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第六話 密室の悪巧み


「……何を言っているのだ、お前は? 頭でも打ったのか? そんなこ――ごふぅ!?」


「だまらっしゃい。当てますよ?」


「こ、こいつ……ついに口より先に手出しやがった!! 『当てますよ?』じゃねーよ!!」


「当ててるんですよ」


「なに言ってるか分からない!?」


 殴られた顎に右手を持っていき、立ち上がって左手でディアを指さす。鬱陶しそうにその指を払いのけ、ディアは口を開いた。


「話が進まないから早く座りなさい。お座り」


「犬扱いする――分かった! 座るから拳を握りこむな!!」


 右手をぐーの形にしてはぁーと息を吹きかけるディアに慌てた様にエディは腰を降ろす。そんなエディを見るとはなしに見て、ディアは紅茶を口に含んで。




「――エドワード殿下、私を抱けますか?」




 そんな爆弾発言をぶちかます。自分の目の前にあったカップを手に取ったエディは動揺した様にそのカップを取り落とし。




「抱けるに決まってる。それも仕事だ。お前だってそうだろう?」




 取り落とさ、ない。エディの言葉に、ディアは頷いて見せる。


「まあ、王家と公爵家の結婚ですし、後継ぎは必要ですしね。では、聞き方を変えましょう。私を抱きたいですか?」


 ディアの質問に、エディはにっこりと微笑み。



「死んでもイヤだ。義務以外でお前と一緒のベッドで眠るなんて、どうにかなる」



 そんなエディの言葉に、ディアもにっこりと微笑み。



「意見の一致を見ましたね? 私も私のこの麗しい体を貴方に委ねると考えただけで吐き気どころか全身の穴という穴から血を噴出しそうです」



「え、なにそれ、怖い。あと、自分で麗しいとか言っちゃう面の皮の厚さも怖い」


 あまりにもスプラッターなその表現と自意識過剰なその発言に一瞬、エディの表情がゆがむ。それも一瞬、エディの顔に真剣な表情が戻る。


「それで?」


「問題をイージーにしましょう。エドワード殿下は私と結婚したくないし、私もエドワード殿下と結婚はしたくない」


「そうだな」


「私、クラウディア・メルウェーズの婚約の条件は『王妃』になること。つまり、次期王太子に嫁ぐ事が第一条件」


「まあ、お前の立場ならそうなるからな」


 メルウェーズ家は王国随一の名門貴族ではあるが、名門貴族であり『過ぎる』為に『クラウディア・メルウェーズ』の取り扱いには苦慮していた。他の有力な貴族に嫁がされると結託して王家に氾濫を起こされる可能性の芽を王国サイドは認める事が出来ず、かといって一山幾らの貴族に名門メルウェーズ家の姫をやるのはメルウェーズ家としても許せない。妥協点として、『次期王太子』に嫁がされることがまあ最良、という判断である。


「……質の悪い話だ」


「ええ、本当に。ですが、いいアイデアだと思います。仮に王太子ではない王族に私を嫁がさせた場合、本当にメルウェーズ家の武力と根回しで王権を取ることも可能でしょうから。勿論、平和的に」


「武力とか言ってる時点で全く平和的では無いんだが?」


「まあ、ともかく……そんな訳で『私の夢』は潰えたと思いましたが……まさか、この様なチャンスが巡ってくるとは。偉いですね、エドワード殿下。ご褒美をあげましょうか?」


「犬扱いをするな。そしてお前のご褒美は絶対に罰ゲームだからいらない」


 そう言ってはぁと大きくため息。


「今更聞くまでも無いが……一応、聞いておく。お前の夢とは?」


 エディの言葉に、ディアは頬を小さく染めて。




「――勿論、ルディの『お嫁さん』です」




「うわ、気持ち悪――ぐふぅ!」


「ぶっ飛ばしました」


「報告はいらねーよ! ああ、もう……ったく、この暴力女が……」


 ぶつぶつ言いながら殴られた腹を抑えつつ、エディは吹っ飛ばされた椅子に座りなおす。


「……本当にお前は小さい時から兄上の事が大好きだな」


「はい。初恋ですので。エディだって気持ちは分かるでしょう?」


「まあ……兄上は本当に凄いお方だからな」


「はい」


「小さい時から兄上は何でも出来たし……そんな兄上を本当に誇らしいと思っていた。それなのに、今は『平凡王子』なんて陰で呼ばれて……一体、兄上が何を考えているのか……私には分からない」


「……」


「……クラウディア?」


「……私は少しだけ、分かる気がします」


 辛そうに視線を伏せるディア。そんな仕草に、思わず『紳士』として、エディはディアの肩に手を置こうとして。



「――ルディは本当に優しいお方です。ですから、ルディはきっと身を引かれたのでしょう。こんな、なまじっか中途半端にそこそこなんでも出来る器用貧乏の馬鹿王子と自分が王位を争う事になると国家が乱れる。それならばこの身を引こうと……おいたわしや、ルディ……こんなポンコツな弟がいるばかりに……」


 置こうとした手の中指を立てた。なんやねん、この女と思いながら。


「ですが!! 私と貴方が婚約を破棄し、それを我がメルウェーズ家が抗議をすればどうでしょうか!? 貴方は廃嫡、平王子に降格! ルディが王太子に復帰します!! どうですか! これならば、貴方と私は結婚せずに済むし、貴方は国王にならなくて済み、ルディは正当な評価を得られます!! そ、そして、私は……ルディと、二人で……え、えへ……えへへ……えへへへへへへへへへー!! だ、ダメですよ、ルディ! それはまだ早いです!! で、ですが! 貴方が私を求めて下さるなら……え、えへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


「……帰って来い、クラウディア」


 エディは思った。前途多難であることに目を瞑ればまあ、悪くないアイデアだけど……



「……兄上に申し訳ない気がして来た」



 こんな気持ちの悪いの、押し付けて良いのか、と。


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― 新着の感想 ―
普通な面で見れば仲いいのかこの2人……。 主人公がいるからこそとも言えそうだけど。でも、そうなると次は婚約者から元婚約者で義姉になるのよね。完璧王子(笑)くん、まだまだ君は受難やぞ。
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