嫌いな奴をチートで爆破するだけの話
ポケットの中に入れていたペンを、手探りで握る。
イメージして、それを「起爆装置」へと変化させる。
授業が始まるまで、あと10分。職員室では毎度恒例の職員らの朝礼が行われているはずだ。メガネのつるを押し上げて、片方のレンズを「監視カメラ」へと変える。監視カメラは職員室の様子を克明に伝えてくる。
起爆装置を手の中で回転させる。
今のところ、誰も気づかない。クラスメイトはもとより、教師たちさえ。
いい気になってこちらに説教していたあいつらが、この俺の正体を見抜けないならば、一体人間性について何を指導すると言うのだろう。
職員室の窓枠を信管つきの爆薬へと変化させる。
机の上に伸ばした腕に、自分の頭をのせる。監視カメラも、起爆装置もそのまま。
親指がちょっと動けば、職員室はこの世から消える。職員をまとめて失うこの学校は今後どうなるのだろう、と考えて、それは自分の仕事ではないと気づく。
やりたいやつが勝手にやればいい。分析も、捜査も、犯人探しもだ。
頭のなかでC4がピコン、ピコンと電子音を立てている。
クラスは、うるさい。鬼の居ぬ間になんとやらとばかりに喋りまくっている。クラスメイトと言うのは、マンガやラノベのように最高の友とはなりえず、味方でもなく、ただ同じ空間にいる存在でしかない。
そして教師は、ただ勉強を教えてくれる存在、というわけではなく、嗜虐心を剥き出しに、教育と言うお題目で人格否定を行う。それがこの学校の生徒にふさわしいか、篩をかけているのだと言わんばかりに。
だったら俺は落第だ。
学校どころか社会にもふさわしくない。
だが、誰が俺を止められると言うのか? 誰が裁けると言うのか?誰が事態を解明できると言うのか。自分の力が破壊に特化しているのなら破壊にこそ使うべきだし、能力は、与えられた個人を豊かにさせるべきであって、それ以外のなにものでもない。
手のなかで起爆装置を回転させ、遂に指を押し込んだ。
耳をつんざくのは、爆発音だった。
ずん、と腹に来る振動が伝わってくる。廊下側の窓ガラスが衝撃波で砕け、悲鳴が上がる。体を丸めて小さくなる女子と、なんだなんだと叫びながら職員室の方へ身を乗り出す男子たち。
視界が一瞬白くなり、監視カメラと言う概念が、一瞬でバラバラにした無数の物体を映し出す。別棟の二階にあった職員室が吹き飛んだことで、急に支えを失った三階が軋みながら、建物ごと倒壊する。
「爆発だ!爆発したんだ!」
クラスメイトが怒鳴る。皆吹き飛んだ職員室に釘付けになっていて、ここも同じように吹き飛ぶことなど想像すらしていない。
ここには指示を出せる大人もいない。何人かは職員室へと走りだし、また何人かはグラウンドへと上履きのまま飛び出した。爆炎と、キノコ雲が青空へと広がっていく。通報するのは近所の人間が先だろうか。
起爆装置をペンに戻して、席を立つ。
「おい、どこへ!?」
「トイレ」
俺は言って、その通りにした。
教職員が全員死んだ。即死だった。消防車が駆けつけて、瓦礫の山からわずかに覗く炎に水を掛け始める。パトカーの数が数えられないほどになり、生徒は憶測とデマを恐怖と興奮と共に喋り続けている。
いくら不快なものを吹き飛ばしても、また新しい不快なものは表れるだろう。そう思うと絶望的だ。
だがこの力さえれば、なんとかなるかもしれない。
こうして俺の、邪魔なものは排除しようとする生き方が始まった。