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第十一話 幼馴染は苦労人


 信じられないモノを見た、と言わんばかりの瞳でこちらを見つめる二人の視線にルディが少しだけ怯む。


「え、えっと……え? な、なに、その視線? あれ? 僕、そんなおかしな事言ってるかな?」


「おかしなことと言うか……」


 言い淀むアインツ。そんなアインツの言葉の横から、クラウスが口を開いた。


「いや、おかしいだろう? ルディ? 今お前、なんつった? クラウディアが……エディの事が、大好き? それはアレか? お気に入りの玩具的な大好き、という意味か?」


「クラウスこそ何言ってんの。お気に入りの玩具なワケないじゃん」


「……? あ、ああ! わ、悪い悪い! ちょっと動揺した。そうだよな? クラウディアにとってエディは別にお気に入りの玩具じゃねーな。壊れたら替えの利く――むぐぅ!」


「ちょっと黙ろうな、クラウス?」


 後ろからクラウスの口を押えながら、冷や汗を浮かべてルディから距離を取るアインツ。ある程度距離を取った所で、クラウスの口を離すと、必死の形相を浮かべながらアインツは小声で怒鳴る、という器用な事をして見せる。


「このバカ! 何を言ってるんだ、お前は!!」


「す、すまん! そして助かった、アインツ! いや、あ、あまりにも動揺が……」


「……まあ、その気持ちは分からんでもないが……だが、冷静になれ。良いか? クラウディアのエディへの普段の接し方、ルディにバラしてみろ!」


「……分かっている」


「分かっているならいい。ああ、それと……」


「……ああ。これ以上、『クラウディアはエディが大好き』なんて勘違いさせたままだと不味いな」


「非常に不味い。具体的にはクラウディアの機嫌が最高に悪くなる。いいか、クラウス? それは絶対に避けないといけない」


「分かっている。クラウディア、不機嫌になると見境がねーしな。怒るに怒れない、絶妙なラインの嫌がらせをしてきて鬱陶しい。こないだなんか、剣術の練習着にクマのアップリケ付けて来たし」


 二人で、『うん』と頷いてにっこりとした笑顔をルディに向ける。そんな二人に首を傾げながら、ルディも曖昧な笑顔を浮かべる。


「ええっと……大丈夫、二人とも?」


「いや、すまないなルディ。そ、それよりも! その、なんだ? ルディはクラウディアの何処を見てエディの事が大好きだと思ったんだ?」


 猫撫で声のアインツに若干の気持ち悪さを感じながらも、ルディは口を開く。


「何処を見てって……見てたら分かるじゃん。ディア、いっつもエディを立ててるしさ? なんていうの? 一歩引いて旦那様を立てるというか……」


 そう言って、『ああ、そうそう!』とルディはポンと手を打って。



「ほら! ディア、エディの前ではいつも可憐な微笑浮かべてるしさ? あんな笑顔、大好きな人にしか見せないって!!」




「「――タイム」」




「た、タイム?」


 いそいそと二人してルディから距離を取るアインツとクラウス。


「おい! 大丈夫か、ルディは!? アイツ、視力悪かったっけ!?」


「落ち着け、クラウス。ルディの視力は正常な筈だ。先日の身体検査でも問題は無かった」


「正常ならあの邪悪なクラウディアの笑顔を見て、可憐なんて言葉出てこねーよ! もしかしてルディ、頭の病気か!?」


「違う。冷静に考えろ、クラウス。クラウディアだぞ? クラウディア・メルウェーズだぞ? 悪魔と騙し合いしても勝つと呼ばれた狡猾な、蛇の様な女だぞ? ルディの前で自身を偽って見せるなど造作もないはずだ」


「……ああ……そうか。そう言われたらそんな気もするけど……猫被ってたって事か? 何匹被ってんだよ、猫」


「それも夜な夜なランプの油を舐める猫級のな」


「なにその化け猫、こわい」


「クラウディアが怖いのは今に始まったことではない。それよりクラウス、行くぞ。第二ラウンドだ」


 二人で再び頷くと、にっこりと微笑みを浮かべてルディに近づく。そんな――自身にそっくりな二人の顔を見て、ルディが一歩引いた。


「……どうしたの、二人とも。そんな笑顔浮かべて」


「気にするな。それよりもルディ? エディとクラウディアの仲は……その、まあ、うん、なんだ? 見方によっては、無茶苦茶好意的に、非常に拡大解釈すればその……仲が良いかも知れない」


「なんでそんな拡大解釈しなくちゃいけないのさ、アインツ? 二人、仲良いじゃん」


「……うん、少し黙ろうルディ。私の頭の混乱が酷い。それで……ああ、そう! 名前!」


「名前?」


「そうだ! ルディ、よく考えて見ろ? クラウディアはお前の事、なんて呼ぶ?」


「僕のこと? ルディって呼ぶけど……」


 それがどうした、と言わんばかりのルディの顔。その顔に、クラウスが言葉の連打を叩き込む。協力プレイだ。


「そ、そうだろ! それでお前はクラウディアの事、ディアって呼ぶよな? 俺の知る限り、クラウディアの事を『ディア』って呼ぶのはメルウェーズ公爵家の所縁のヤツか、お前ぐらいじゃないか? な? エディだってクラウディアの事、クラウディアって呼んでるし、クラウディアに至っては、見ろ! エディの事『エドワード殿下』って呼んでるだろ!?」


 アインツとクラウス、二人で口の端に泡を飛ばしながらそう言い募る。そんな二人を、少しだけ微笑ましそうに見つめ、ルディはにっこりと笑顔を浮かべ。




「――イヤだな~、二人とも。知らないの? クラウディアのは『ツンデレ』ってやつだよ。好きな子の前では素直になれないっていう、可愛い行動だよ。わかる? 二人とも、もうちょっと女心勉強しないとモテないよ?」




「「――殴りたい、その笑顔」」


「なんで!?」



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