二徹目:汚部屋に帰りたい
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
家庭教師が見つかったとの連絡を受たセレナーデ子爵が再び学園を訪れたのは五日後の事だった。
今回は担当講師との顔合わせも含む為レオナ嬢も同席する。
「お父様、新しい先生はどのようなお方なのですか?」
「それが私もアバランチ様からは当てがあると伺っているだけでな、姿は見ておらんのだ」
「まぁ、ではご年齢なども分かりませんのね。とても楽しみですわ!」
学園への道を進む馬車の中では、子爵親子が家庭教師の人物像について想像を膨らませていた。
男性だろうか、女性だろうか、もしかすると長い髭をたくわえたお爺さんかもしれないなど楽しそうに話しをしているが、まさかアンデットのような男に遭遇するなど想像だにしていなかったであろう。
間も無く学園に到着する、セレナーデ子爵は何気なしに校舎へ目を向けた。
「(アバランチ様は相変わらず、凄まじい魔力量だ。流石は国防魔導師だけの事はある)」
彼とて王国の一級魔術師。魔力量は相当のもので馬車を覆う程の魔力である。
だが今目に映っているのは、校舎を覆って尚立ち昇る魔力。
最早、自分とは魔術師としての各が違うのである。
そしてもう一人、自身の向かいに座る娘もそれと同程度の魔力量を持っていた。
「(問題さえ解決すれば、この子もあの高みへ近づける)」
「お父様、どうかなさいまして?」
「いや、楽しみだなと思ってな」
◇
子爵が再び訪れた校長室には、以前と違い趣味の悪いアンデットの等身大人形が立っている。
あれが何なのか、とても気にはなったが一度意識から離しスノウに感謝を述べた。
「アバランチ様。この度は私の不躾な願いをお聞き下さり、誠にありがとう御座います! 隣に居るのが、お世話になる娘のレオナになります」
「アバランチ様、レオナ・セレナーデで御座います。このご恩は必ずお返しいたしますわ」
レオナ嬢は父親と同じ金の髪をした少女だった。
髪は長く顔つきや雰囲気が愛らしい娘だが、14歳というには少々幼すぎる外見をしている。
これは大きな魔力を持った人間の特徴だ。
大きな魔力を持つ人間ほど老いが遅くなる傾向があり、また容姿が整っていて寿命が長い。
これは魔力が人間に与える影響の一つである。その為、外見から年齢を判別するのが難しく、スノウのように永遠の命を思わせるほど若さを保つ者も居る。
例外としてエルフやドワーフのように亜人種と呼ばれるものは体の構造が人間とは異なり、元々寿命が長い。
それは体の半分が魔力で出来ている為と言われている。
魔力が高まるという事はつまり、体の構造が彼らに近づくことを指す。
「いらっしゃい、セレナーデ子爵、レオナさん。早速ですが、この隣で朽ちているのが今回私が家庭教師に推す者で、クオン・ネムレーヌ上級講師です」
「あー……、初めまして。クオン・ネムレーヌです、平民なので敬語は要りません。早速ではありますが、レオナ嬢を少し診させて頂きますね」
「ヒィッ!?」
「喋ったっ!?」
突然話し始めたアンデットに二人から悲鳴が上がった。
ちなみに言うまでも無くクオンは人間である。
幽鬼のようにゆらぁ~っとレオナに近寄り、触れるでもなく観察を始めるクオン。
それはホラー映画のワンシーンの様であった。
「これは、なるほどね。これが彼女の……」
大きすぎて、近くに居ては測れないほどの魔力。
それに上手く混ざり合うように金色の魔力も漂っている、クオンが彼女から聞いていた通りの魔力のをレオナは持っていた。
この魔力の色を視る技術はクオン独自の物であり、魔法の属性を解析することが出来る。
例外として魔眼などを持っている人間には出来るが、そもそも魔眼自体が希少である為この技術はスノウに重宝されていた。
クオンは魔力の解析を終え、次にレオナが魔力操作を出来ない理由について診るべく意識を集中する。
「こ、怖い……、見た目が怖いですわ」
「レオナさん、安心して。彼は一応人間だから」
その言葉でいったい何を安心しろと言うのか。
レオナは蛇に睨まれたカエルのような状態になっていたが、その状態も三分、五分と続くと少し余裕が出てくる。
目の前にはこちらを観察するクオンの顔。
レオナはこれからお世話になる人物の人となりを少しでも知ろうと、観察を始めた。
クオンが角度を変えながらレオナの手の辺りを見ていた際、少し前髪分かれ顔が見える。
「(なんて綺麗なお顔なのかしら……)」
そこに見えたのは、男にも関わらずゾクッとするほど艶麗な顔。
勿論、始めに感じた通り朽ちているといったイメージは変わらず、髪や肌が手入れされている雰囲気も無く、目の下にはひどい隈があるのだが、それでも美男美女集う貴族社会を生きるレオナすら初めて見る美しさだった。
あまりにも見詰め過ぎていたのか、不意に顔を上げたクオンと至近距離から目が合う。
大人の異性をじっと見詰めていたという事が恥ずかしくなり、レオナは顔を紅潮させて横を向いた。
「レオナ嬢。貴女、魔力操作できないでしょう?」
その言葉に驚き子爵はスノウへ顔を向けるも、彼女からは何も言っていないというジェスチャーが帰ってきた。
「ど、どうしてお分かりに?」
「貴女は信じられないほど魔力をお持ちだ、それなのに『魔穴』の数が少ないし小さい。これじゃちゃんと魔力が出せるわけがない」
一般的には知られていないが魔力は魔穴という穴から体外へ放出させる。
穴が少なければ少ない程、小さければ小さい程、一度に使える魔法の規模が小さくなってしまう。
だが基本的に穴が小さいからといって問題になることは無い、何故なら穴が足りなくなる程の魔力量を持った人間が滅多に居ないからだ。
レオナはその例外に当てはまる、どれだけ水が流れてきてもストローから出る水量には限界がある。
この年齢でスノウと同レベルの魔力量、容姿にも魔力の影響が出るというものだ。
ちなみにレオナの魔穴サイズや量は年相応、ただ魔力量が多いので不具合が起きていただけだった。
「では、そのマケツというものを増やせば良いのですか?」
「まぁ、普通ならそれで良いでしょう。しかし魔穴を増やすのは長い修練が要る、でも君には時間がない。だからやり方を変えましょう」
クオンは説明しながら一本づつ指を立てていく。
「良いですか、知っていると思いますが魔法の発動には五段階のステップがあります。『感知』『循環』『変換』『放出』『操作』ですが、この内放出のみ変換をスキップして発動することが出来ます」
当たり前だが、魔法を使う際必ず『魔力を外に出す』という作業が発生する。しないのは強化魔法ぐらいだ。
普段その作業は無意識に行ってしまうので、技術として認識されていない事が多い。
だがここを意識することで魔法が使える幅は大きく変わる、例えばこのように。
「レオナさん、体内で魔力を循環させたら変換させずに外へ出してみて下さい」
「わ、分かりましたわ!」
レオナは指示に従い循環させた魔力を手の平から外へ放出した。
肉眼では見えないが、手の平から煙のように魔力が立ち昇る。
「では、そのまま初級氷魔法を詠唱して下さい」
「はい! 我、求めるは清らかなる氷華『アイスピラー』!!」
「「なっ!?」」
レオナが行った詠唱により魔法が発動し、初級とは思えない氷柱が出現した。
彼女は自分がこんなにもあっさりと魔法を発動できたことが信じられず茫然としている。
鎮まる室内で、真っ先に再起動したのは子爵だった。
彼はレオナを抱きかかえると自分の事のように喜び、褒めちぎっている。
「レオナやったじゃないか! 父さんは信じていたぞ、お前なら絶対できると!! それもこんなあっさりと、素晴らしい!! 今夜はお祝いだ!!」
「お、お父様、私もう抱かれるような歳ではありませんわ。それに魔法が使えたのはクオン先生のお陰です!」
「そうだった! アバランチ様、クオン先生、本当にありがとう御座います!! 流石は御高名な魔導師様と上級講師で御座いますな!!」
余程心配だったのだろう、子爵の喜び様は凄まじいものだった。
レオナも父親に心配を掛けずに済むと考えたのか、手を合わせて女神と魔女に感謝を捧げた。
問題が解決したクオンは唖然としているスノウさんに声を掛ける。
「レオナ嬢は魔法が使えるようになりました、僕の役目は終了ですか?」
レオナの魔力の観察も終え、クオンは目的を達成できた。
今すぐにでも汚部屋へ帰りたいと主張する。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。。
「貴方、私が言ったことを覚えていないのですか? 家庭教師になりなさいと言ったのです」
「そうです! 是非とも引き続き娘に魔法を教授して頂きたい!」
「私からもお願い致しますわ!」
「えぇ~……、でもまだ読んでいない本が……」
「(ギロッ!!)」
スノウは人を殺せそうな眼光でクオンを睨む。
その姿に抵抗するだけ無駄だと悟ったクオンは、降参しソファーに座るのだった。
最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
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