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第四十話 偽者クラウディア、または綺麗なクラウディア


 

 ――一体、私が何をしたんでしょうか。



「ほら、クレアさん! 黙っていないで何かアイデアはありませんか?」


「そうだぜ、クレア!」


「ふむ。ブレインストーミングという議論の方法がある。大丈夫だ、別に否定をしたりするわけではないから、遠慮せずに意見をしてくれ」


 目の前にディア、両隣にアインツとクライスという鉄壁の――クレアの胃をガンガンと痛くする為の鉄壁の布陣を敷いた三人の声に、デスク教の最高神たるテンバーン様から頭をゆっくりと上げて、クレアは胡乱な目を三名に向けて見せる。


「……これ、なんの集まりですか?」


 死んだ魚の様な目で三人を見やるクレアに、良い笑顔でディアが。



「勿論、ルディを王位に押し上げる会議ですわ!」



「そんな会議のメンバーになったつもりは無いんですが!!」


 クレア、叫ぶ。魂の咆哮だ。


「え? そうなのか? クレア嬢もルディの方が国王陛下に相応しいと思ってるんじゃないのか?」


「思ってませんよ! っていうか、正直ルディ様もエドワード殿下もそんなに知りませんし! なんで私がルディ様派とか思ってるんですか、ハインヒマン様!」


「いや、だって……昨日の朝もルディと仲良さそうに喋ってだろ? クラウディアと一緒に飯にも言ってたし……てっきり。ああ、そうそう。俺の事はクラウスで良いぞ」


「てっきりってなんですか、てっきりって! はい――クラウス様! 私は別にルディ様が良いとか思ってませんよ!」


「ふむ。ではクレア嬢はどちらの方が王位に相応しいと思ってるんだ? ああ、私の事もアインツで構わない」


「どっちでも良いです! 貧乏田舎男爵令嬢的にはそんな雲上人の思惑はこれっぽちも分かりません! 平和に生きていきたいだけなんです!!」


 クレアの言葉にアインツが一つ頷く。


「ふむ。まあ、確かにそうかもしれない。だがな、クレア嬢? 君も学園に来た以上、何か目標があるのじゃないのか? 学者になりたいとか、官僚になりたいとか、そういう目標が」


 にやりと笑ってそういうアインツに、クレアは堂々と胸を張って。




「婚約者! 私は婚約者を見つけるために学園に来ているんです!!」




「「「……」」」


 放課後の教室の時間が止まった。皆の『なんだコイツ』という視線にクレアが首を捻って。



「……え? クレア嬢、男漁りに来たのか? うわー……」


「言い方!! その言い方は語弊があるっ!!」


「……まあ、クラウス。確かにこの学園は貴族や、一部の裕福な平民の子弟の通う学校で、いわば小さな社交界と言っても過言ではない」


「で、でしょう!? 私、そんなに変な事言ってませんよね!?」


 このラージナル王立学園、国内最高峰の学園であり教育レベルも高い。高いがしかし、一部の平民と、高位な貴族以外にとって重要な側面がある。



 ――婚活会場なのだ、この学園。



 中世ヨーロッパ風の世界である『わく王』だが、貴族同士の結婚で一番多いのは実はこの学園で出逢って仲を深めて……という恋愛結婚が一番多かったりする。下級貴族は、であるが。


 クレアの実家は王都から遠く離れた辺境の田舎男爵家である。勿論、多少の土地と蓄えがあるとはいえ、例えば高位貴族の次男や三男が涎を垂らして欲しがるほどのものではない。じゃあ、同じくらいの爵位の……という考え方もあるが、そもそも王都にタウンハウスもない男爵家ではそのツテもそう多くないのである。なんせ、パソコンもスマホもない中世ヨーロッパ風の異世界なのだ、『わく王』は。


 結論として、クレアは自身の身の丈にあった伴侶を学園で自分で見つけてくる、というミッションが発生するのである。クレアをくさしたが、別にクレアに限った話ではない。子爵、男爵くらいの半分農民、半分貴族みたいな貴族では結構当たり前だったりするので、クレアの意見は特別的外れな訳ではない。訳ではないが。



「……クレアさん? 学生の本質はお勉強ですので……その言い方は少し、誤解を招くと言いましょうか……はしたないと言いましょうか」



 頬に手を当てて困ったように眉を下げるディア。的外れではないが、言い方は無茶苦茶悪いのだ。


「……まあ、確かに言い方は少し悪かったかもしれませんが……ですがまあ、本音は本音です。私、一応婿取り必至なんで……出来れば学園卒業後は素敵な旦那様と二人でレークス領を少しでも発展させれればな~、くらいの事しか考えてません」


 お前らのせいでその夢は殆ど潰えたけどな!! と心の中で中指を突き立てるクレア。その後、小さくため息を一つ。


「…………なので、ルディ様でもエドワード殿下でもどっちでも好きな方が国王陛下になればいいんじゃね? とは思ってますよ。勿論、クラウディアさんの初恋の方で……クラウディアさんが幸せになる為に、ルディ様に王位に就いて貰わなくちゃいけないってのは分かるんですが……」


 クレアにとってそれは手段であって目的ではないし。


「……クラウディアさんだってそうじゃないです? そりゃ、最終的にルディ様が王位に就かなくちゃ、クラウディアさんの初恋が実らないのは分かりますけど……でも、それで良いんです? ルディ様と結婚するために、無理やりルディ様を王位につけるって、結構本末転倒っていうか……」


 愛が重いディアにとって、そんな『仕方なく』は耐えられないんじゃないんだろうかと思い、そう問いかける。気まずそうに視線を逸らしたディアに、クレアは苦笑を浮かべる。


「……ほら」


「……はい。で、ですが!!」


「あー、はいはい。分かります、分かります。現実問題としてルディ様が王様にならなくちゃいけないのは分かりますから。その為の努力はしますけど……ごめんなさい、流石に主体的に考えて動くのはちょっと、ですね。ああ、恋愛相談には乗りますから!」


 苦笑を微笑に変え、ディアに笑い掛けるとディアは困ったような、それでいて少しほっとした笑顔をクレアに向ける。


「……ありがとうございます、クレアさん」


「いえいえ。お友達ですしね。まあ、そう言う事で本当にすみませんが――なに、その顔?」


 ディアから視線を切り、その視線をクラウスとアインツに向けてクレアは首を捻る。二人が、『信じられないものを見た』みたいな顔をしているからだ。が、それも一瞬、クラウスがきっとした視線を向けてディアを指さし。



「お前は誰だ! クラウディアの偽者か!?」


 


「……は?」


 クラウスの突然の御乱心に、クレア、きょとん。そんなクラウスにやれやれと首を振って、ディアは口を開く。


「……クラウス? 私はクラウディアですよ?」


「嘘だ! 天上天下唯我独尊、ルディの言う事以外は聞く耳もたねーお前が、あんなに素直にクレア嬢の言う事を聞くはずがない!! 絶対偽者だ!!」


「……クラウス」


 はぁ、とため息を吐くディアの額に、小さな『ぴき』の怒りマークが浮かぶ。そんなディアの表情の変化を見て、慌ててアインツが二人の間にカットに入る。


「ま、まてクラウディア! お前が常と違うからクラウスも動転しただけだ! そうだな! お前はクラウディア・メルウェーズ本人だ!」


「……そうです。本当に、なんて失礼な――」




「――本人だが……どうした、クラウディア? 何か悪いものでも食べたか? それとも頭でも打ったか? 医務室に行くか?」




「――言い残す事はそれだけですか、二人とも?」


 にっこりと笑うディアだが、目は笑っていなかった。


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