第八話 いざ【最果ての洞窟】へ
それにしても驚異的なスピードだ。
偶然に偶然が重なった結果ではある。だが、まさか俺のスキルがここまでレベリングと相性が抜群だとは思わなかった。
「この短時間でもう90レベルですか。人類史を僅か一週間程度で塗り変えてしまうとは……。そろそろ疑い始めている冒険者もいますし、潮時なのではないですか?」
確かにそうかもしれないな。
今や俺のレベルは90。いくらカラドボルグを手中に収めているとはいえ、【神の後光】の連中が相手になるかは怪しいところだ。
「王都ギルドからの連絡によると、今日【神の後光】はあの魔王・サタナを討伐すべく【最果ての洞窟】に挑むそうですよ。私としてはいい機会だと思いますがね。……酒場でのこと、覚えてます?」
俺ははて? と首を傾げた。
「言ったじゃないですか。確かにカラドボルグは厄介ですが、心配には及ばないと」
「あー」
思い返してみればそんなことを言われたかもしれない。
だが、俺としてはどうにも釈然としないのだ。
「それはどういう意味なんだ? カラドボルグと言えばあの魔王を討ち滅ぼしたとされる退魔の聖剣だろう? ヴェンは伝説の代物とも言っていたが?」
「ええ、確かにその情報に間違いはありません。ですが、ヴェンという方は少しばかり思い違いをしているようですね」
「思い違い? それはどんな?」
「カラドボルグ――それは退魔の聖剣と呼ばれ、かつては魔王をも討ち果たしたとされています。しかし、それほど強大な力を有する武器ということでもある。そこまでいくともはや凡人の手には余るのです。誰も彼もが自由自在に扱えるというわけではないのですよ」
「なるほど。だが、ヴェンの職業は剣豪だ。それにレベルも36とAランクに恥じない強さ。十分に扱えると思うがな。事実、俺を殺そうと斬りかかってきたし」
「それは当然ですよ。カラドボルグは聖剣ですから。しかし、その真価を発揮するにはただ強いだけではダメなんです。カラドボルグは使用者を自らの意志で選ぶとされていますからね。話を聞く限り、ヴェンという方にカラドボルグを扱う資格はないでしょう」
どうにも頷き難い話だ。剣が人を選ぶ? 意志を持って?
そんなことがある得るのか? 仮にあり得たとして、だ。
「メアリさんはどうしてそんなに詳しんだ?」
「あー! もしかして私のこと馬鹿にしてます!?」
何故かいきなり頬を膨らませるメアリさん。
俺は首を横に振って否定した。
「馬鹿になんかしないよ。でも、妙に詳しいなって思ってね」
「妙に詳しいも何も、私はあの名門・マナクルス魔法学園を首席で卒業しているんですよ? 血の滲むような努力と勉学の末ようやくトップの座を得ることが出来たのですっ!!」
そう言ってメアリさんは誇らしげに胸を張った。
元々張ってはいるのだが。
「なるほど、納得したよ」
俺は非礼を詫びた後、感謝の意を伝えた。
「メアリさんには色々と助けられたな。とりあえずは【最果ての洞窟】に行ってみるとするよ。ヤツらには借りがあるからな」
ダンジョンの攻略推奨レベルは70。難易度はSSSだ。
だが、今の俺ならば難なくソロで攻略できるだろう。
スキルを全開で発動すれば、ボスフロアまで一直線だからな。
「では、魔王討伐クエストを発注します。ただその前に、一つだけアドバイスをさせて下さい」
「アドバイス?」
「はい。アドバイスというよりかは忠告ですけどね。魔王・サタナについて一つだけ分かってることがあるんです。それは、スキルについて」
なんと!
まさか魔王のスキルが判明していたとは。これは予想外だ。きっと、数々の冒険者の犠牲があってこその成果なのだろう。
「魔王・サタナのスキルは【属性極化】と呼ばれるものです」
「【属性極化】……」
「彼女はこのスキルで得意属性の氷魔法を極限にまで強化するのです。その状態で放たれる氷魔法はもはや魔法の概念を超越したなにかだと、聖書にはそう記載されていました」
「魔法の概念を超越したなにか、ね」
だとしてもだ。
聖書に記されている以上、その攻撃を受けてなお生き延びた人間が居るという事だ。
人類史と照らし合わせれば、その人物のレベルは確実に60よりも下。
ならば心配は無用だろう。
「ありがとうメアリさん。でも大丈夫。装備品も回復薬も用意してあるし、運が良ければカラドボルグを奪えるかもしれない。それに、俺は絶対に油断しないからな」
俺が断言すると、メアリさんはどこかホッとした様子で胸を撫でおろした。
それから、例の優しい笑顔を浮かべ、あの言葉をかけてくれるのだった。
「では、御武運をお祈りしています。レインさん!」
「ああ。行ってくるよ、メアリさん!」
こうして俺はSSS難度のダンジョン【最果ての洞窟】へと向かった。
魔王・サタナを討伐してみせるために。
なんの為にと聞かれると理由は一つしか無い。
【神の後光】を追放された屈辱を晴らし、自尊心を取り戻す為だ。
俺が俺を認められるように。グチャグチャに踏み潰された誇りを取り戻すために。
ただそれだけが理由だ。
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