェロエ公爵令嬢。私、セドリック・シューティエは貴女様に婚約の申し込みをさせていただきたく存じます。一生、貴女を愛すると誓います」
突然の愛の告白に、流石のわたしも頭が真っ白になった。
周りの観衆も息をのんでいる。わたしは、唇をなんとか動かすと、答えを口にした。
「分かりました。わたくしは、まだあなたのことを殆ど知りません。それでも、良いのならば、喜んでお受け致します」
彼の気持ちが嬉しかった。一生愛してくれるという確証はない。けれど、彼の夜空に輝く星のような瞳を見て、受けようという気持ちが一瞬にして湧き出てきたのだ。
彼は、目を丸くすると、ふわっと笑って——————。
「嬉しいです、ありがとうございます」
と喜びを現してくれたのだった。
***
婚約してから三ヶ月後が経った。
突然、求婚してくれたセドリックには、ものすごく驚いた。今まで、夜会で会ったとしても、それほど話したことはなかったからだ。
婚約者として過ごしていく中で、とっても穏やかで優しい人だということは分かった。そして、よく笑うことも。
婚約してから、今までどうして求婚してくれたのか、聞いたことはなかった。
彼は優しいから、もしかしたら、優しさ故かもしれないと思うと、怖く思っていたのだ。
けれど、どうしても気になり、わたしはとうとう聞いてみようと決心した。
「どうして、わたくしに求婚をしてくださいましたの?今まで、接点などなかったでしょう?」
わたしの穏やかな微笑みとともに発せられた質問にセドリックは、ニッコリと笑った。
「貴女を愛していたからだ、クラリッサ」
「まあ、わたくしを?どうして・・・いつから?」
セドリックの唐突な告白に、わたしは頬を赤らめながらも、質問を重ねていく。セドリックは、参ったなと言いながらも、笑って答えてくれた。
「貴女はいつでも、華やかに『社交界の薔薇』として振る舞っていた。けれど、その実、貴女は周りをよく見て、周りをよく考えて行動していただろう?その内面の美しさにいつの間にか惹かれていた・・・というのが表向きの理由だな」
惹かれていたの部分まで、はにかんで聞いていたけれど、表向きのところで、?がたくさん浮かんだ。
「表向き・・・?」
まさか、この人はわたしをお飾りの妻にするつもりだろうか、と少し身構える。セドリックは柔らかく微笑むと、あっさりと答えを言った。
「貴女とは、幼い頃に一度出会ったことがあるんだ」
「・・・え?わたくしと?」
「ああ。貴女は憶えていないだろうが、私にとっては天使のように美しい少女が舞い降りてきたと思ったものだが」
「ひゃあ・・・」
流石に聞いている側は、耳が恥ずかしくなってくる。思わず、耳を押さえると、セドリックにはずされてしまった。
「憶えていないだろうか。貴女は恐らく、六歳のころの話なのだったと思う」
「ろく、さい・・・?」
わたしは、はっとした。憶えている。わたしは、小さなころから、よく見る夢があった。
「そうだわ・・・。セドリック様とお会いしましたわね。—————アルドナ伯爵夫人のお茶会で」
わたしの指摘に、セドリックが今までに見たことがないような優しい光を瞳に宿して、わたしを見つめた。
「アルドナ夫人のお茶会で、セドリック様はわたくしのお話をいつまでも聞いてくださっていましたわね。まだ、六歳で話していることは何の脈略もないことなのに」
セドリックは、微笑を浮かべると、口をゆっくりと開いた。
「そうだな・・・。将来、自分が完璧な淑女になったとき、孤独を感じそうで怖いと泣いていた貴女を見たんだったな」
わたしは、くすっと笑ってしまった。
その通り。セドリックと出会ったとき、わたしはまだ六歳の幼い少女だった。もちろん、今も幼いの分類に入るのだろうが、昔は見えない将来に不安を拭いきれず、一人のときはよく涙を零していたものだ。
「ふふっ、懐かしいですわ」
「もう、恐怖はなくなったのか?」
少しの悪戯心と、心配を綯い交ぜにしたような、そんな表情をして聞くものだから。
わたしは、少し笑って、彼の耳にささやいた。
「もう、あなたと出会えましたから、平気ですわ。セドリック様」
読んでくださり、ありがとうございました。
実は、このお話、裏話がありまして—————。
よろしければ、今、一話のみ投稿している、連載版を今後も続々と投稿していこうと思いますので、そちらでご確認くださいませ。
予想はこうかなあ、とかある方はぜひ感想で教えてください!笑
連載版はこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n0354kw/
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