第十七話 言えなかった話
アルバイトを終えた聖夜は、ネットカフェで事件に関する情報を検索していた。
新聞記事の抜粋やTVニュースの報道、それに加えて流言飛語が多く引っかかる。ホラー映画の連続殺人鬼やモンスターを犯人扱いする冗談まがいの動画を多く見つけたとき、聖夜は深いため息が出た。
連続殺人事件として扱われているものは、楽園都市フェスティバルも含めて三件。加えて捜索願いも数件見つかった。警察はすべて同じ犯人だと考えて捜査を進めているようだ。
(行方不明の人たちはすでに犠牲になっているんだろうか。まだ無事でいるといいんだけど)
彼女たちの現状を考え胸の奥に重いものを感じながら、聖夜はネットカフェを後にした。
駅前から大学まで続く繁華街を歩く。店は寒さを吹き飛ばさんばかりの、熱いクリスマス商戦の真っ最中だ。あちらこちらにイルミネーションが飾りつけられ、賑やかなクリスマスソングが流れている。
この時期になると、聖夜は自分の誕生日が近づいていることを思い出す。だがもう誕生日は来ない。時の流れに取り残された聖夜には縁のないものだ。そんなことを考えながら帰宅したとき、玄関先で綾子が遠慮がちに声をかけてきた。
(事件のあった日に何かを言いかけて、結局有耶無耶になったときと同じだ)
聖夜はふとあの日のことを思い出す。
「じゃあ……ぼくの部屋で話します? 他の人には聞かれたくないんですよね」
「気を使わせてすまないね。紅茶とクッキーを準備してお邪魔するよ」
綾子はパタパタと足音を立てて小走りで去る。それを見送って聖夜は自分の部屋に戻った。
ほどなくして扉がノックされ、綾子がトレイを手にして入ってきた。
「ごめんね。深夜のバイトもあるっていうのに」
申し訳なさそうに言いながら、綾子は紅茶とクッキーを小さなテーブルの上に置いた。そしてざっと聖夜の部屋を見回す。
部屋には家具らしいものも少なく、最低限の電気製品が申し訳程度にそろっているだけだ。衣料品も小さなバッグに詰められる程度のものしか揃っていない。ひとり暮らしの大学生の部屋でももっと生活感がある。
「聖ちゃんにとって、ここは寝るだけの場所なんだね」
ここは「あんたもフラフラしていないで腰を落ち着けなさい」と綾子に言われて住み始めた部屋だ。だがアドバイスを守ることを躊躇っているうちに、時間だけが過ぎた。
祐司以外に訪ねてくる人はいない。綾子をもてなすコーヒーひとつ淹れられないことに今さらながら気づく。
「実はこの前の話なんだけど……聞いてくれるかい?」
聖夜が真顔でうなずくと、綾子は遠慮がちに腰を下ろした。
「いいですけど……なぜ急に?」
「あたしひとりの胸にとどめておくには、どうにも怖くてねぇ。かといって他の子はこんな話を真面目に聞いてくれそうもないだろ。でも聖ちゃんはなんとなく聞きたそうにしてたからね」
聖夜は軽くうなずく。
「今、街を不安にさせている事件だけど……ずっと昔にも似たようなことがあったんだ」
「えっ?」
聖夜は綾子の顔を見つめる。
「駅の向こう側の古い町には、昔から血を吸う鬼の伝説があってね、狙われるのは、年端もいかない女の子や年ごろの娘ばかり。短い期間にたくさんの女の子が犠牲になるんだよ。みんなが忘れたころに突然始まり、そして犯人も捕まることなく終わる。それの繰り返しさ」
綾子は窓越に冬の鉛色の空を見上げる。。
「そしてあたしも、子供のときにその鬼を見たんだよ……」
過去の自分に戻るように目を細め、綾子は少しずつ語り始める。
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