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第四話 その時、クラウディアの頭脳に電流が走る!


「……ようやく二人きりですね、ルディ」


「……二人きりというか……クラウディア嬢が追い出したというか……」


『騙されないでください、兄上!!』と言い募るエディの尻を蹴っ飛ばす勢いで追い出したクラウディアは、ルディの言葉にむぅとばかりに頬を膨らませる。そんなクラウディアの姿に、ルディは少しだけ首を捻る。


「えっと……クラウディア嬢?」


「ディア、です。二人きりの時はディアと呼んでくださるお約束ですよ、ルディ」


 甘える様に膨らませた頬のままでクラウディアはルディに迫る。こんな美少女、本来であればドキドキくらいしそうなものだが。


「ははは。相変わらずだな、ディアは」


 弟の婚約者であるクラウディアとは長い付き合い、今更ドキドキもへったくれも無いと言えば無い。そんなルディの態度にむぅともう一度頬を膨らませたるディアに、ルディは苦笑を浮かべる。


「……今日は御免ね、ディア」


「ごめん? それは何に対する謝罪でしょうか?」


「なんに対するって……」


 言葉に詰まるルディに、ディアはにっこりと微笑んでみせた。


「エドワード殿下の件であれば、ルディに謝って頂くことではありません。この後、エディに謝って頂きますので」


「あー……そうだね、うん。エディには謝罪させるから、ちゃんと」


 そう言って、『本当に御免ね?』と頭を下げるルディ。そんなルディに、ディアは苦笑を浮かべて手をヒラヒラと振って見せる。


「……相変わらずですね、ルディ。エドワード殿下は貴方の弟君でしょうが……貴方がそこまで責任を取る必要はありませんよ? そもそも私もエドワード殿下ももう十五歳です。何時までも貴方に助けてもらう『小さなディア』ではありませんよ?」


 エディとディアの婚約がなってからこっち、ディアが王宮に来ることは多かった。エディの実家であるメルウェーズ公爵家はラージナル王国でも随一の名門貴族ではあるが、流石に王族には一歩譲る。貴族令嬢としての振舞いと王妃としての、王太子妃としての振舞いは全く別のモノだからだ。


「貴方は本当に……私達、同い年では無いですか。何時までも『妹扱い』は不満ですよ、私?」


 まだまだ『王妃教育』に年早いも、何れは王子――この段階ではどちらが継ぐか決まっていなかった両王子と、政略結婚と言えども、出来るだけ仲良くしてくれれば良いという両家の思惑でディアが王宮に赴くことになったのは五歳の頃だ。


「……昔から大人びていましたよね、ルディは」


 何時だってルディはエディとディアの『お兄ちゃん』だった。勉強は出来て、剣術も達者。それを誇る事などせず、ディアやエディには常に笑顔を向けている優しい男の子。


「王宮付きのメイドにも優しかったですものね、貴方は」


 最初は衝撃だった。お茶の用意をしてくれたメイドに、ルディが笑顔で『ありがとう』と言ったうえ、軽く頭を下げたのだ。


「『いずれこくおうになられるあなたはかんたんにあたまをさげてはいけません!』って怒られたもんね、ディアに」


「ええ。そんな私に貴方は『自分に出来ない事をしてくれる人には敬意を以て接するべきだよ? 身分に上下はあるかもしれないけど、貴賤はないから』と仰ってくださいました」


「……よく考えたら五歳児に言う事じゃないよね、貴賤とか」


「よく考えなくても五歳児から出てくる言葉ではありませんが。貴賤などという難しい言葉は」


 ディアの言葉にルディが『うぐぅ』と言葉に詰まる。そんなルディに微笑を浮かべ、ディアは言葉を継いだ。


「まあ、エドワード殿下が何を言っても婚約破棄なぞありえませんが」


「……そうだよね」


「ええ。エドワード殿下が……何と言いましたか? あの男爵家の」


「クレア嬢?」


「そのクレア嬢を好いていたとしても、流石に王妃の男爵令嬢は難しいでしょう」


「……だよね」


 男爵家のご令嬢では――言い方は悪いが『格』が低すぎる、という訳ではない。いや、それもあるが。


「そもそも、十五歳で王妃教育は無理があります。私が十年掛かった事を、学園卒業までの短い期間で習得できると思いますか?」


「出来ないと思う」


『わく王』では簡単に婚約破棄をしていたが――まあ、常識で考えて欲しい。貴族階級があり、身分制度がはっきりした中世ヨーロッパ風のこの国では王妃殿下は貴族夫人のトップなのだ。時には国王の代理として外交の顔役を務める事もあるし、内政だってしらなくちゃいけない。そんな貴族階級のトップがするような事を、なんの勉強もしていない、世襲貴族最下位の男爵令嬢がいきなり出来るわけ無いのである。それこそ、そもそもの教養レベルが男爵家より段違いの公爵家のディアが十年かける程に。


「そう言う訳ですので、クレア嬢が王太子妃になるのは難しいでしょう。まあ、側室の一人や二人は認めないつもりは御座いませんし、殿下がどうしてもクレア嬢が良いと仰るのであれば、側室に召し上げるくらいは――」


 そこまで喋り、ディアの灰色の頭脳に電流が走る。



 ――あれ? これ、チャンスじゃね? と。



「……ディア?」


「……少し用事を思い出しました。名残惜しいですが……今日はこの辺りでお暇させて頂きます」


 そう言って優雅に立ち上がって一礼し、ディアはそのままドアを開けて室外へ。


「……なんだったんだろ、ディア?」


 そう思い、ルディが首を捻った、翌日。





「――ルディ。エドワード殿下に婚約破棄されました」





「…………は?」


 婚約破棄された、というのにニコニコした笑顔を浮かべるディアを目の前にして、ルディの目が点になった。



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