第二百話 おもしれーおんな
一瞬、『うへぇ』という顔をした後、『イヤイヤ、俺、頼む方じゃん』と思い直してアインツはコホンと一つ咳払い。
「……ともかく、エカテリーナ嬢は賛成してくれると……そう思って良いのか?」
アインツのその言葉に、エカテリーナは曖昧に頷いて見せる。
「まあ……クララ様やエドワード殿下、それにルドルフ殿下のお話も聞いてしまいましたし? 個人的には協力するのも吝かでは無いんですが……」
奥歯にモノが挟まったかのようなエカテリーナの言葉に、アインツの眉がぴくりと上がる。
「あまり好ましくないか?」
「いえ、先程も言いました通り、個人的に協力するのは吝かでは無いんですが……クラウスが納得していないって言うのがちょっと引っ掛かりまして」
「……クラウスは俺たちの案に賛同してくれているとエカテリーナ嬢から聞いた気がしたが?」
「そうなんですけどね~。でも、クラウスじゃないですか? なんか、トンデモナイ失敗とかしそうじゃないです? 『あ、わりぃ。こんな事になるとは思わなかったわ』とか言いそうじゃないですか、あいつ?」
「そんな事は――」
一息。
「……全然有り得るな」
「ええ。クラウスですもん」
「だな。クラウスだしな」
酷い言い草である。ちなみにこの二人幼馴染で、片方は親友、片方は恋心を寄せて慕っている相手だ。え? 知ってる? めんご。
「だから、クラウスの動向ってちょっと気になるのは気になるんです。考え無しでは無いですけど、バカはバカですから、あいつ。そう言う意味では……そうですね、クラウスが『暴走』した時の為に、もうちょっと詳細な計画を知りたい所ではあります」
「……そうだな。確かに俺もエカテリーナ嬢とはもう少し詰めた話をしておきたい所ではある。だが、現状では『ルディを王位に就けるために頑張る』しか方針らしい方針は無いがな」
「その辺りも踏まえての話ですね。現状では『ルドルフ殿下が即位』という目的しかなくて、手段が無い気がしています。ルドルフ殿下にこの学園生活で箔をつけて貰っても良いですし、逆に……まあ、あまり好みでは無いですが、エドワード殿下に評判を落として貰っても良いです」
「あまりエディの評判を落としすぎるのもどうか、とは思っているんだがな」
「私もそう思いますし……あんまり、クラウス好みでも無い気もしています」
エカテリーナの言葉に、アインツが小さく苦笑を浮かべて見せる。
「どこまでいってもクラウスの為、か?」
「まあ、大事な幼馴染ですし……なにより」
惚れた弱みってやつですよ、と。
そう言って肩を竦めて見せるエカテリーナに、アインツが面白そうに口の端を上げて見せて。
「……エカテリーナ嬢とはもう少し、別な出逢い方をしたかったものだ。クラウスの幼馴染とかではなくな」
心底楽しそうにそう言って見せるアインツとは対照的、エカテリーナはイヤそうに顔を顰めて見せる。
「……もしかして今、口説かれています? え? 私さっきも言いましたけど、クラウス一筋ですよ? そもそも、親友の幼馴染に横恋慕って……」
「……俺の言い方も悪かったし、平均以上の美少女であることは認めるが、流石に自信過剰って言われないか、エカテリーナ嬢? なんで告白もしていないのに俺は今、フラれたんだ?」
こちらもイヤそうに顔を顰めてそういうアインツ。そもそも、エカテリーナは美少女であるが、アインツの好みの……その、なんだ。ディアよりは戦力はあろうが、クリスティーナ相手に惨敗なエカテリーナは、そもそも対象外なのだ。甚だ心外で、遺憾の意を表したい所なのである。
「恋する乙女は何時だって自信過剰なものです」
「……そうか。まあ、クラウディアもクリスティーナもそういう節はあるが……ともかく、そういう横恋慕的な話ではない。俺は才能ある人間が好き――ああ、勘違いするな。恋愛的な意味じゃない。人間として、という意味だ」
再びイヤそうにするエカテリーナにアインツは苦笑を浮かべて手を左右に振って見せる。
「エカテリーナ嬢とはこの短い時間で分かるほどの聡明さだ。出来れば、もっと若い時……というか、幼いときか? 幼い時から知り合っていたのであれば、もっと研鑽が詰めたのにな、と思ってな」
「……それはどうも。でも、私は別に才能がある訳じゃありませんよ?」
「君の自己評価は申し訳ないが関係ない。俺がそう思う。これが重要だ」
「……そうですか。それでは未来の宰相閣下に褒められたと思っておきましょう」
「ああ、そう思っていてくれたまえ。だが、これでますますお願いを頼みたくなったな」
「……さっきも言いましたけど、基本的には賛成ですよ? あ、クラウスが反対に回ったら、私も反対に回りますけど、そうじゃなかったら――」
「違う」
「――特に……違う?」
「ああ。最初に言っただろう? お願いは二つある、と」
アインツの瞳が光り、真剣なまなざしがそこに浮かび上がる。まるで射貫くようなその眼に、思わずエカテリーナも身を固くして。
「――君の友達の女子学園生、紹介してくれないか!? 出来れば親友くらい仲の良い子が良い!! 君と話が合うなら聡明な子は間違いないだろうしな!! 頼む、エカテリーナ嬢!! 俺も幸せになりたいんだ!!」
エカテリーナは、思わずずっこけた。
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