第二十話 宿命と願いの狭間で
語り終えた綾子は、胸の支えが取れたように深くため息をついた。
「あのとき見た雪女、いや吸血鬼? それが現実なのか、子供の夢物語なのか――今となってはあたしにも解らないんだよ。でもあのとき見た女性の顔は今でもはっきり覚えている。怖かったけど、それ以上に綺麗な人だったからね」
(幼い少女の血を吸う女。まるでヴァンパイアじゃないか。半世紀前、いやもっと昔から、ここにヴァンパイアが棲んでいたのか?)
綾子とは対照的に、聖夜はわずかに高揚した。これを調べていけば、今回の事件を起こしたヴァンパイアを捕まえられるかもしれない。
「自分で話しておいてなんだけど、まるで都市伝説だね。若い男の子に話すようなことじゃなかったよ」
「そんなことないですよ。面白かったっていうのも変な感想だけど、例えば……映画のワンシーンみたいですね」
聖夜がそう答えると、綾子はほっとした表情をうかべた。そして「年寄りの話につきあわせて悪かったね」と言い残して部屋を出ていった。
聖夜は確信した。半世紀前に現れたヴァンパイアが、長い時間を経てふたたび活動を始めたのだ。
だが空白の期間が引っかかる。ヴァンパイアは半世紀もの間、どこでどういうふうに過ごしていたのか。
(ぼくがここに留まることになったのは、偶然じゃなかったのかもしれない)
ヴァンパイアを倒して街の平穏を取り戻す。他の誰にもこの仕事はできない。昼と夜の境界線に立つダンピールのみができる仕事だ。
同時に聖夜は深く失望する。
家を出たあの日から一年の間に何もなければ、故郷に帰るつもりだった。もし目の前の事件を無視したなら……。この街の悲劇を残して父や友の場所に帰ったら、自分は昔と同じ生活が送れるとでもいうのか?
いや、そんなことは許されない。何よりも自分が自分を許せなくなる。足掻いたところで、自分にヴァンパイアとのつながりが切れるとは思えない。
忌まわしい血を受け入れたくはない。だがその血ゆえに、聖夜はヴァンパイアと対等に闘える。他の誰にもできないならば、この手でやるしかない。
しかしあの日以来、血を渇望することは一切ない。人間だったときと変わらない日々を送っている。本当に自分の身体が変わったのか、それすら疑いたくなるときがある。
宿命を受け入れるべきか、それとも元の生活に戻るべきか。
(ぼくはどちらの道を選べばいいんだ?)
いくら考えてもすぐには結論が出ない。あの日と違い、大きな変化と非日常を体験した直後ではなかった。衝動的に自分の道を決められない。
モヤモヤとしたものが胸に広がる。それを抑えられないまま、聖夜はその日一日を過ごした。
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