三徹目:会議は踊る、されど進まず
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ある日、王国の会議室にて国防や運営に関わる話し合いが行われていた。
国王、王太子、宰相、経理官、騎士団長及び副団長、魔術師部隊長及び副隊長、近隣の高位貴族当主。
そんな錚々たる面々が並ぶ中、一部明らかに異色を放っている者達が居る。
国防の一翼を担う特殊魔法部隊、王国で魔導師を名乗ることが許された者達。
国防魔導隊『アルアジフ』、そのメンバー五名である。
「今のところ帝国から大規模な戦争を起こす意思は感じられませんね」
唯一会議の輪に加わっているのは、《序列一位》『氷創』スノウ・アバランチ。
魔法学園の校長を務め、メンバーの中で最も理性的である為アルアジフの長を務める女性。
氷を極めた魔導師で、時間を含めた空間全てを凍らせると言われている。
「初めから私達だけで向かい、国を滅ぼしてしまえば宜しいのではなくて?」
虐殺を希望している過激な炎髪の少女は、《序列二位》『爆炎』スカーレット・プロミネス
炎を得意とする魔導師で、圧倒的な魔力を乗せた炎で全てを焼き尽くす。
その炎を写し取ったかのような灼火の髪が印象的で、30歳を超えているにもかかわらず幼子のような見た目に、豪華なドレスに身を包んでいる様子から炎姫とも呼ばれている。
「…………」
興味がないのか寡黙なのか一言も話さないのは、《序列三位》『患血染』ネームレス。
使用する魔法が明かされていない魔導師で、戦闘では一切の破壊が起きないと言われている。
黒漆の仮面に黒尽くめの服で正体を見た者は居ない為、性別も分からない。
「オレはどうでも良いぜ、やりたい事じゃねぇとやる気が起きねぇ」
乱暴な口調で自分勝手な事を言っている女性は、《序列四位》『鉄騎軍勢』シルヴィア・ブレイズ。
鉄を操る魔導師で剣や鎧の大軍を生み出し圧倒的な物量で場を制圧する。
また本人も剣術に長けており、更に近距離であれば血中の鉄分すら操作できるらしい。
艶やかな金髪と高身長な女性で、タイトな軍服を身に纏った夢の詰まったプロポーションを持っている。
「ドンパチ争って何が楽しいのかのぅ、のんびり余生を過ごしたいわい」
溜息をつきながら戦争に不参加を表明する老人は、《序列五位》『天変地異』アース・ロックベルト。
砂の操作を極めた魔導師で、その魔法は大地を割り、嵐を巻き起こし、雷を落とす。
魔法使い然とした恰好に髭の長い老齢の男性で100歳を超えている。
比較的常識人と目されているが本人に国を守る意思が全く無く、ただ一拠点のみを守る偏屈な魔導師だ。
アルアジフは50年ほど前にスノウからの提案により設立された部隊で、かつて存在した魔女アル・アジフから名付けられた。
一線を画す戦闘力を持った魔術師のみで構成され、一人一人が1000人の騎士に匹敵する力を秘めている王国の最高戦力なのだが、少々自由が過ぎる集団でもある。
協調性が無く火力が高すぎる為に騎士団と同時運用できず、かといって放置することも出来ない。
結果、仕方なく大規模な局面にて単騎出撃という運用が取られていた。
王国の最強部隊であり最大の問題児集団、それがアルアジフである。
「今まで通り小規模の戦闘は騎士団の方々にお任せしましょう、我々が出た方が被害が大きくなってしまいます」
唯一この中で舵取りの出来るスノウがアルアジフの面々を制御する。
暴力的で自分勝手で偏屈で協調性皆無。
この者達の相手をするのは苦労が絶えなかろうと、国王を含む国の重鎮たちは憐憫の視線をスノウに向けた。
「話は変わりますが、隣の商業都市に高名な魔術師様が居たのをご存じかな?」
その話題は宰相から齎された。
「確か植物を操る魔法に長けた方だと聞きましたわね」
「あー、全然知らねぇ」
「花屋の女性じゃな、以前妻と店に寄ったことことがあるのぅ」
その人は、商業都市の魔術師と言えば真っ先に名が挙がるほどに有名な女性だった。
「彼女がどうかしたんかのぉ?」
「その方ですが、先日お亡くなりになりました。暗殺だそうです」
「彼女は戦闘が得意では無かったが、決して弱くは無かった。そもそも恨まれるタイプの術師では無かった筈じゃが......」
その女性は治療を得意とする術師で恨みを買うことはまず無い、治癒術師は居なくなるデメリットの方が大きいのだ。
宰相の話題をスノウが引き継ぐ。
「彼女だけではありません、ここ五年ほどの間に砂漠の国でも二人。水上都市でも一人。帝国でも四人。高名な魔術師ばかりが全て暗殺されています」
「関連性はありますの?」
「目的は分かりません。ただ共通して魔術師の刃物による犯行です、凶器は残っていませんでしたが目撃者が居ました。あと、これが魔術師を狙ったものなのかも分かっていません、もしかすると判明していないだけで冒険者や騎士にも被害が及んでいる可能性があります」
全員が押し黙った。
皆敢えて視線は向けなかったが、考えている事は同じだろう。
そう、魔術師を倒せる程に剣に長けた魔術師、もしくは剣を操る魔術師の犯行なのだと。
「おーい、言っておくがオレは何もしてねぇぞ。説得力ねぇだろうけどな」
「…………」
シルヴィアの言葉に、アルアジフの面々は何も言わなかった。
それは仲間を疑いたくないという感情から来るものではなく、ただ単純に興味が無かったからだ。
魔法師、魔術師と違い、魔導師は人間として何処かが狂っていると言われている。
常人は魔導師になれない、それは魔導師の力の根源が『執着』から来ているためだ。
それをを守りたい。手に入れたい。渡したくない。そういった感情が、持っている魔力と激しく絡み合い顕現させるに至ったのが魔導師であり、その魔法は本来持っている属性の枠を大きく逸脱する。
その為、魔導師は執着するもの以外にはほぼ興味を示さない。
極端に言えば、人や国すらどうなっても構わないと考えている、故に仲間意識など無い。
それが魔導師という生き物なのである。
比較的真面そうに見えるスノウやアースですらそうなのだから、他の面々がどうかなど言うまでもないだろう。
「まぁ、皆さんも気をつけて下さいね。というだけの話です」
「来たところで私に敵うとも思いませんが、まぁ来たら来たで焼いて差し上げましょう」
「…………」
国防会議は進む。
それ以降アルアジフの面々は一切言葉を発さず、各々実に自由に過ごしていた。
スノウはただ目を瞑り俯き、スカーレットはロケットペンダントを愛おしそうに見詰め、ネームレスはアースに視線を向け、シルヴィアはネームレスを挑戦的な顔で観察し、アースは南の平原を眺め思いを馳せる。
誰一人国防に興味を持たない。
国王はその様子に顔を顰め、胃を摩るのであった。
◇
よく『会議は踊る、されど進まず』とは言うが、昨日の会議で魔導師たちは踊る気配すらも見せなかった。
実に無駄な時間だったと、私は椅子に座り溜息をつく。
自分勝手な魔導師達にしてもそうだが、その他国の重鎮たちに関しては憤りすら感じている。
誰も彼もが敵国がどうの、飢饉がどうの、魔物がどうのと、無駄に頭を悩ませていたが、全ての事柄においてたった一つの決断で解決する問題ばかりではないですか。
金を出せば良い。ただそれだけ、何故それが分らないのでしょう。
邪神に関してもそうだ、こいつ等の祖先が魔女暗殺なんて愚かな事をするから解決しなくなったのだ。
まぁ、王国は500年ほど前に一度滅んでいるので今の貴族と当時の権力者達の血が繋がっているかと言われるとアレですが。
それでも人間が愚かであることに変わりはない。
沸々と怒りが湧き出る。しかし怒ったところで意味がないので私は頭を振り、思考を切り替えることにした。
「そういえば彼は、そろそろ子爵邸に着いた頃でしょうか?」
今日はクオンが家庭教師として初めてセレナーデ邸に赴く日である。
色々と異才の魔法師である彼ならばレオナさんを手助けできるだろうと思ってはいたが、まさか出会ってすぐ解決してしまうとは思ってもみなかった。
クオンの才能を甘く見ていた。
解決が早すぎて少し焦ったが、無事に家庭教師として就かせることに成功。
あとは上がってくる報告を確認するだけである。
私は先日レオナさんと対面した際、一つ引っ掛かる事があった。
それは彼女の魔力操作が出来なくなった理由である。
彼女は10歳まで普通に魔法技術が習得できていた、確かに『認識』『循環』に比べ『操作』は難しい技術だ。
しかし魔力量が多いせいで『操作』が出来ないというのならば、そもそも『変換』で躓かなければ可怪しい。
確実に10歳の頃、何かがあった筈だ。
クオンには家庭教師の仕事に加えその辺りの調査も言いつけてある。
彼が詳しく調査をすれば色々と分かってくることだろう。
一つ心配があるとすれば、クオンが変人である事。
悪いことはしないだろうが、変な事はしそうである。
「相手は年頃の貴族令嬢です。対応に気を配って、報告は事細かに、逐一するんですよ、クオン」
私はそう呟くと、何となく窓を見上げた。
子爵と喜び合うレオナさんを見ていると、昔の自分を思い出す。
捨て子だった私は、あの頃ママの手を繋いでいないと不安で歩くことも出来なかった。
今はもういない母、私を見守ってくれているのだろうか。
「頑張るから、見ていてねママ」
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