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第二百七話 女心と秋の空


 エルマーとクレアが出発してから十数分後、不満たらたら顔のユリアと、そんなユリアに戦々恐々しているエドガーが出発した。出発直前までは色々飲み込んでいたユリアも、『それじゃ、エルマー先輩! よろしくお願いします!!』とにこやかな笑顔のクレアと、そんなクレアに『あ、ああ。よろしく頼む、クレア嬢』とニヤニヤした笑顔を浮かべたエルマーに一気に機嫌が悪くなったのである。ちなみに、別にエルマーはニヤニヤなんて一切しておらず、なんなら後ろからくるユリアの『圧』に怯えて、顔は引き攣っていたのだが。


「ゆ、ユリア嬢? そろそろ機嫌、直して貰えませんか?」


 そんなユリアに、恐る恐るといった感じで話しかけるエドガー。ある意味、勇者な行動ではあるが、そうは言っても二人は幼馴染、他の人よりはお互いの事を知っているし――そこそこ、仲も良いのだ。そんなエドガーの言葉に、ユリアはじろっとエドガーを見て。



「……べつに、機嫌とか悪くないし」




「……あ、あはは! そ、そうですか!! それじゃ、楽しく! ね、楽しく行きましょう、ユリア嬢!! ほら、折角の肝試しだし、楽しんで……というよりは驚いてですかね! 驚いた方が良いじゃないですか!! 終わった後に、感想とか言い合って――」



「エドガー殿下」



「――はい!? な、なんでしょうか!!」


 ユリアの言葉に、びしっと直立不動の姿勢になるエドガー。そんなエドガーを、下からねめつける様に見つめて。




「――黙れし」




「――はい。エドガー、貝になります」


 どこかのウサギのキャラクターの様、お口の前でバッテンマークを作ってお口ミッ〇ィースタイルをして見せるエドガー。そんなエドガーをもう一度見て、ユリアは『ふん!』とばかりにそっぽを向いて見せる。そんなユリアの態度に――というか、視線が逸れた事に『ほっ』と一息ついて、エドガーは独り言ちる。



「……酷い目にあってるけど……でも、これ僕で良かったかも知れない」



 およそ、王族にあるまじきセリフであり、スモロア王家の関係者からは苦情の嵐になりそうなユリアの態度だが、それでもエドガーもルディ・チルドレン。こんなユリアの『圧』に晒されるのが他の生徒じゃなく、よく知っている自分で良かったと胸を撫でおろす。エドガー、出来た人間であるが……まあ、アレだ。ユリアだって貴族令嬢、幾ら不機嫌でも初対面の、それも後輩の前ではもうちょっと取り繕う。エドガーは良かったと思っているが、これは発想が完全に逆、エルマーじゃなかったらユリアももうちょっと大人しかったのである。エドガー、不憫。


「……はぁ。もういいし、殿下。ちょっち態度悪くてごめん」


 そんなエドガーに一つため息を吐くと、ユリアはエドガーに頭を下げる。そんなユリアの姿に、エドガーは慌てた様に両手をわちゃわちゃと振って見せた。


「そ、その! 僕は別に大丈夫です! そ、その……ユリア嬢の気持ちも分からないでも無いですし」


「……まあ、ね。よく考えれば殿下もあんまり面白くないか~」


 そう。なんだかユリアだけが割食った感じになっているが、エドガーだって自分の想い人がエルマーと出発しているのだ。言ってみればお互い様なのである。


「……まあ、エルマーですし? 流石にクレアに手を出したりはしないだろうって思って――ユリア嬢? なんでそんなに僕の事睨むんです?」


「……それ、エルマー様がヘタレの意気地なしって言ってるし? 殿下? 幾ら殿下でも、そんな舐めたクチ叩いていると……容赦しないし?」


 ギンっと音が鳴りそうな視線。そんな視線を受け、エドガーは恐怖を覚えた様に青褪めた顔で震えだし。



「――違いますよ」



 震え、出さない。冷静な態度のまま、エドガーはユリアに視線を固定し。




「そんなの、ユリア嬢が居るからじゃないですか」




 エドガーは知っているのだ。伊達に幼馴染ではない、ユリアのエルマーに対する愛も――その、執着心の強さも、そして怖さも。エドガーよりユリアをよく知るエルマーが、そんなユリアを差し置いて、クレアにちょっかいを掛けるなんて事は、まずあり得ないのである。


「……え……えへへ~。いや~、殿下もそう思う? そうだよね!! 私が居るのに、エルマー様がクレアっちにちょっかい掛ける訳ないか~」


 エドガーの言葉を見事に勘違い――じゃなく、都合の良い解釈をしたユリア。そんなユリアに、エドガーも笑顔を返す。


「そうですよ、ユリア嬢。エルマーがユリア嬢を放っておいて、他の女の子に現を抜かす訳無いじゃないですか! よ! 流石、ユリア嬢!! エルマーに愛されているランキング、第一位!!」


「えへへ~。だよね、だよねぇ~? 私がやっぱり、一番エルマー様に愛されているよね~。さっすが、殿下!! よくわかってるじゃん!!」


 嬉しそうにバンバンとエドガーの肩を叩くユリアに、エドガーは苦笑を浮かべながら思う。良かった、機嫌がよくなった、と。


「ま、そういう事なら私達も楽しく行きましょうか! さ、行くよ~、殿下!!」


 女心と秋の空、ルンルン気分でスキップなんぞしつつ歩くユリアに、エドガーはため息を吐きつつ、その後を追った。



 ……一応、断っておくが、エドガーは王太子で、次期スモロア王国国王なのである。マジでスモロア王家の関係者の皆様、一遍抗議した方が良いと思います。



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