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第百七十七話 無欲の勝利、再び


 アインツとディアがコントを繰り広げていた頃、アインツの相方であるクラウスは一人、肝試しの相方を探していた。


「ええっと……18番、18番は……」


「わたしよ」


 背中に掛かる声に振り向くと、そこには一人の美少女が立っていた。その美少女の姿に、クラウスの頬が緩む。


「エカテリーナじゃねえか。え? 18番、お前?」


「そうよ、クラウス。それと……久しぶり」


 にこやかにそう笑って見せる眼前の少女に、クラウスの顔の笑みも深くなる。なんとなく、小動物を思わせる小柄な少女、エカテリーナ・ロブロスはロブロス伯爵家の長女であり。


「本当に久しぶりだな? レオは元気か?」


「ええ。『僕も早く学園に通いたい! クラウスお兄様に逢いたい!』と毎日五月蠅いわ」


『わく王』において、唯一の後輩の攻略キャラである、レオナルド・ロブロスのお姉ちゃんだったりする。そんなエカテリーナは、笑ってそう言った後に少しだけ頬を膨らませて見せる。


「それよりも……クラウス? 最近、付き合いが悪いんじゃない? 学園でも話掛けてこないし……昔はちょくちょくウチにも遊びに来てくれてたのに、とんとご無沙汰よね? それこそ、レオの様子をわたしに聞くくらいにはご無沙汰なんじゃないかしら?」


 ぷくっと可愛らしく頬を膨らますエカテリーナに、クラウスも苦笑を浮かべて頬を掻く。


「あー……わりぃ、わりぃ。最近、ちょっと忙しくてな」


「なんとなく、聞いてはいるけど……もぅ!」


 ちなみにこの二人、幼馴染である。幼馴染であるが、エカテリーナとレオナルドはルディとの絡み自体は……まあ、アインツやエルマー、エドガー程はない。勿論、貴族同士であり逢ったり喋ったり自体はしたことはあるし、幼いころから知ってはいるが馴染んではいないのである。クラウスと仲が良いのは単純に領地が隣同士の御近所さんだったりするからだ。


「悪かったって。ほら、今度……夏休みにでも俺も実家に帰るからさ? そんときでも遊びに行くわ。レオにも会いてーし。それで勘弁してくれねーか、エカテリーナ?」


「約束よ?」


 こくん、と首を傾げて見せるエカテリーナに、クラウスは『ああ』と頷く。そんなクラウスににっこりと微笑んだ後、再び不満そうにほっぺを膨らますエカテリーナ。そんなエカテリーナの姿に、クラウスが首を傾げた。


「どうした、エカテリーナ?」


「それ」


「……どれ?」


「なによ、『エカテリーナ』って! レオの事はレオって呼んでいるのに!!」


 もう一度、ぷくーっと頬を膨らませるエカテリーナに、クラウスが苦笑を浮かべて見せる。


「……わりぃ、リーナ」


「それでいいの!」


 あからさまに機嫌を良くするエカテリーナの姿に、クラウスも苦笑の色を強くする。そんなクラウスの手を取り、エカテリーナは集合場所である広場に向かって歩き出した。


「でも、本当に良かったわ。今回の肝試し、クラウスとペアで!」


「だな。すげー偶然っていうか」


「うん。本当に、知らない人とペアとか結構キツイから……貴方となら安心できるもん」


「そう言って貰えりゃこっちも有難いな。俺も知らない女子とペアはちょっと……だからな」


「そう? 貴方、モテるだろうし、普通にどんな子とも仲良く出来るんじゃない?」


 じとーっとした目で下からねめつける視線を向けるエカテリーナに、『ないない』とクラウスは右手を左右に振って見せる。


「モテねーよ、俺は」


「そうかしら? だって貴方、顔は良いし、運動神経は良いし、伯爵家の御令息じゃない。引く手数多でしょ? で、デビュタントのお誘いとかあるんじゃないのかしら?」


「んな事はねーよ。俺は次男だし、そんな優良物件ってワケじゃねーよ」


 クラウスの言葉に『ふーん』と興味無さそうにした後、クラウスから顔を背けて小さく『よしっ!』とガッツポーズをするエカテリーナ。あ、もうバレバレだと思いますが、この子、クラウスの事大好きだったりします。


「ふ、ふーん。そうなんだ……まだ、お誘いとかないんだ」


「残念ながらな」


「そ、そっか、そっか。そ、それじゃあさ? その……え、エスコートとかお願い出来ないかな? わ、私もまだ誰と行くか決まって無くて……クラウスなら、安心できるな~って……」


 上目遣いでそう言って見せるエカテリーナ。そんなエカテリーナに、クラウスは良い笑顔を見せて。


「ああ、構わねーぞ?」


「ほ、本当に!?」


「嘘ついてどうする。俺も最悪、壁の花かなって思ってたから、丁度良いっちゃ丁度良い……っていうと、失礼かな」


 そう言ってクラウスはエカテリーナの前に跪き、エカテリーナの左手を取り。




「綺麗で可愛いお姫様? どうか、この私にエスコートの大役をお任せ頂けませんか?」




 その手の甲に、キスを落とす。そのまま、悪戯っ子の様な笑みを浮かべてエカテリーナに視線を戻して。


「り、リーナ!? ど、どうしたお前!? 大丈夫か!! 頬がだるんだるんになっているけど!?」


「……そっか……此処が、天国か」


「なに言ってんの、お前!?」


 にへへ~と笑みを浮かべるエカテリーナが冷静になるまで、およそ十分近くの時間を要した。尚、アインツがあれほど欲しがっていた『デビュタントのエスコート相手』をクラウスが手に入れた事に関しては、まあ完全に無欲の勝利だったりする。



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