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幻想王国

作者: 藤乃花

憂鬱な朝が今日も来た。特別スクールに行くのが嫌な訳じゃない。なのに朝になると気持ちが重くなり、ベッドから出たくなくなる。ボブ自身も何故か分からない。スクールにはちゃんと仲間がいて、親身に悩みを聞いてくれる先生だっているのに。勉強が嫌いな訳でもなく、クラブだって好きなバスケットボール部に所属していて、毎日エンジョイしている。じゃあ、何故行きたくないのか?問われるとボブは何も答えられなくなるだろう。(そろそろ起きないと……ママが起こしにくる)ボブの体内時計が正確な時間を示している。トッ、トッ、トッ……階段を上がってくる足首が近付いてくる。ボブの母親が彼を起こしに来たのだ。(ああ……ついに来てしまった)もう少し、というよりこのままずっと、ベッドの中で夢の国をさ迷っていたい。トッ……。母親の足首が部屋の前で止まる。そして次に来るのは……。トントン!ノックの音だ。起きたくない。ボブは夢から覚めないふりをして、ノックの音をなかった事にする。トントン!二度目の音。さっきより強い。「ボブ、起きなさい。ボブ!」ドア一枚隔てていても、母親の呼び声はクリアだ。「雨が、その……」「えっ、何?」「雨が、降ってるんだ!」ベッドの中から苦し紛れの一言。これは苦しい。「雨なんか降ってないわよ?」「僕の心に降ってるんだ。ジャングルのスコールみたいな雨、が」ここまで苦しい言い訳を言うくらいなら、素直に起きた方が楽だろうに。「ボブ、貴方時々そうやって一日じゅう部屋に居ることがあるわよね?」母親は困った声をドアの向こうから洩らし、ボブもベッドの奥からまごついた声を溢す。「部屋が、好きなんだ……だから、出たくない」部屋が好き、なのは事実。それと出たくないというのは、別の問題。「好きな部屋から離れたくないんだ」「スクールで、嫌な事があるの?」来た。親の心配心から来る、お決まりの質問。面倒な事になる合図だ。不穏な空気になる前に、起きる事にした。「行くよ、スクール!」ボブは別人のようにハキハキと答え、ベッドを出るとスタスタ歩き出し、ドアを開けた。「はーい、ママ。おはよう!」髪は少しボサボサだけど、顔付きだけはシャキンとして見せる。「おはよう、トースト焼けてるわよ」「サンキュ」母親はボブの頬に朝のキスをする。ボブも何事もなかったように母にキスをした。ダイニングに降りると、父親は既に出掛けたらしく彼の席は空いていた。『おっはようございます。レインでっす!今朝もニューヨークは平和日和』テレビ画面の中に住んでいる司会者の男性、貴方こそ絶好調日和ですよ!そう言ってやりたいがコーヒーが冷めていたので気分じゃない。「バスが来るまで時間があるから、ゆっくり食べて良いでしょ?」「間に合うように、ゆっくりね」「今朝のスクランブルエッグ、ちょっと硬いね。マシラン先生の頭みたいだ」「真面目な人よね、あの先生。ママは良い先生だと思うわ」「僕も、まあ……ちょっと、苦手だけど」『さあ……て……今日の……ホーム……デオ……は……』「ママ。このテレビ、電波悪いね。システム障害かな?」「変ね、先週買い換えたばかりなに……」さっきまで軽快だった司会者の声が途切れ出し、聞き取れづらくなった。ボブも母親もテレビ画面を見つめ、不可解な表情を浮かべる。『日常……て……き……日……を』音声の乱れがひどくなり、いよいよテレビとしての役割を果たせなくなった。その時だった。『日常的な日々から、心を解放してみませんか?』司会者の声ではない別の声が、画面からクリアに流れた。「なんだ、これ?」奇妙な現象に二人とも忙しさを忘れ、テレビ画面に釘付けになる。『現実に疲れたそこのアナタ、私達と共に夢の世界に行きませんか?』不気味、というより滑稽な出来事だ。「きっと別の番組の音声がシャッフルされてるんだわ。ほら、もうバスが来るわよ!」「はーい!行くね」「テレビは、メンテナンスお願いしとくわ!」母親の声を背に受け、家を出たボブの足は近くのバス停…ではなく、ストリートを外れた小さな路地へと向いていく。「ごめんよ、ママ。やっぱりスクールにはいきたくないよ」ポツリと謝罪の言葉を空間に落として、ボブは路地の奥へと入っていった。そこは幼い頃からボブが遊び場にしていた場所。路地の裏にはそれは広い広場が在って、ボブも仲間も秘密の場所にしていたのだ。(変わってないや……確か、あの木の向こうに……)広場の真ん中に茂る大木を目指し、ボブは小さな少年のような表情を浮かべた。その場所の匂い、風の心地よさに思わず目を細める。「あ、在った……僕らの秘密基地」大木に寄り添うように、小さな木造の小屋が隠れるように立っている。この小屋、秘密基地は、小さい頃ボブが仲間達と大人には内緒で作った物だ。路地の奥に在る為、大人には分からない。だから子供だけの秘密の王国を作ろうと仲間の誰かは忘れたが、言ったのだ。(こんなに小さかったんだな。僕らの王国)あの時は大きなお城に見えた。今になって見てみると、小さな普通の木の小屋だ。(僕一人なら、入れるよな。今日はここで、のんびり過ごそう)風が強く吹いた。空も雲っている。一雨来そうだ。(雨宿りも兼ねて、いつものアレをするぞ)小屋に入ると同時に、鞄を肩から下ろした。「ん?」違和感を抱く。外観と内側の広さが違う。(こんなだっけ?)記憶と今見ている事の違いを感じ、ボブは少し奇妙な感情を覚えた。「ま、いいか。昨日の続き、書こう」鞄からペンとノートを出し、いつものアレを始めようとする。「はあいっ、昨日の続きは主人公であるボブ氏。君が直接描くんだ!」「?」小屋の空間に非現実的な空気が流れた。(あれ?)「夢の舞台へおいでませ!」突如ボブの体がフワリ……と浮き……。「え?」小屋の奥へと引き寄せられた。「ええええっ?」奥の奥のずっと奥……って、やっぱり外観とは広さが違いすぎる。(あ、夢だな、これ。夢って分かるのは、これが明晰夢だからだ!)納得するタイミングで、引き寄せられていた力が消え、地面に軽く落下した。数ミリの落下だから、痛くはない。「ん!」周りに広がるのは、鮮やかな緑色した草原。その中に童話に出てきそうなお城が聳え立っている。「凄くよく出来てる……リアルな夢だな」「夢ではない。現実の世界だよ」「?」(この声……テレビでも聞いたし、さっきも聞いた)「ボブ氏、君にはこのドリームピアの……」呼びかける声が、一瞬切れたかと思うと……。「主人公として活動して頂きたい」また続けられた。その声の主はボブの目の前にいるではないか。目の前、で浮遊している。「鍵」が、声の主。「……」ボブは暫く動けず、その状況を受け入れなかった。半分意識が無いままボブは帰宅し、部屋に戻ったらボブは握り締めた手を開いて確かめた。汗まみれの鍵が、存在を主張している。銀色に光る鍵を疲れた様子で眺め、ボブはベッドに横たわり疑問を言葉に変えた。「さっきの話、取り消せない?」「出来るとも。主人公になるかならないかは、ボブ氏の自由だからね」ボブが安堵の表情を見せると、鍵は低い声で言う。「その代わり、君は二度とドリームピアに行けなくなる。主人公を辞めれば、その国は君には不要だから、ね」何故か不安にかられる。重い役を担う事は、ボブにとってスクールに行くのと同じくらい憂鬱なのに。「二度と……?」取り返しが付かない気がした。「ボブ氏は何度か経験してると思うんだ。一度しか行けなかった牧場とか、湖とか、花畑とか……心当たりあるよね?」ドクン!胸が深く突き刺すように反応した。「あれらは全部、あらゆる王国で、ボブ氏が主人公の権利を破棄した事で一度だけしか行けなかったんだよ」「主人公を破棄した……って、その場所に行けたのは覚えてるよ。でも、そこで誰かに会った事はないよ?」場所の事だけ記憶しているが、行けた時はボブ一人だけだった気がする。「それはね、王国の存在は極秘で、主人公……つまり王子になる者しか知る権利が無いからだよ。だから記憶を一部だけ消すのさ」「記憶を……つまり、主人公にならなかったら、あの国にはもう行けないの?」「行けない。そして王国の事は記憶に残るだけさ」鍵はベッドの上でクルクル回り、ボブの気持ちを揺さぶろうとする。よほどボブに主人公を演じて欲しいらしい。「ボブ氏の母も、他の例の番組を観た人も皆主人公より現実での脇役が良いんだとさ」ボブを真っ直ぐ見つめ(鍵の顔のアングルは知らないが……)鍵は王国について熱く語る。「ドリームピアの主人公はボブ氏しかいない。主人公の役を気が済むまで引き受けてくれないか?」記憶だけの存在にしたくない。ボブは気持ちが決まった。「僕、主人公になって見るよ。そしていつか、ドリームピアの事を小説に書く!」「ありがとう。それでこそ、我が王国の主人公兼王子だ。早速マシラン氏とレイン氏に報告しないと!」(覚えのある名前が……?)「お二人は王国の門番なんですよ」衝撃にも程がある。「先言って、そんな面白い話!」「王国に赴けば、より愉快な話が聞けるさ。さあ今から……」ザアアアアアア……!強い雨が降ってきた。路地の向こうに在る王国はまあまあ近いが、雨の中を出ていく気はしない。「明日じゃ駄目?」「善は急げだ。私を手にして、先を壁に向けてくれ!」「ん、こう?」鍵を壁に向けると、同じサイズの鍵穴が壁に空いた。もうこうなれば驚きはしない。なんせ鍵が喋っているのだから。「何でもアリの世界だね」「その通り、何でもアリの世界なのさ。さあドリームピアへ!」「レッツゴー!」鍵穴に鍵を差し込むと、扉が現れ、ボブは思い切りそれを開いて飛び込んだ。生き生きしながらボブは心に違う。(この王国は僕が守る。今までみたいに幻想王国なんかにはしないよ!)













































































































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