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第百八十一話 私と結婚する気、ありますか?


「お、落ち着いてくれ、エミリア嬢」


 肩でふぅふぅと息をしながらきっとした視線を向けるエミリアに、エディが声を掛ける。そんなエディの言葉に、少しばかり冷静さを取り戻したか、エミリアが『はぁ』とひとつ息を吐いた。


「……落ち着きました」


「そ、それは良かった」


「ええ。まあ、状況は何一つ改善されていませんし、非常にはた迷惑な事この上ありませんが」


「……ごめんなさい」


 素直に頭を下げるエディに、エミリアはもう一度ため息。


「もう、謝罪は結構です。すみません、私も少しばかり言いすぎましたね」


 苦笑を浮かべならそういうエミリアに、エディは下げていた顔を上げる。そこには困った様な顔を浮かべるエミリアの姿があって、そのエミリアが口を開き。



「――実は今回、エドワード殿下とペアになる様にお願いしたのは私です」



 頬を軽く染めてそんな事を言うエミリア。これはアレである。『じ、実は私はエドワード殿下の事を……』のパターンのやつだとエディは理解して。



「……悪かったとは思っているが、二人きりになってまで文句が言いたかったのか、エミリア嬢は……」



 理解、しない。出来る訳がない。そんなエディにエミリアは小さくため息を吐く。


「まさか。そんな訳ありませんよ」


「そ、そうか」


「四割ほどしか」


「……結構比率、高いな」


「それはそうでしょう? よく考えて下さい、殿下? 私は殿下のせいで望まぬ王位が見えて来た上に、暗殺リスクが高まったのですよ? 文句の一つも言いたいと思いませんか?」


 ジト目を向けてくるエミリアに、エディも頷きで応える。そら、そうだ。エミリアからしてみれば完全に貰い事故みたいなものなんだから。


「……と、いうかですね? そもそも殿下、そんなに頭が悪い御方でしたか? まあ、クレア様が魅力的な女性である……かどうかは、人に寄りますが……まあ、殿下がお気に入りになったのであるのであれば、あのような形では無くても他に方法があったのではないですか?」


「頭が悪い、と来たか」


「不敬にはならないと聞いていますから」


 ツンっとそう言って見せるエミリアに、エディは苦笑を浮かべて見せる。


「……まあ、エミリア嬢の仰る通りである。現実問題として、クレアを王妃として迎えるのは難しい。精々が側妃までだろう」


「それでも充分では? 言い方はアレですが……クラウディア様も御認めになるでしょう?」


「だが……それは流石に不誠実ではないか、エミリア嬢? 自らが愛する者に、『正妃は別に居るから側妃で来てくれないか』は、あまりにも失礼が過ぎるじゃないか。そんなの……」


 クレア・レークスという淑女に失礼だ、と。


「……殿下」


 そんなエディの真摯な姿勢に、エミリアも感銘を。




「え? ちょっと何言ってるか分かりませんが? 失礼? 公衆の面前で淑女に赤っ恥を掻かせた貴方がそんな事言うんですか?」




 受ける訳がない。エミリアはチョロインでは無いのだ。うわぁ、と言わんばかりの表情を浮かべて見せるエミリア。正直、エディの言葉にドン引きである。


「……その件に関しては申し開きもありません」


「は? 何言ってるんですか、殿下。この件だけじゃありませんよ? あんな公開告白しておいて、クレア様の気持ちにもなってあげて下さいよ? 入学早々、あんな目立つなんて……しかもですよ? あんな状態になったらクレア様、絶対に生き難くなると思わなかったのですか?」


「……はい、仰る通りです。仰る通りですが……もう、勘弁してください」


 もう、エディは虫の息である。自身が悪い事は百も承知だが、それでもこれだけ詰められると流石にエディも辛い。


「まあ、それは良いです。話を戻しますね? 私がなぜ、エドワード殿下と二人きりになりたかったのかをお話します」


 そう言ってコホンとひとつ、咳払いをして。




「エドワード殿下。私と結婚する気は」




 ありますか、と。


 少しだけ頬を赤く染めて、エミリアはそんな事を宣った。


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