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第七話 策士、策に溺れる


 ディアがにっこりと微笑みを浮かべ、エディに『婚約破棄をされました』と声を掛けて来たのは、ディアとエディが密室で悪巧みをした翌日の事である。その言葉を聞いたルディの第一声は『は?』であった。『は?』ではあったのだが。


「……そっか」


 そんなディアの言葉に、ルディは少しだけ悲しそうな微笑を浮かべながらその頭を軽く撫でる。


「………………は?」


 そんな突然のルディの行動に、ディアの陶磁器の様な真っ白な肌が『ポン』と音を立てそうなほどに深紅に染まる。


「る、るでぃ!? え、ちょ……い、一体、何を!?」


「……大変だったね、ディア」


 よしよしとまるで幼子にする様に撫でるルディに、顔を真っ赤にしたまま『あうあう』と言葉にならない声を出しながら潤んだ瞳で見つめるディア。興奮と緊張で知らず知らずの内に涙が目の端を伝うディアの目尻を、ルディは指の背でそっと拭った。


「……可哀想に、ディア。泣く程辛かったんだね……そうだよね。王妃教育、頑張って来たのに……こんなの、無いよね……?」


「いや、王妃教育はそんなに無駄にならないと言いましょうか……え、えっと、ルディ?」


「こんなに……泣くほどまでに……」




 ――エディの事、愛してたのにね、と。




「………………は?」




 物凄く低い声が出た。およそ、淑女の口から出ちゃダメな声が出た。


「……あ! ち、違います!」


「そんなに強がらなくても良いよ、ディア。僕は――君がどれだけエディの事を愛していたか、ちゃんと知ってるから」


「え? 本当に待って、ルディ?」


 何言ってんだコイツ、と言わんばかりの驚愕の表情を浮かべるディアだが、ルディは知っているのである。




――クラウディアは普通に良い子なのを。




 勉学は学園トップクラス。


 礼儀作法も完璧。


 派閥の長でこそあれど、どれだけ身分の低い者にも優しく。


 正しい事に関しては曲げず、でも自身が間違っていたら頭を下げる。


 それどころか、ハーレムを築こうとするビッチヒロインのクレアが他の男と親し気に話をしていたら、『殿下の婚約者になったのでしょう。その様なはしたない行為は控えるべきです』と諭すほど、出来た子。だって云うのに、いじらしくも未だエドワードを慕い、決して報われることのない恋に生きる少女であることを。


「……悲しいよね、ディア。そんなに大好きだったエディをクレア嬢に奪われて……」


「いえ、本気で悲しくも、悔しくも、寂しくも、辛くもないんですが!? っていうか、ルディ!? 何を言っているのです? 私がエドワード殿下の事を好き? そんなワケ、ないでしょうに!? 目、ちゃんと見えますか!?」


 目は見えているのだ、目は。ただ、その目が『わく王』という超特級のクソゲーのせいで濁っているだけで。


「強がらなくても良いよ、ディア。僕は分かっているから――うん、僕は分かっているから!!」


 力強くルディは拳を握りしめる。そんなルディの姿を呆然と見つめ、ディアは思う。



「頑張ろう、ディア!! このまま婚約破棄されることの無いよう……愛するエディに振り向いて貰える様に!! 今以上の、立派な淑女を目指そう!!」




 ――思ってたんと、なんか違う、と。




「え、っと……る、ルディ?」


 ――婚約破棄、されましたぁ~。


 ――私、悲しいですぅ~。


 ――でも、私は王妃にならなくちゃいけんですぅ~。


 ――だから、るでぃ? 国王陛下になって、私をお嫁さんに貰ってぇ?


 ディアの作戦はこうだ。穴だらけの作戦ではあるも、メルウェーズ家の権力と、持ち前のバイタリティーと、ルディの押しに対するよわ――優しさなら、こんな穴だらけの作戦でも乗り切れると思ったのだ。その能力もある。塀の上をスキップで歩きながら、塀の向こう側に落ちない頭の良さもあるのだ、彼女には。別に犯罪行為をする訳では無いが。


「絶対に、エディに婚約破棄なんかさせないから!! 何も心配いらないよ! 僕が――僕が必ず、君をエディのお嫁さんにしてあげるから!!」


「あ、いえ、その、る、ルディ? 私は別にエドワード殿下のお嫁さんになりたいなんて一言も……」


「強がらないで良いって! 頼りない『兄貴分』かもしれないけど……僕はずっと君の味方だから!!」


 親指をぐっと立てるルディ。そんなルディに、絶望の表情を浮かべるディア。


「そうだね! 逆にエディに『すまない、クラウディア。どうか、もう一度僕と婚約を結んで貰えないだろうか?』って言われるくらい、魅力的な女性になろう!! 勿論、君は今でも充分魅力的だけどね! でも、それじゃ傷付いた君があまりにも可哀想だから……そうだね、一度くらいは良いんじゃない? 『もう、エディの事なんて知りません』とか言っても。これだけやきもち焼かされたんだもん! エディもドキドキしても罰は当たらないよ! お兄ちゃんが許す! だからね、ディア――」




 ――して見ようよ、『ざまぁ!』と。




「ざ、ざま? いや、そんな事よりも!! 本当に待って、ルディ! み、魅力的な女性と言って貰えるのは嬉しいのですが、そんな事は思って無いですから!! 


「そうなると……そうだね! ディアの味方が必要になるね! 任せてよ!! クラウスとかアインツとかには僕が声を掛けておくから!! きっと、皆ディアの仲間になってくれるから!!」


「る、ルディ! ちょっとま――」


 じゃあ、行ってくるね!! とドアを開けて走り出したルディの背中を呆然とディアは見送り。


「……メアリさん」


「はい、何でしょうか、クラウディア様」


「……なんでこんな事になるんでしょうか……?」


 部屋の隅で静かに佇むルディ付きのメイド、メアリにそう声を掛ける。ルディの子供のころからずっと付き添い、ディアとも顔馴染みのこのお姉さんメイドに、縋るような視線を向け。


「忌憚のない意見でも?」


「お願いします」


「小賢しい策を弄すからです。好きなら好きと言ってしまえば良いのに。僭越ながら、我が主は暖かくクラウディア様を迎え入れてくださるかと」



「言える訳ないでしょ!! 初恋なんですよ!?」



 はぁ、と小さくため息をつくメアリに、ディアは顔を真っ赤にして叫んだ。


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