第九話 【神の後光】の崩壊
「ぐっ! うぅ……」
こんなバカな事があってたまるか。
俺様は次期Sランクパーティのリーダになる男!
その名も、ヴェン・ルーゼン様だぞ!?
その俺様がこんなアシッド・ドラゴン程度にィィ!
認めてたまるか! 認められるわけがないッ!
「はー、はー……。ラッキーパンチで随分といい気になってるみてェだな、クソドラゴンが!!」
俺様は立ち上がり、カラドボルグを構えた。
体力は回復しないが、やはり魔力が漲ってくる。
一級品どころじゃない。こいつは特級品だ。
「くっくっく、やはり退魔の聖剣の名は伊達じゃあないぜ、カラドボルグ。仕方がねぇから見せてやるよ。本当は魔王戦まで温存するつもりだったんだが……なァ!!」
俺様の職業は剣豪。故に、主な攻撃手段は剣撃だ。
だがそれこそが盲点!
『グルルルル……?』
「誰も言ってねェじゃねーかよ、剣豪が魔法を使えないだなんてなあ!」
俺様はカラドボルグから得られる魔力を体内に循環させた。そしてその魔力を少しずつ手の平へと凝縮させていった。
「ソラ! グラン! 少しでいい、時間を稼いでくれ!! 確実に奴を消し炭にしてやるぜ!!」
「ふー……。仕方ありませんわ、ねぇっ!!」
「ったく! 確実に仕留めろよ、ヴェン!!」
「ったりめェだ!! 俺様は次期Sランクパーティのリーダーになる男! そしてお前らはその両翼となる人間ッ! エリートの誇りを今ここで見せてやろうじゃねえか!!」
「「了解ッ!!」」
俺様の指示で二人が動きだした。
くくく、流石はソラとグランだ。俺様に匹敵する30台のレベルなだけあっていい動きをしやがる。これならいける! 確実にあのクソドラゴンを仕留められる!!
「どこを見てますの!? 喰らいなさい、ライトニング!!」
ソラはヒーラーだが、状態異常付与の魔法も扱える。スキル【ジ・オール】は任意発動型なので、俺様たちに影響はない。
『グァァア!?』
「よくやった!!」
ソラのライトニングは激しい閃光により相手の視覚を封じる魔法だ。これであのクソドラゴンは暴れ回ることしかできなくなったというワケだ。ざまあみろ!
「精々無駄に体力を消耗しやがれ、バカ野郎が!!」
挑発しながらグランが距離を取った。
クソドラゴンが暴れている間に体力を回復出来れば、この先も戦える。あんな雑魚に手間取っている暇など俺様たちにはないのだ!
「来た来た来たぁぁあああっ!!」
俺様は全身を駆け巡るエネルギーに興奮していた。
これほどまでの充足感は生まれて初めてだった。
「二人ともそこを離れろ! 今から特大級の攻撃魔法を放つ!! 巻き込まれたら間違いなく死ぬぞッ!!」
魔法には五段階のクラスがある。初級・中級・上級・特大級、そして、超級。
俺がこれから放つのは四段階目に強い特大級魔法だ。
しかもこの魔法は聖剣を具現化するという固有魔法で、その威力は魔法攻撃力ではなく物理攻撃力を参照にするのだ。つまり、剣豪の俺様にはうってつけの魔法というワケだな!
「火の精よ、我に力を与え給え!!」
詠唱と共に、俺様の掌からは巨大な炎の剣が形作られていく。
俺様の持てる魔力、その全てを込めた最強の攻撃。
直撃すれば魔王ですら絶命は免れないはずだ。
「喰らえ、【超火炎剣】!!」
シュボボボボァッ、ドゴォォオオオオオオオオオオンンッッ!!!
「……決まった!」
やってやったぜ。
今の攻撃を受けて無事で済むはずがねぇ。奴は完全に黒焦げだ。今日の晩飯にでもしてやるか?
「なんという威力。さすがはヴェン様!」
「驚いたぜ! まさかこんな奥義を隠していただなんてな」
「なぁに、よく言うだろう? 能ある鷹は爪を隠すってな」
「はっはっは! こりゃあ一本取られたぜ! お前には敵わないよ、ヴェン」
「全くですわ。……ヴェン様、先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。ご自分の役目も果たせずにお恥ずかしい限りです」
「なに、気にするこたぁねえよ。俺たちは仲間なんだから。そんな事より」
俺様はソラの背中に手を回し、耳元でそっと囁いた。
「魔王を討伐したら、話がある。二人の未来についての大切な話だ」
「そ、そんな……。二人の未来だなんて」
ソラは目に見えて頬を赤らめた。くははっ! チョロい女だぜコイツはよォ。だが頭のデキなんざどうでもいい! 顔と体は特級品だからな。
「必ず魔王を倒そう。王都の連中は今か今かと待ち望んでいるだろうからな。英雄の凱旋を」
「ええ、そうですわね」
そんな風に話していると、ふと違和感を覚えた。
ん? あれ?
「おい、ソラ。グランの奴はどこに行った?」
「え? グランならそこに……」
突如、ソラの悲鳴が響き渡る。
うるせえボケ女ッ!! そう言ってぶん殴ってやろうかと思ったが。
悲鳴の原因を目の当たりにし、俺様は絶句した。
「なん、だと……」
俺様たちから少し離れた岩壁に、それはあった。
目は見開かれ、腕と足はぐしゃぐしゃになり……。
水袋が破裂したかのように飛び散っているあれは、間違いなく血液だった。
「……何故グランが死んでいる」
半ば放心状態の俺様だったが。
土煙が晴れた時、ようやくその理由を理解した。
「バケ、モノが」
生きていたのだ。あのクソドラゴンが。無傷ではない。だが致命傷でもない。掠り傷といった感じだ。
俺様の特大級魔法を受けて掠り傷だと?
「あ、あぁ……。ヴェ、ヴェン様! ど、ど、どうすれば! どうすれば!!」
「クソッ……!」
まさかここまでなのか? 俺様の夢……魔王を討ち滅ぼし英雄となるという野望はここで潰えるのか? こんな有象無象のモンスター如きのせいで!?
「ふっ、ふざけるな……! ふざけんじゃねぇ、クソがよォおおおおッ!!」
許せねぇ! ブチ殺す!
こいつだけは殺す! ここで! 確実に!! この俺様の手で!!!
「ヴェン様!!! せめて武器をッ!!」
「黙れッ!! んなガラクタなんぞ必要ねえ!!」
死ね! 死ね!! 死ね!!!
全力の殺意を拳に乗せ、俺様はクソドラゴンに攻撃した。
だが、ヤツは小虫を弾くような動作で俺様を吹き飛ばした。
「ごはあッ!!!!!」
ああ――、チク……ショウ。
こんなところ……で……。
もう終わりだ。全員殺される。
そう思ったその瞬間、ヤツは姿を現したのだった。
「ぬぅうんッ!!」
ズシャァァアアアアアアッ!!!
『グッ! ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
そいつはたったの一太刀であのクソドラゴンを討伐してみせた。
俺様の目には、その後ろ姿はまるで英雄のように輝いて見えた。
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