第五十話 最終決戦の始まり
「――え……?」
クオンジは首を傾げた。
何がどうなっているのか分からないといった様子だ。
だがそれも当然の反応である。何故なら、今さっきまで木椅子に縛り付けていたはずの少女、リリルの姿がなくなっているのだから。
「――あれ?」
そして何故か。
リリルと抱きしめ合う少女の姿が。
☆ ☆ ☆
「もう大丈夫じゃ。怖かったのう、リリル。よく頑張った!」
「うっ、うぅ、うわぁぁあああああ! えうう、うあああ! 怖かったよう、怖かったよう!」
リリルは泣きながらサタナに抱きついた。
安堵の涙を流すリリルを、サタナはよしよしと、まるでお姉さんのように撫でてあげた。
「――どういう、こと。どうし、て?」
「知りたいか、ゴミ野郎」
サタナは白いローブに身を包むクオンジに告げた。
自身の奥義、時間停止のことを。
もちろん、短時間しか発動できないという弱点は伏せて。
「――時間停止……。それ、は、すごい……や」
でも、とクオンジは続ける。
「――何故、ここが?」
クオンジが問うと、リリルも不思議そうな顔をした。
なので、サタナはリリルの首からぶら下がっているネックレスを指差して、
「その中に金貨が入っておるじゃろう。レインから譲り受けた」
と言った。
「あっ。それ、は……。ごめんなさい」
リリルは申し訳なさそうに眉を曲げた。
「せっかく頂いたのに、なんだか使うのが後ろめたくて。それで、お守り代わりにしてたんです」
それじゃ! とサタナは顔いっぱいに笑顔を咲かせた。
「妾とレインはいずれ婚儀を執り行う仲。故に、妾はレインの魔力であれば、それがどんなに微弱な物でも拾えるのじゃ。魔力探知スキルによってな」
「――なる、ほど。あ、あは……あは、は。そっかあ。魔力、探知。い、いいなあ――欲しいなあ、その、そ、その、スキル……」
なんじゃコイツは。
さっきから異質な雰囲気だが……。
「――ああ、そう、だ……。君、名前、は?」
「妾か? クク、生意気な奴よのう。名乗る時は自ら名乗れと教えられなかったか?」
サタナが言うと、クオンジはバサッとローブを脱ぎ捨てた。その姿に、サタナは目を見開く。
「なっ! お主は一体!?」
サタナはその顔に見覚えがあった。その顔は、学食でレインに助けを求めた顔だったからだ。
全く同じではない。だが、かなり似ている。例えるならば、まるで全てを真逆にしたかのような。
ノエルとは真逆に純黒の長髪。ノエルとは真逆にルビーのような双眼。同じなのは、雪のように透き通る白い肌だけだ。
「――僕、は……クオンジ。ロイス君とヴェッジに作られた、魔力生命体……らしい。心臓は、ない。魔力が……魔力、そのもの。だから。死ぬことも、ないらしい」
魔力そのもの?
まるで意味が分からんが、とりあえずは……。
「リリルよ、とりあえずは妾のそばを離れるでないぞ。死にたくなければな」
言いながら、サタナはスカートのポケットに入れたスマホウ・フォンを操作する。ボタン一押しでレインに連絡がいく、そういう状態にしてあったのだ。
リリルは涙目な表情を浮かべながら、「離れるでないぞ」というサタナの言葉に何度も何度も頷いていた。
☆ ☆ ☆
「やぁやぁ、遠路はるばるご苦労様。それにしても早かったねぇ。まるでSSSランクモンスターなんて相手にならない、とでも言いたげじゃないか。ええ? レイン君」
俺は今、SSS難度ダンジョン【螺旋の白亜塔】へとやって来ていた。
この場所に、ノエルと俺の二人だけで来るようにというのがロイスの指示だったからだ。最初は気付かなかったが、手紙の裏面に記載されていたのだ。
「約束通り来てやった。リリルは解放してもらおう」
俺が言うと、ロイスは「はあ~~~??」と大口を開けた。
「順番が逆でしょ? まずはノエルを返してもらう。それが条件! 当然だろう?」
「そう、か。確かにそうだな。確かにそれが条件だな」
俺が言うと、ロイスは「あはっ♪」と嬉しそうに手を叩く。物分かり良いじゃない、などと言って。
俺の横に並ぶノエルは不安げな表情を浮かべている。だが俺は、ノエルを返すつもりなどは微塵もなかった。
何故なら。
――ヴヴヴヴヴ!
コートのポケットに入れたスマホウ・フォンが振動したから。つまりは、サタナが無事にリリルを救出してくれたのだ。
ともなれば、お返しするのはたった一つ。
「今から返す」
言いながら、俺はノエルを置き去りにズカズカと歩いていく。
「ンぁ? おい、ノエルッ――はっ!!???」
俺は全力の右ストレートをお返ししてやった。
ドガガッ! ガガガガガっ!!
と。ロイスは大地を抉りながら吹き飛んでいく。
「がッ! ぐ、ぶぉッ!! ブばガバぁっ!!??」
「しっかりと返してやったぞ。お前がリリルに与えた恐怖の、ほんの百万分の一程度に過ぎないがな」
俺のレベルは150近く。大してロイスは50付近だという。凡そ100レベルのステータス差が両者には存在している。
そんな状態で俺の渾身の一撃を受けたのだ。死にはしないだろうが、一撃で失神は免れない。そう思っていたのだが。
ロイスは、ムクリ――と起き上がったかと思うと。
殴られた箇所を抑えながら、狂ったように笑いだしたのだった。
「あひゃはやはははは!! あーーーーはっはっひゃっはっひゃ!!」
「まだ足りないか。なら、もう一発」
「無駄だよ」
ぬうっ、と。
ロイスは俺の立っていた真横から顔を覗かせた。
闇魔法による瞬間移動の再現だ。
「フンッ!!」
再度拳を振るう俺。
だが、やはりその攻撃は瞬間移動で避けられてしまった。それどころか、再度姿を現したロイスは。
「そ、そんな……」
俺の隣で、ノエルが口元を抑えて驚いてみせた。なにせ、俺が与えたはずの傷跡。それがロイスの顔からは消えていたのだから。
「あのさァ、僕に攻撃しちゃっていいわけ? レイン君、人質の意味分かってる?」
ロイスはまだ知らない。
リリルが救出されたことを。
だから、俺は親切丁寧に教えてやった。
「リリルなら俺の仲間が助けたぞ」
「……は?」
「聞いてみろよ、そのスマホウ・フォンとやらで」
促され、ロイスはスマホウ・フォンを耳に。
そして数秒後、噴火した。
「ふざけるなっ!! あ~~~~~、なんでだ。どうして上手くいかない!! 僕の計画は至って完璧、そのはずじゃないのか!?」
「うるせえよ」
ドゴァッ!!
「ぶべっ!? あぐぇ!!」
二発目の右ストレートを受け、ロイスはガクリと動かなくなった。
かに思えたのだが。
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