第三百九話 なんで!?
クレアの言葉にきょとんとした顔を見せるジムとリーナ。そんな二人からつーっと目を逸らしたクレアであったが、ジムとリーナの視線の圧に負けたかその視線を二人に戻し大きくため息を一つ。
「……質問があれば聞きますが?」
クレアの煤けた背中でのそのセリフに、先程まで興味津々だった二人が一瞬息に詰まる。ジムとリーナで『お前が聞け』と視線で会話、やがてクレア同様に視線の圧に負けたジムが口を開く。
「ええっと……王子様に求婚されたって……マジで?」
「マジに御座います」
「……」
「っていうか、こんな事冗談で言ってたら私、死んじゃいますよ? 社会的にもですけど、物理的にも」
「……は、ははは……そ、そっか! でもすげーじゃん、お嬢!! それってあれだろ? 玉の輿ってやつじゃね? なんせ王子様からの求婚だしな!! ええっと……エドワード殿下は婚約者がいるって話だし……る、ルドルフ殿下の方か? なんにしろ、すげー話だな!! 流石、お嬢!! よ! レークス領一の美少女令嬢!!」
「そ、そうだよね!! 私は貴族とか王族のお話は良く分からないけど……さ、流石お嬢様だよ! 王子様から見初められて求婚されるなんて、女の子の憧れじゃない!! お、おめでとう、お嬢様!」
ジムとリーナの精一杯……本当に、精一杯の励まし。いや、ジムとリーナも普通ならもうちょっと全力で『おめでとう!!』とか言いたい所なのだ。なんせ、王子様からの求婚である。絵に描いた様なシンデレラストーリーだし、本当なら、本当に本当なら心の底から祝福したいのだ。
「……」
――クレアの目が、死んだ魚の様じゃなかったら。もうちょっとこう、『王子様からプロポーズされたんですよ~! えへへ~』みたいな感じならジムもリーナも祝福できたのだが。なんというか、こう……少なくとも『私、幸せいっぱいです!!』みたいな目の輝きをしていないのだ。可哀想になってくる感じの目の死に方なのだ。そら、こんな対応にもなる。
「……ど」
「「ど?」」
「……エドワード殿下です。求婚されたの」
「「……」」
空気が、重い。ジムとリーナ、お互いに目を再び見合わせる。『今度はお前がいけよ!』というジムの視線に、リーナが口を開く。
「……ええっと……私はあんまり詳しくないけど……そのえ、エドワード殿下? と婚約者さんの仲ってそんなに良くなかったの? それってあれでしょ? お嬢様に見せて貰ったら『わく学』みたいな……婚約破棄みたいな感じでしょう?」
そこまで喋り、リーナが首を捻る。
「……あれ? でも、それって普通卒業式とかになるってお話じゃなかったかな? え? お嬢、何処でプロポーズされたの?」
「……入学式ですよ」
「…………はい?」
「入学式初日です。入学式初日に、婚約破棄アンド、公開プロポーズですよ。婚約者の方はこの国で一番大きい公爵家の令嬢でして……私は社交界に疎いですけど、社交界でも人気の方ですね」
「……」
「……ははは。おかげで、皆さまからの視線の痛い事、痛い事。社交界でもベストカップルとか言われてた程のお二人の仲を引き裂いた泥棒猫として、学園の話題を独り占めですよっ!!」
置いてあった水差しからコップに水を注ぎ、それを一息で飲み干すと『ガン!』とテーブルに叩きつけるクレア。
「私がっ!! 私が何をしたって言うんですか!! ただ、暗い顔をしている男の子に、クッキーをあげただけですよっ! 別に二人の仲を裂いてやろうとか、そういう意思があった訳じゃ無いんですよっ!! お母様の教え、しっかり守ってただけなんですよっ!! 困った人がいたから優しくしただけなのにっ!! なのになんでこんな目に合わなくちゃいけないんですかっ!! 寮に帰っても誰も私と目を合わせてくれないんですよっ!! 酷くないですか、流石にっ!! 神は悪魔かっ!!」
ダンダンと台パンしながらそんな恨みつらみを吐き出すクレア。公衆の面前、しかもオシャレなカフェでやる事では無いが……まあ、クレアも溜まっていたのである。勘弁してあげて欲しい。
「ま、まあまあ! お嬢、落ち着け! ほら、深呼吸して! な?」
ジムの言葉に、『すーはー、すーはー』と息を吸ったり吐いたり。少しだけ冷静さを取り戻したか、照れくさそうにクレアが頭を掻く。
「す、すみません。少し、取り乱しました」
『……少し?』とはジムも思った。思ったが、これでもジムも第二近衛騎士団の小隊長を務める人物だ。空気くらいは読むし……それよりも。
「ええっと……お嬢の苦労はわかったけど……それはそれとして、大丈夫なのか、お嬢? その、公爵令嬢って……アレだよな? 確か、この国最大の公爵家であるメルウェーズ家の……クラウディア嬢だよな? クラウディア嬢からイジメられてたりしたりは……」
心配そうなジムの声と顔色。そんなジムに、クレアはにっこりと笑って。
「――あ、それは大丈夫です! 仲良しなんです、クララちゃん!」
「「なんで!?」」
ジムとリーナの声がハモった。




