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Magic Doll  作者: TORO
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第一話 天使と悪魔

魔法とは何か。

 魔力・魔粒子を代償に発動する、世の理から外れた事象。魔法にはそれぞれ属性があり、属性は魔力に起因する。


魔力とは何か。

 生物が大気中から取り入れた魔粒子を素に、体内で形成されるエネルギー。魔力が形成される際、その生物の魂に則り、その生物に最も適した属性が付与される。


魔粒子とは何か。

 魔力の素となる粒子。魔素とも呼ばれる。どこにでも存在するが、その存在を知覚することは極めて困難。極稀に魔粒子が集まり、生物の意図では無く魔法が発動することがある。この事象の因果関係は未だ解明されていない。


属性とは何か。

 生物が発動できる魔法を大まかに分類したもの。魔力の性質。魔力と属性が異なる魔法は発動しない。例えば火属性の魔力からは火属性魔法しか発動出来ず、水属性の魔力から火属性魔法を発動させることは出来ない。


魂とは何か。

 生物の根幹。その生物の存在そのもの。

 空を見上げると雲ひとつなく、視界に映るのは昨夜の雨が嘘だったかの様な見渡す限りの青空。周囲の至る所では、早朝にも関わらずミーン、ミーンと蝉の鳴く声が重なり、夏らしさが漂う。

 およそ2年振りとなる久しぶりの日本。遠くに見える山々は懐かしさを感じさせるが、場所が変わってもやる事は変わらない。早く目覚めた朝限定の日課である散歩とストレッチを終えたところで、愛斗はシャワーを浴びながらやるべきことを考えていた。今日から始まる新しい生活。楽しみではあるが緊張や不安は無い。


 …浴室から出ると、床には入る前には無かったはずの封筒が落ちていた。彼は焦る訳でもなく封筒を手に取り、中に入っていた手紙を一読する。


「久しぶりだね、愛斗くん。霧奈さんから色々と聞いたよ。だけど直接会うと、きっと離れたく無くなると思って。ドア越しで我慢しちゃった。バレてなければ良いな。私もしばらくは日本にいるから、何かあったら連絡してね」


 書いてあったことはそれだけ。差出人も、誰が置きにきたのかも分からない。しかし見覚えのある筆跡を読み終わった彼の顔はどこか嬉しそうで、そのまま上機嫌で身支度を始めた。


ーーー


 日本で有名な魔法学園と言われれば色々な学園があるが、その中でも多くの人々が古くからの名門学園として認知しているのがここ、大聖(だいせい)魔法学園。

 2学年Cクラスの教室では普段通り生徒たちが幾つかのグループを作り談笑していた。

 しかしその中でただ一人。廊下側の一番後ろの席に座る女子生徒は、他のどのグループからも孤立してじっと本を読んでいる。

 彼女の名前は山本理瀬(やまもと りせ)。趣味は特に無いが強いて言うなら読書、得意科目は戦闘、才色兼備だが友達と呼べる人間は少ない。先程から彼女が読んでいる本のタイトルは、「魔粒子による自発的な魔法発生とその原因解明」。これは決して17歳で理解できるような内容の本では無いが、何度も繰り返し読むことで驚く事に、既に7割ぐらいは理解していた。

 朝のホームルーム開始まで残り10分弱。ここで突如、廊下からドタバタと誰かが走る足音が聞こえてくる。


 …菜々ったら、今日も寝坊したのね。

 理瀬は読んでいた本に栞を挟んでそっと閉じ、机の中に仕舞う。それから数秒後、足音の主は目的地であった彼女のいる教室に到着した。


「今日もギリギリ間に合ったー。おはよー理瀬」


 朝からハイテンションすぎる笑顔で登場した女子生徒は、この学園で数少ない理瀬の友達である、北上菜々(きたがみ なな)


「おはよう、菜々」


 ほぼ毎朝同じ時間に猛ダッシュで駆け寄って来る彼女に対して、クラスメイトたちは目線を向けるだけで誰も決して近寄ろうとはしない。その理由は単純。クラスメイト全員が、彼女たちの眼中に自分たちが入っていないことを理解しているから。

 理瀬は先程まで真剣に本を眺めていた表情とは打って変わり、ニコッと明るい表情を浮かべながら挨拶を返した。

 返事を聞くや否や、菜々と呼ばれた女子生徒は理瀬の机にバンッと手を置き、身を乗り出して言う。


「ねぇ。噂の転校生、今日来るんだって。どんな人かな?」


 ……。

 理瀬はそれを聞いて、ポカンとした表情を浮かべた。


「…ねぇ、噂の転校生って?…私何も知らないから教えて?」


 ………。

 数秒の沈黙が流れた。

 いくら他人に無頓着とはいえ、流石にこの話題を知らないとは思ってもいなかった菜々は、右手を額に当てて頭を抱えた。


「はぁー。ここでも理瀬さまお得意の知らない発言が出るのか。ていうか、学園でこの話題知らないのって理瀬ぐらいだよ?」


 理瀬からしたら事実を言ってるだけなのだが、言葉通り彼女以外の生徒は皆、転校生のことは知っている。何故理瀬だけが知らなかったかと言うと、純粋に彼女が他人に興味が無さ過ぎて、噂話の一つも耳に入ってこないからだった。

 因みにこのことも、理瀬がこの学園でまともに会話できる者が数人しかいない理由の一つである。


「知らなかった。けどこの学園って転校なんて制度あったんだっけ?そもそも何でみんなが知ってるの?」


 ………。

 理瀬の質問に再びの沈黙が流れる。

 菜々はもう一度大きな溜息を吐き、ゆっくりとその質問に答え始めた。


「…学園長が一週間前に生徒会に顔を出したらしいんだけど、帰り際に思い出したかの様に言ったんだって。「そういえば次の金曜日、2学年に1人転校生が来るから」って。それをたまたま廊下で聞いちゃった生徒がいて、生徒伝いに噂が広まっていったの。因みに現場には誠也もいて、これだけ噂が広まっても学園側から何も言ってこない辺り、信憑性はかなり高いって言ってたよ。けどね、理瀬の言う通りこの学園に転校生を引き入れる制度なんてないの。…まぁおそらく今日までなかったって言うのが正しくなるんだけど。と言う事で、この学園始まって以来初の転校生が今日来る。それが誰だか分からないから皆んな騒いでるの」


 理瀬はようやく状況を理解して頷いた。


「そっか、成る程。考えても結果は変わらないのね」

「もーそんな事言わないのっ。でね、余談だけど転校生についてちょこっと調べてみたの。いいや、ちょこっとは嘘。最後らへんはかなり本気で。だけどこの一週間で得た情報は何も無し。男の子か女の子かさえも分からない。誠也でも流石におかしいって言ってたわ。それに、「もしも意図してここまで情報を隠してる、若しくは隠されてるなら、転校生は俺たちよりよっぽど強い奴だろう」だってさ。ほら、少し興味湧いてきた?」


 理瀬は強いという言葉に少し反応する。


「うーん。確かに誠也くんがそこまで言うのは珍しいね。どんな人だろ、ちょっと興味出てきた」


 菜々は理瀬から予想通りの反応が返ってきたことに喜ぶ。


「だったら良し。じゃあもし理瀬のクラスに来たら、次に会う時までに仲良くなっておいてね?そして必ず私に紹介することっ。約束だからね?私、今日からちょーっと用事が重なって暫く学園休むから。ってことで、また再来週ねーっ。」


 菜々はそう言い残し、まるで嵐の様に猛ダッシュで自分の来た道を戻っていった。理瀬は「何故今日から休むのにわざわざ制服を着てこの時間に来たの?」と言う暇もなかった訳だが、教室を出る際、菜々は一度立ち止まり、振り返って理瀬の顔にウインクをする。これもお馴染みの事で、理瀬はそれに笑顔で小さく手を振って応えた。


 廊下に響く彼女の足音を聴きながら、理瀬は転校生のことを考える。

 …本当に来るのかな?この学園に特別に入れるだけの力がある人が。それに、たかがイチ生徒にわざわざあの学園長が出てくるのも明らかに変よね。ちょっと楽しみかも。


 理瀬にしては珍しく、まだ何も知らない他人に対して興味が沸いていた。


ーーー


 この学園は順位によって様々な恩恵が得られる。

 1年生から3年生までの全生徒を含めて、戦闘の実力が高い者から順に1位、2位、3位と順位付けされ、自らの順位は常に学園から支給される携帯で確認することができる。但し他人の順位は、基本的に自らの順位±20位と上位の者を除いて知ることはできない。

 100位より下位の者は、同じ順位の者が複数重複することがある。順位は毎週月曜日と木曜日に更新され、上位50位は常に公表されている。中でも上位10名は授業免除や研究費支給、高レベルな衣食住の提供等ありとあらゆる恩恵が受けられる仕組みとなっている。


 順位を上げる方法は3つ。


1、生徒同士での戦闘

 各学生は週に一度、火曜日に戦闘を申し込む権利が与えられる。戦闘は自分よりも順位が高い者にしか申し込む事はできない。申し込んだ相手が既に戦闘の申し込みをしていた、又は受けていた、若しくは戦闘をしていた場合、その者の申し込みは無効となり、翌火曜日まで申し込みは不可となる。無効にならない限り、申し込みを拒む権利は無い。但し順位が50位以内の者は、自らの順位と比べ10位以上の差がある相手からの申し込みを断ることができる。さらに10位以内の者は、自らの順位と比べ3位以上の差がある相手からの申し込みを断ることができる。断られた場合も同様、その者の申し込みは無効となる。戦闘を申し込んだ者が勝利すると、相手との順位が入れ替わる。敗北した場合は、順位に変動はない。


2、教師との戦闘

 各学生は戦闘を申し込む権利を教師に使用できる。教師は生徒から申し込みを受けた場合、各週で最低一人と戦闘しなければならない。教師との戦闘に勝利した場合、次回更新日に順位は1位となる。但し同じ週に教師に勝利した者が2名以上いる場合は、先に勝利した者が1位、次に勝利した者が2位、と順位は時系列順となる。敗北した場合は如何なる場合も順位は最下位となる。教師に勝利した場合、その者は以降二度と同じ教師に戦闘を申し込む権利を使用する事ができなくなる。尚、申し込みが複数から来た場合に、教師は戦闘する相手を選ぶ事ができる。選ぶタイミング、戦闘を行うタイミングは各教師に一任される。選ばれなかった者の申し込みは無効となり、翌火曜日まで申し込みは不可となる。


3、推薦での戦闘

 教師は年に一人だけ、自らと関わりのある生徒に推薦する権利を与える事ができる。この権利の授与は不定期に行われるが、どの教師が誰に与えたかは全生徒・教師に直ちに周知される。この授与に明確な基準は無い。授与された生徒は翌月曜日に推薦する権利を与えらる。推薦する権利はその週にしか使用できない。この権利を用いれば、生徒・教師問わず誰にでも戦闘を推薦する事が出来る。推薦を受けた者は如何なる場合でもこれを断る事ができない。推薦を受けた学生が敗北した場合、推薦をした者との順位が入れ替わる。推薦を受けた教師が敗北した場合、2と同様の結果を得る。推薦を受けた者が勝利した場合は、順位の変動は無い。


 余談だが、先程登場した山本理瀬は2学年にして学園3位に君臨している。因みに2学年で10位以内の者がもう1人いるのだが、それが先程理瀬といた女子生徒の北上菜々。ドタバタと走る姿からは想像もできないが、彼女も実はちゃっかり8位に君臨している。2人とも戦闘に関しては紛れもない天才である。


ーーー


 俺の名前は柏木愛斗(かしわぎ あいと)

 7歳の時に()()に拾われて以来、日本の()で生活してきたごく普通の17歳。

 先週その悪魔から急に

「私の知り合いが学園長してる学園があるんだけど、休暇がてらに行ってきて欲しいの」

 …と聞くだけで超面倒臭そうな事を言われた。勿論休暇な訳がない。300%それなりの理由があると確信できる経験則から、俺は当然真っ正面から断った。

 しかし、

「あーそうなんだ。私の言う事聞けないんだ。ふーん。愛斗が独り立ち出来る様に学園長に無理言ってお願いしたんだけど、無駄だったなぁー。愛斗が小さい時から面倒みてきたの誰だっけぇー。誰のおかげで今ご飯食べれてるんだろうなぁー。愛情たっぷり育てたはずなのになぁー。まあ愛斗は所詮、私の言うことなんかどうでも「すいませんでしたっ。学園行かせてくださいっ」うん、そうよね。住所ここだから宜しく。あとついでに、もし生徒で()()()と繋がってる子がいたら情報取ってくるか殺すか…まぁ任せるわ」

 というパワハラ経緯があって、俺は今日生まれて初めて学園という場所に来ている。


「…てことで順位に関しても以上だ。一通り説明したが、ここまででなんか質問あるか?」

「全くありません。あんまそーゆーの興味無いんでいいっす」


 俺は学園長のリーシャ・ヴァルトスバージが見守る中、担任教師として紹介された阿澄遊佐(あずみ ゆさ)という人から学園の説明を受けていた。

 が、正直ここまでの話は全く頭に入ってない。なぜなら悪魔の知り合いらしい学園長が、見てるだけで疲れが癒される程に綺麗な天使様だったから。

 そんな愛斗の様子を見抜いていたのか、学園長のリーシャが遊佐の発言に乗ってきた。


「一つだけ遊佐くんが説明してないことがあるんだけど、推薦権を使っても私とは戦えない。仮に私を推薦した場合は、推薦権を与えてくれた教師と戦闘することになるわ。その代わりに毎年12月20日になった時点での学園1位には、非公式に私と戦う権利が得られるの。非公式ってことは…つまり、まぁ簡単に言うと何でもアリってことね。そしてもし私との戦いで引き分け以上だったら…可能なことなら何でも一つだけ願いを聞いてあげる。けど…愛斗くんはそんなこと興味無いもんね」


 突然話し始めた内容に、俺は目を輝かせた。

 え?なにこの展開。遂に俺にも天国から手が差し伸べられたよ。うん。地獄から逃げる為にも、そのタイミングで絶対に1位になろう。


「今の1位って誰ですか?急に順位に興味が湧いてきました」


 愛斗は食い気味にリーシャに答えた。

 やはり彼女はこうなることが分かっていたのか、自ら垂らした針に獲物が喰いついた様な不敵な笑みを浮かべた。


「うふふ、愛斗くんって可愛いね。私結構タイプかも。あ、遊佐くん。そろそろ始まるから案内してあげて?それと学園で最も強いとされる生徒は、3年生の生徒会長、北上誠也(きたがみ せいや)くんだよ。今年も残り4ヶ月、頑張ってね?愛斗くん」

「わかりましたっ。頑張りますっ」


 天使様にタイプだと言われるとは思ってもおらず、珍しく男心をくすぐられた瞬間だった。

 よし、ここは一旦引いて年末にお願いを聞いてもらおう。今年こそ年末は悪魔から逃げるんだ。絶対にそうしよう。うん、決めた。


 こうして愛斗には、学園に来て1時間足らずで今年の最重要目標ができた。


 不本意だけど、あのクソ悪魔の野郎もたまにはいい事してくれんじゃねぇか。


 この時ばかりは本当に、本当に心底不本意ながら、この出会いをくれた悪魔に感謝してしまった。

 一連の様子を見ていて半ば呆れ返っていた遊佐は、ふと我に戻り愛斗に声をかける。


「おい、そろそろ行くぞ」


 愛斗も同じく遊佐の声で我に戻り返事をした。


「ういっす。じゃあリーシャさん、また今度です」


 遊佐の背中を追いながら、わずか5メートルの距離にも関わらず、愛斗は全力の笑顔で手を振りながら学園長室を後にした。


「またね愛斗くん。学園生活を楽しんでね」


 リーシャもそれに応えるように手を振り返し、部屋から出る愛斗たちを見送った。


 バタン。

 扉が閉まり、いつもの静寂が訪れる。

 リーシャはおもむろに机の引き出しの中からとある書類を取り出した。


「私もダメね。悪ノリしてうっかり変なシステム作っちゃった……。それにしても柏木愛斗…か。10年前の事故の生き残りで、彼女の唯一の愛弟子……。最も驚くべきは、あの歳で()()()()()()であり、その力を使いこなせてるってこと。この学園にいい刺激になると良いけど。彼女の下でどんな過酷な人生を送ってきたのか、お手並拝見ね」


 リーシャの言葉は誰に聞かれる事も無く、闇に消えていった。


ーーー


「遊佐さーん、学園長って何歳?俺より絶対歳上だよね?10歳ぐらい上かな?」

「知らん。けどお前よりは絶対に歳上だ」

「そうだよなー。お願い何にしよっかな?デートとかでも良いのかな?遊佐さんどう思う?」

「知らん。自分で決めろ」

「遊佐さん。人生の先輩として、男として歳上の女性に癒されるってありだよな?」

「知らん。俺は生憎歳下が好きだからな」

「え……。教師でそれは無いわー。引くわー」

「…お前一発殴っても良いか?」

「遊佐さん……ロリコンで体罰教師だったんすね。いや、良いんすよ。俺、みんなには黙っとくんで…」

「俺は教師だが敢えてお前に言う。死ね」

「残念だが遊佐さん、俺はついさっき何があっても年越しを迎えるまでは死なないと決めたんだっ」

「…お前、絶対友達いないだろ」


 遊佐は教室までの道のりを歩む中で、このポンコツ転校生に頭をかかえていた。


 おいおい。ほんとにこんなやつが()()()()の一員なのか?どっからどう見てもそこら辺のちょっとバカな学生にしか見えねぇぞ?いや、こいつ絶対バカだろ。どこまでもバカだろ。


 遊佐には目の前の少年が、決して実力がある様には見えなかった。学園長の話では、前代未聞のこの転校生はとある組織の一員らしい。その組織というのが問題なのだが…。

 簡単に言うとその組織は、表では裁けない犯罪者等を裏で裁く、というビジネスを行っている組織。

 そしてその裁き方の殆どが…殺し。

 依頼主には個人や団体は勿論、国や権力者など様々な者たちがいるが、この組織の最も恐ろしいところは、たとえ国から依頼されても平気で断るところ。どんな権力者からの依頼であっても、組織のトップが頷かなかったらその依頼は決して遂行されない。逆に言うとトップさえ頷けば、赤子の依頼だって遂行する。いくらビジネスでも何故そんな理不尽なことが許されるのか。それは、この組織には国家権力を持ってしてでも止めることが出来ない金と力があるから。

 組織のことは、権力者や強者を初め、少し裏の世界をかじった事のある者なら誰もが一度は耳にしたことがある。しかしトップを除いたその構成員を知っている者は限りなく少ない。

 1週間前、トップ直々の頼みと学園長の独断で、柏木愛斗という男をこの学園に転入させることが決まった。勿論、愛斗が組織のメンバーというのは他言無用。この学園でも彼の本当の姿を知る人物は、学園長と担任である遊佐のみ。

 学園長と組織のトップがなにを考えて愛斗を転入させたのかは、今の遊佐には知る由もなかった。


「着いたぞ。お前のクラス、2学年C組だ。俺が呼ぶまで廊下で待ってろ」

「了解でーす。立っとくの疲れるんで早く呼んでくださーい」


 遊佐は愛斗の返事を無視して、先に教室へと入っていった。


 …クシュンッ。


「霧奈……風邪……?」

「うーん、誰かが私の噂してるのかも」

「きっと……お兄ぃだ……。敵…発見……。14人………4km……先……。」

「あら、索敵範囲伸びたわね。これなら優希だけで充分だったんじゃない?」

「……心配して、着いてきたの…霧奈のほう…。」

「まぁ良いわ。サッサと片付けて帰りましょ」

「うん……お兄ぃ……元気、かな……」

「あの子は風邪も引かないし殺しても死なないから大丈夫。ほら、さっさと終わらせちゃうわよ。私眠いし」

「そうだ……私も……お腹、すいたから…。早く、終わらそ」


 その夜。対魔法警察に匿名で通報が入った。内容は、富山県の剱岳付近で犯罪組織シャルクのメンバーを見かけたというもの。信憑性に欠けるも、一応駆けつけた対魔法警察が周辺一帯を調査したところ、山頂付近で首から下が消失した14人の頭部が見つかった。顔の特徴や歯形から、頭部はいずれもシャルクの幹部メンバーだと確認された。

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