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第十五話 そして、勘違いは盛大に加速する


 ルディが王城中庭の東屋でクレアの魂の叫びを聞いていた同時刻、アインツとクラウスは焦った様子――というより、事実焦っていたのだが――でエディの部屋を訪れる。訪れる、というより駆け込むという単語が正しいような勢いの二人に、室内で読書をしていたエディは眉根を寄せた。


「アインツ、クラウス。ノックぐらいしろ」


「うるせぇ!」


「そうだ!! ノックなんてしている場合か!! お前、何をした!!」


 二人の言葉にしばし、きょとん。その後、何かを思い出したようにエディが気まずそうに視線を斜め上に上げる。


「あー……その……聞いた?」


「『聞いた?』じゃねえよ! 父上、カンカンだぞ!!」


「俺の所もだ! 『エドワード殿下は一体どうされたのだ!! アインツ、お前が付いていながら……』と父上にこってり絞られた!」


「……その……それは、申し訳ない。言い訳になるが……宰相と近衛騎士団長が……その、彼女が男爵位という事で……その、少々失礼な物言いだったので……つい」


 アインツとクラウスの勢いに押された訳では無い。実質、自身が悪い事をしたのは自覚があるので素直にエディは頭を下げる。そんなエディに、勢い込んでいた二人も少しばかりの冷静さを取り戻した。


「……まあ、俺も父上の話を聞いて『うん?』と思う所もないじゃねーけど。別に貴族だけが偉いわけじゃねーし」


「……クラウス、それはルディの影響を受け過ぎだ。まあ……『高位貴族だけで国政を運営すべきだ』という父上の意見もどうかと思うがな。在野にも優秀な人間はたくさんいる。それを爵位のみで簡単に弾くのは如何なものかとは思うが。能力に爵位や、そもそも貴族階級なんていうのも関係ないしな」


 ルディの、『爵位だけでは測れないよ? 自分の出来ないことをしてくれる人には敬意を持たないと。ほら、メアリの紅茶、美味しいでしょ? 僕らの誰よりも上手く淹れる事が出来る。そういう人には敬意を持ってね?』という教育――というより薫陶だが、薫陶を受けたこの三人とディアは貴族や平民という括りで人を見ない、およそ高位貴族とは思えない考え方を持っていた。それが良い、悪いは別として、だが。


「……ま、父上たちの事はいいや。それにしても……やり過ぎだろ、『アレ』」


 進められもしないのにエディの対面にどかっと座り、『ティアナさん、茶、くれない?』と頼むクラウス。続くように『ティアナ嬢、私にも一杯、頂けるだろうか』とその隣に腰を降ろすアインツ。


「……そうだな。正直、あの婚約破棄は驚いたぞ? 勿論、俺だけじゃない。会場中、騒然としてただろう?」


「……」


「……エディ?」


「……兄上」


「ルディ?」


「……兄上だけは驚いていなかったがな」


「……それって」


「……兄上は気付いておられたのだろう。私の方を見て、驚いた表情はしていなかった。悔しそうな、それでいて少しばかりがっかりした様な表情を浮かべておられていたのだ。きっと……私の言動に予想が付いていたのではないか?」


「それは……流石のルディでも無理じゃねーか?」


 エディの言葉に、クラウスが首を捻る。そんなクラウスをちらりと横目で見て、アインツは顎に人差し指を当てて口を開く。


「……いや……有り得るか」


「アインツ?」


「……エディが王位をルディに継がせたいと思っている。エディ、この認識は間違っていないか?」


「……ああ。兄上は聡明なお方だ。俺は……自分で言うのもなんだが、器用ではある。だが、兄上ほど『先を見通す』力はない。ならば兄上の下、この『器用さ』を活かした方が良いと思う」


「……お前は充分優秀だよ」


「ありがとう、クラウス。それで? アインツ、続きは?」


「そんなエディの気持ちをルディが察していない筈がない。だが、クラウスの言う通りエディは優秀だ。ルディが居なければ王位は確実なくらいにな。このままではエディが王位に就くのは間違いない」


 大きな失点が無ければ、と。


「……そして、それが一番効果的なのは衆目の視線を集める舞台。つまり――」




「「「――入学式」」」




 三人の声がハモり、クラウスの問いかける様な視線を向けられたエディが、黙って肩を竦めた。


「クレア嬢が可憐な令嬢であることは事実として認める。認めるが……正直、昨日のは勢いの側面もある。あるが、学園の何処かのタイミングで自身の評判を落とす事は考えていたんだ。学園を卒業してしまえば、すぐに立太子の儀だ。このままでは兄上が王位に就く可能性が低くなるし……なにより、ラージナル王国を二分する戦争になりかねん。だから、あのタイミングでああいう行動をとったのだが……兄上にはお見通しだったようだな。流石、兄上だ」


「……ああ、流石ルディだ」


「……俺は正直、まだちょっと信じられないけど……まあ、ルディなら有り得るか」


 ……もし、この三人の言葉をルディが聞いていたら顔真っ赤で否定するだろう。『違うよ! そんな意図はないよ!! ただの原作知識だよっ!』と。だが、非常に残念な事に五歳までは下駄を履いたお蔭で超優秀だったルディの幻影は、未だにこの三人を縛っているのである。可哀想と言えば可哀想なのかもしれない、この三人。


「……まあ、エディの考えは分かった。そして、エディがそう望むなら協力するのもやぶさかではない。無いが……」


 少しだけ思案気に顔を曇らせるアインツ。そんなアインツ同様、エディも顔を顰めて見せる。


「……クレア嬢か?」


「ああ。正直、彼女の立場は非常に不味いし……そもそもだな? お前もお前だ、エディ」


「私?」


「ああ。確かに、あの場でお前の評判を落とすことは成功するかも知れない。だがな? お前の言動でクレア嬢への風当たりは強くなるだろう。クラウディアは高位貴族には人気だし、彼女が疎外感を覚える可能性はゼロではない」


「……それは……」


「クラウディアはあそこまでこき下ろしたのも不味かったな。まあ、アレで高位貴族からの反感も買うだろうし、巧い手と言えば巧い手ではある――」


「ああ、違う」


「――が、流石に……違う?」


「ああ、それは全然違うぞ、アインツ」


 そう言ってエディはにっこりと笑って。




「――クレア嬢の事は抜きで私、クラウディアの事大っ嫌いだしな! いや~、いつも言えないこと言えて物凄く気持ちよかった!!」




 良い笑顔で、そう宣った。


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