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第二十二話 なんだろう、この既視感


「災難だったな~クレア嬢。ま、コイツはむかっしからこんな奴なんだよな。しっかりしている様に見えて、意外に抜けてるって云うか……なあ、アインツ?」


「ああ。巷では『完璧王子』なんて言われているが……まあ、そんな事はない。普段は意外にポンコツな所もある」


「お、お前ら……止めてくれ。クレア嬢に勘違いされてしまうだろう? なあ、クレ――クレア嬢? どうしたんだ? そんなに頭抱えて机に突っ伏して」


 自席で頭を抱えて机に突っ伏すクレア。そんなクレアに視線を送りながら、ルディはポツリと。



「……なんだろう、この既視感」



 少女漫画や乙女ゲームでよくあると言えばよくある展開。磨けば光るタイプの地味っ子がイケメン達に囲まれてどんどん綺麗になるみたいな展開だ。違いと言えば、磨けば光る地味っ子ではなく、既にまあまあ光を放っているのと、その光を放っている本体の顔が絶望で染まっている所くらいか。


「助けに行かなくてよろしいので、ルディ?」


「……ディア」


 見るとは無しにクレアのこの『惨状』を見ていたルディに掛かる声。ディアだ。


「優しいルディの事ですから、直ぐに助けに行くかと思ったのですが?」


「……あれはあれでクレアの為になるかな~って」


 エディ、クラウス、アインツの三人が寄ってたかってクレアに構う。このままではぼっちルート不可避のクレアにとってはある意味ではいい防波堤になる。そう判断し、ルディは『あえて放置』作戦を取ったのだ。取ったのだが。


「……流石に可哀想じゃありませんか? あれじゃクレアさん、お友達が出来ませんよ?」


「……その辺はまあ本人だいぶ諦めてはいたけど……でもまあ、可哀想ではあるよね。昼休みの今までに何回、あの三人に囲まれてるっけ、クレア?」


「四時間目までずっと、休み時間はあの状態ですね。お昼休みはどうなることやら……」


 頬に手を当てて思案顔で『はぁ』と息を吐くディア。その姿に、ルディが先ほどの疑問を口にした。


「そう言えばディア。ディアは良いの?」


「? 何がです?」


「いや……今、君の婚約者である第二王子殿下が他の子に付きっ切りになっているけど? 嫉妬とかしないのかな~って」


「……ああ」


 ルディの言葉に詰まらなそうにディアは一つ息を吐く。


「……別段、気にしておりませんので」


「気にしておりませんって……」


「所詮はエドワード殿下の口から勢いで出た言葉です。そう易々と婚約が解消でき――コホン、解消されるとは思っていませんし。それに……あのクレアさんを見たら嫉妬よりも先に憐憫がきます」


 解消できる、と危うく言い掛けたディアは咳払いで誤魔化す。


「それに……あのクレアさんを見ているとなんだか逆に申し訳ないと言うか……」


 チラリと向けた視線の先には相変わらず頭を抱えたままのクレアの姿が。


「……ざまぁみろ、とか思わない?」


「思えませんよ。本当に、彼女には申し訳ない事をした、としか」


 これは彼女の心からの本音である。クレアのお陰で自身は面倒な婚約者から解き放たれた上、愛するルディに『あたっく』出来るのである。何度も言うが、彼女の中にはクレアに対する感謝しか無いのである。


「……本当に、彼女には幸せになって欲しいです」


「……」


「ルディ?」


「その……ディアはエディの事、本当に大好きだったんだよね?」


「……はぁ。ルディ? 何度も言うようですが、それはかんち――」



「それなのに、苦境に立ったクレアに優越感を誇る訳でもなく、可哀想なんて……ディア、本当に君は心が綺麗だね? エディもこんな優しいディアを苦しめて……ディア! 僕、ディアの為ならなんでもするからね? 遠慮なく言って!」



「――ええ、そうですね。本当に辛くて辛くて」


 ディア、華麗なるハンドリングである。彼女のその灰色の脳は、『ルディに心が綺麗と言われる>ルディに誤解される』の完全なる公式を瞬時に導き出したのだ。


「それなのに、クレアの心配までして……」


「ええ、ええ。それはそれ、これはこれですので。それで、ルディ? 先ほど『なんでも』と――」


「そうだよね! 流石にあれはクレアが可哀想だよね!!」


「ええ、ええ。もう本当に彼女が不憫で不憫で……それはそれとして、ルディ? 『なんでも』とは具体的にどこまで――」


「このままじゃクレア、この学園を楽しめないと思うんだ! 流石にそれはちょっと可哀想だよ!」


「ええ、ええ。それに関しては心の底から同意します。私のおんじ――コホン、私もクレアさんには本当に幸せになって貰いたいと思います。それで、ルディ? 『なんでも』というからにはもう、本当になんでもして貰えるという――」


「だよね、だよね! やっぱりディアは優しいね!」


「優しいなど……いえ、本当に私は彼女に幸せになって貰いたいだけです。ところでルディ? 『なんでも』の内容を具体的に詰める為に、今日は王城に遊びに行かせても頂いても――」


「……あれ?」


 ディアの『なんでも』を全スルーしていたルディが、視線をクレアに向ける。少しだけそのルディの仕草に不満を覚えるも、『まあ、言質取ったからいっか』と思い直したディアがルディの視線を追うようにクレアに向けて。


「……『たけすて』って言ってない?」


「……ストレスが過ぎて、言語が不自由になってしまったようですね。おいたわしい」


 絶望に染まった瞳でルディを見て、『たけすて、たけすて』とまるで誤変換起こしたメールの様に口をパクパク動かすクレアを見た。


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