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第三話 俺つえー出来なかった第一王子




「あにうえぇー。ひどい! あの女、本当にひどい!!」


 ズビズビと鼻を鳴らし、涙を流しながらルディに抱き着くエディ。そんなエディの頭を苦笑を浮かべてよしよしと撫でながら、ルディは口を開く。


「ほら、エディ? そんなに泣かないの。でもエディだって悪いよ? あんな公衆の面前であんな事言ったら、そりゃクラウディアだってあんな言い草になるよ」


「なりませんよ! 流石に公衆の面前で駄犬とか言いますか!? 別に身分差がどうのこうのなんて言うつもりはありませんよ!? ありませんけど流石にアレはあんまりじゃないですかね!!」


 完璧王子も形無し、滂沱の涙を流しながらそういうエディにルディは内心でため息を吐く。


「……なんでこんな泣き虫になっちゃったのだか。完璧王子の名が泣くよ、文字通り」


『わく王』の中のエディは『完璧王子』の名に相応しい、完璧な王子様だった。いや、そりゃ少しばかりポンコツな気配はあるものの……それでも完璧王子だったのだ。


 眉目秀麗。


 成績優秀。


 運動抜群。


 顔も整っているし、成績だって入学式で新入生代表を務める程だ。剣術だって王城の近衛騎士団長――には勝つのはちょっと無理だが、それでも五本に一本は取ることが出来るのだ。十五歳でこれははっきり言って尋常じゃなく、だからこそまあ『完璧王子』なんて呼ばれているのだが。


「完璧王子なんかじゃないです!」


 ガバっと顔を上げ――エディが胸元で泣いていたから鼻水がべったり制服についている――エディはルディを見やる。



「――だって、兄上の方が優秀じゃないですか!!」



 ルディとして『覚醒』した成宮和也。彼だってまあ、乙女ゲームを進められてやっている所で分かる通り、ある程度の『そっち方面』の素養はあるのだ。異世界転生物の漫画やアニメ、ラノベだって読んだこともあるし、恥ずかしながら投稿サイトにアップした事もある。そんな彼だから、自身が『わく王のルディ』として転生した以上、一度は憧れたのだ。




 これ、『俺ツエー』出来るんじゃね? と。




 憧れたのだ。憧れちゃったのだ。『あれ? 俺、なんかやっちゃいました?』に。『これぐらい、普通ですよね?』に。『全てを知っているんですよ、僕は』に!


 彼は頑張った。ちょー頑張った。勉強だってエディ以上に頑張って勉強したし、剣術の練習だって頑張った。メイドさん達にも好かれないといつか『ざまぁ』されるかも知れないと戦々恐々してメイドさんにも優しくした。前世では女の子とそんなに話したことも無いけど、会話だって頑張ったのだ。



 ……最初は良かったのだ、最初は。



 成宮和也は大学卒業してピカピカの新卒二年目。当たり前だが勉強方面で五歳児のエディに負ける訳がない。運動だって、体こそ小さいものの『どこをどう動かせばいいか』は分かるのだ。どちらかと言えば引っ込み思案だったエディの代わりに、ルディがメイドさんとの仲を取り持ったことだってある。



『ぼくのもくひょーは、あにうえにかつことです!!』



 そう言ってキラキラした目で見つめていた五歳児エディの顔が、ルディの脳裏によぎる。


(あの頃は可愛かったのにな~……そこまでだったけど、僕の栄光)


 最初こそ、『やはり王位は長男たるルディだな!』とか言ってた国王陛下も、エディとルディが六歳になるころには『エディも頑張って来た』、七歳になるころには『……うん、まあ……い、良い事だな! うん、良い事だ!! 兄弟が切磋琢磨することは!』になり、十歳を数えるころには『……双子って同年代だし……べ、別にどっちが王位でもいいんじゃないかな~? ほら、帝王切開だったし? 取り上げた順番も完全に無作為というか、医者が左利きだったからで……』なんてことを言い出す始末だ。


 そう、十歳にして完全にエディはルディを追い抜いた。それはもう、完膚なきまでに。流石、腐っても乙女ゲームのメインヒーローである。


 最初こそちょっと落ち込んだものの、三つ子の魂百までもなのか、エディは相変わらず『兄上、兄上』とルディの事を慕っていたし、兄弟仲は良好だったので『ま、いっか』とルディが考え直すのにそう長くは掛からなかった。国王陛下なんて面倒くさい、という気持ちも無かった訳ではないし。


「ともかく……クラウディアだって傷付いてると思うよ? 流石に皆が居る前で『婚約破棄だ!』なんて……どうしたのさ、エディ? 君はそんな子じゃないでしょ? っていうかクラウディアが言っている事だって間違っちゃいないんだからさ?」


「間違っていないというのですか、兄上! あの鬼の様な女が、間違っていないと!?」


「う~ん……」


 ルディの頭の中の脳内クラウディアが金色のストレートヘアと蒼色の瞳で嫋やかに微笑む。クラウディアはエディの婚約者として、ルディの事も実の兄の様に慕ってくれていた。『るでぃ、るでぃ』とエディと共に自身の後ろを着いてきた、いわば可愛い妹分だ。


「……エディの勘違いじゃない? あのクラウディアが、エディにそんな酷い事するかな? ねえ」



 クラウディア嬢、と。



「ええ、その通りですよ、ルディ。私がエドワード殿下にそんな酷い事、する訳ないじゃないですか」


 クラウディアは口に付けた紅茶のカップからゆっくりとその小さな唇をはなし、ルディの脳内クラウディア同様、嫋やかな笑みを浮かべ――




「騙されないで下さい、兄上! 人が泣いてる側で優雅に紅茶なんぞ飲んでるやつですよそいつ! 人の心とか無いんか!!」




 優雅に紅茶を飲むクラウディアを指さし、エディは絶叫した。


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医者が左利きで笑ったw
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