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第十四話 一体、彼女が何をしたって言うんだ!


 流石にこの状態のクレアを『じゃ!』と放置して帰るほどの胆力はルディにはない。かといって――エディのあの行動もある中で、密室で二人きりもあんまり宜しくないし、なによりクレアが嫌がるだろう。そう思ったルディは、彼女を連れて先ほどまでいた中庭へ逆戻り、中庭に設置されている東屋に腰を降ろし、クレアに対面の席を進める。少しばかりの躊躇を見せた後、『『断る』なんてしたら不敬! 流石にこれ以上王族に不敬を働けばお家が取り潰される……!』との危機感からクレアも腰を降ろす。


「えっと……その、本当に御免ね?」


「い、いえ……私も、その……軽率だったと言いましょうか……ルドルフ殿下にもご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません……」


「あー……別に僕はそんな事はどうでも良いって言うか……っていうか、クレア嬢? そんなに畏まらないで良いよ?」


「し、しかし! 殿下は王族であらせられる高貴なお方ですし……」


「いや、まあ確かに公式の場では上下は必要かもしれないけど、これってプライベートでしょ? それに明日からは一緒の学園に通う学友になる訳だし……僕の事はルディで良いよ?」


 ニパっとした笑顔を浮かべるルディに、クレアもぎこちなく笑顔を返す。ルディの優しさに、ではない。これ以上王族――というか王城内の権力者の不興を買う事を恐れてだ。


「そ、それでは……る、ルディ様」


「様も殿下も別にいらないよ? ルディって呼んでくれたら――」


「マジで勘弁してください。私の胃が悲鳴をあげているんです、ルディ様」


「――はい」


 クレア、思わず本音。何時になく――ゲーム内でも笑顔を絶やさない、『そら、あんだけ逆ハー築いてら笑顔にもなるだろうよっ! 能天気な笑顔浮かべやがって!』と評判の笑顔を封印し、真顔でルディを見つめるクレアに若干の怯えを覚え、ルディはぎこちない笑顔を浮かべる。


「え、えっと……そ、そうだ! さっき僕の顔を見て『ひぃ!?』って言ってたよね? エディと勘違いしてたみたいだけど……やっぱり、エディの婚約破棄で怖がらせちゃったよね? その……本当にごめんね?」


 そんなルディの言葉に、クレアは首を振る。



「いいえ」



 横に。


「え?」


「そこはまだ良いんです。尋問と言いましたが……宰相閣下も騎士団長閣下も最初は本当に紳士的に接して下さいました。お茶とお菓子をご用意頂きましたし、優しく諭されると言いましょうか……そういう感じだったのです」


「……まあ、それもそっか」


 あんな事態ではあるも、所詮は十五歳の小僧の言葉である。良い大人である二人がそこまで振り回される事でもない。


「『クレア嬢。殿下は『婚約者』にと仰ったらしいが、流石にクレア嬢と殿下の婚約を認めるのは非常に難しい事を理解してくれるか?』という感じで……私だって、本当にエドワード殿下の婚約者になってゆくゆくは……! とか思っている訳じゃないんです。だから、勿論宰相閣下と騎士団長閣下の言葉に頷いてたら……」


 一息。



「――エドワード殿下が来てくださって。宰相閣下と騎士団長閣下を怒鳴りつけてしまわれて……」



「……おうふ」


「『この少女は私が見初めた少女だ! 幾らお前らと言えど、この少女に無礼は許さん!』と……」


「……」


「……王族と田舎の男爵家、身分違いは私も重々承知しているんです。王子様の婚約者なんて私には絶対無理なんです。それを宰相閣下がこう……やんわりと諭されたのですが」


「……激怒、と」


「『身分差がなんだ! 身分にどれほどの意味があるというのだ!』って……いえ、王族が居て、貴族がいるんですから、身分差って絶対あるんです。そんな事、言われるまでもなく分かっているんです。だから、そう言ったんです。私なんかよりもクラウディア様の方が相応しいと。そうしたら……『君は心優しい子だな。私の為に身を引こうと……』とかエドワード殿下、明後日の解釈をされるし……宰相閣下と騎士団長閣下の私を見る視線が、徐々に冷たくなっていくし……」


 普段は優秀で温厚なエディだ。そんなエディが、声を荒げて宰相と近衛騎士団長を怒鳴りつける。そんな常にない態度に最初は驚き、そしてその二人はその驚きを疑念に変えるのである。



 ――この少女が、何か怪しげな事をしたのではないか? と。



「……殿下が私を庇うたび、両閣下の視線は冷たくなるし……そうするとエドワード殿下がますます怒り出すしで……もう、何が何やら……」


 深く、深くため息をつきながらクレアは東屋のテーブルの上で頭を抱える。


「……私、この学園での生活を本当に楽しみにしてたんですよ。勉強も、運動も、芸術だって頑張って……たくさんのお友達と……その、少しくらい、素敵な恋をしてみたいと、そう思ってたんです」


「……」


「……お父様にも言われました。『いいか、クレア? お前はレークス家の一人娘、何れは我が家を継ぐんだ。その為には素敵なお婿さんを見つけて来なくちゃいけない。勉強も頑張って、友達もたくさん作って、それで素敵なお婿さんも一緒に見つけてこい! そしたら私が言ってやる! 『お前に私の可愛い娘はやらん!』ってな!』なんて、楽しそうに笑って……」


「……」


「……ねえ、ルディ様? 私、婿取り必至なんです。私が婿を取らないと、レークス家は断絶しちゃうんです。どう思います、ルディ様? 入学早々、この国の王子様に婚約者と言われ、この国の智のトップである宰相と、この国の武のトップである近衛騎士団長に目を付けられている、ド田舎男爵家の小娘って。どう思います、ルディ様? この国史上、最大の事故物件だと……おもいませんか?」


 これ以上ない、絶望に染まった瞳でルディを見つめる。そんな視線に思わずルディは息を呑み、声を掛けようとして。




「……もう、誰も、お婿さんに来てくれないかも知れません……」




 ……なんも言えねぇ……


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