第五話 崩壊の足音
「レ、レベル40~~~ッ!?」
大声を上げたのはもちろん、受付嬢のメアリさんだ。
本名はメアリ・ルー。
マナクルス魔法学園を首席で卒業し、大魔術師としての活躍が期待されていた人物だ。それが何故冒険者ギルドで受付嬢をやっているのかは、謎に包まれている。
「何が起きているんですか!? たったの二日で32もレベルが上がるだなんて前代未聞ですよ!? しかも経験値モンスターがほとんど居ないとされるこのご時世に!!」
食い気味だ。非常に食い気味である。だが驚いているのは俺も同じ。何故なら。
レベル40、それはあのヴェンを上回っているからだ。
(※ちなみに魔王の推定レベルは70らしい。)
以前までの【神の後光】のメンバーの概要は、
ヴェン・ルーゼン
レベル36 職業:剣豪
スキル 剛剣(剣装備時攻撃力1.5倍)
ソラ・ルミナス
レベル30 職業:聖女
スキル ジ・オール(発動した魔法がパーティ全体にかかる)
グラン・ギドレイ
レベル31 職業:パラディン
スキル 鉄壁(防御行動時防御力1.5倍)
レイン・ロッド
レベル8 職業:剣士見習い
スキル 超威圧(モンスターを怯えさせる)
とまあこんな感じである。
それがたった数日の間に大逆転だ。
まさかこんなことが起こり得ようとは。
「どんな魔法を使えば、たった二日で32もレベルが上がるんですか! それも初心者用ダンジョンですよ! Fランクダンジョンですよっ!?」
「うう、とりあえずは落ち着いてくれないか? あまり騒ぎにはしたくないんだ。俺にも俺なりの事情があるからな」
「うっ! そ、それは失礼いたしました。しかしこれは驚きですよ。今のところ話題にはなってませんが、このような異常事態が続けば騒ぎになるのは時間の問題かと」
確かにそうかもしれない。
事実、スライムを狩り続ける最中、数人の冒険者の視線を感じた。おそらくは初心者だろうが、それでも疑問に思ったはずだ。宝箱を探しもせずに何故スライムばかりを狙うのだろうか? と。
「何か事情があるのであれば、私が相談に乗りますよ?」
メアリさんは優しく微笑んだ。
うむ、冒険者ギルドの紅一点と言われる理由が分かったかもしれない。
かくして、俺は二日後の夕方、メアリさんと酒場にて待ち合わせる事となった。ギルドに隣接する冒険者用の酒場で、毎日のように情報の売り買いがされているという。
「かなりうるさい場所なので、秘め事を聞かれるということはありません。ですのでそこはご安心を」
メアリさんなりの気遣いというわけだ。
俺としても、ヴェン一行にされた仕打ちを一人で抱え込むのはそろそろ限界だった。事実、体は無意識の内に悲鳴を上げ、バーシーさんを心配させてしまったしな。
ここらで一度話を聞いてもらうのも悪くはないかもしれないなと、そう思ったのだ。
☆ ☆ ☆
席に着いて、一思いにドリンクを煽る。
その後、俺は口を開いた。
「俺は元々、王都セグルで活動していた。Aランクパーティ【神の後光】の一員として、スキル【超威圧】で後方支援に徹していたんだ。当時の俺のレベルは……たったの8だがな」
後方支援。つまり、モンスターと戦う能力がないという事だ。そしてモンスターと戦えないという事は経験値を稼げない。
つまり、レベルが上がらない。
「自分のレベルが低いというのは理解していたさ。でも、彼らはそんな俺を受け入れてくれた」
だが、それは嘘偽りだった。奴らは俺を利用し、効率的に装備品とアイテムを集めたかっただけなのだ。
奴らにとって、俺はただの道具に過ぎなかった。
路傍の石以下だと謗られ殺されかけたことを告げた後、俺は口を閉ざした。
「なるほど。そんなことがあったんですね。確かに高レベルな戦いについていけなくなったメンバーを追放するというのは珍しい話ではありません。ですが、まるで道具のように利用して捨てるなど……人間の風上にも置けません!!」
「メアリさん。俺、こう見えてあいつらに感謝してたんだ。低難度ダンジョンしかクリアできない俺みたいな人間を、あいつらは必要だと言って手を差し伸べてくれた……。俺、頑張ったんだよ。報いようってさ。期待に応えられるように、もっと必要だって言ってもらえるように――」
「大丈夫ですよ、レインさん。私は分かってます。ちゃんと分かってますから」
メアリさんの優しい言葉に、張りつめていた何かが決壊した。俺は周りの目線も憚らずに泣いた。男のくせにと笑われるかと思った。
だが、そんな言葉を投げ掛けてくる人間は、この場には一人もいなかった。
しばらく経って落ち着いた俺はふと話の本筋を思い出した。
「ああ、だいぶ話が逸れてしまった。とにもかくにも、俺は【神の後光】の連中に生きていることをバレる訳にはいかないんだ。それにリーダーのヴェンはカラドボルグを手に入れているしな」
「なるほど。確かにカラドボルグは厄介ですね。ですが、それほど心配する必要はないと思いますよ?」
「……え?」
俺はメアリさんの言葉の真意が理解できなかった。
それほど心配する必要がないとはどういう事だろうか?
「あ、すみません。おかわり下さい」
首を傾げる俺をよそに、メアリさんはドリンクを追加注文していた。
俺が彼女の言葉の意味を理解したのは数日後。
レベルが90を超え、魔王討伐クエストを受注する頃の事だった。
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