第四十四話 衝撃に次ぐ衝撃
今日は後2話、章完結まで更新します!!
拝啓、レイン・ロッド様と記された封を切り、俺は四つ折りの手紙に目を通した。
『やあ、こんにちは。始めましてではないよね? 僕の名前はロイス・レイウス。君のクラスメイト、ノエル・レイウスの実の兄です。
酒場で君と出会った時のことを僕は昨日のことのように覚えているよ。あの時は君を殺してやりたくて仕方がなかったが、君から溢れ出る威圧感がそれを許さなかったね。
でも、もう僕は形振り構わないことに決めた。
ノエルとこの子が友人なのは知っていたが、まさか君とも面識があったとはね。これは利用できる! そう思って、僕は信用できる部下の一人に彼女を誘拐させたという次第さ。
要求は至ってシンプル・イズ・ベスト。
難しいことは何もない。
ノエルを僕の元へと返すんだ。
ちなみに、君に選択肢はない。
この前のような邪魔立てをした暁には、この子は死ぬことになるのだからね。
場所はこちらが指定する。
ちなみに、君の行動の全てを僕は把握している。
学園内にお友達がいるからね。
時刻は明日の正午。
僕が指定したダンジョンに君とノエルだけで来るんだ。
約束を破った場合、やはり彼女は死ぬことになる。
では、お互いよい一日にしよう!
ロイス・レイウスより』
俺は手紙を握りつぶした。
怒髪衝天、とはまさにこの事だ。
「どうしたの? なにが書いてあったの?」
「メアリさん、サティ」
俺は二人に呼びかけた。
お友達、というのはすなわち内通者のことを示しているに違いない。つまり、この学園内部にロイスの協力者がいるのだ。
現状、イニシアチブを握っているのはロイス。
悔しいがそれは認めざるを得ない。であれば、こちらが打てる対抗策は一つだけ。
二人に内通者を探し出させ、ロイスの弱点を探る事。なんでもいい。この状況がひっくり返るような何か。それを二人には見つけてもらわねばならない。
もちろん普通の戦闘とあらば俺が負ける道理はない。ロイスはカラドボルグが意思を有している事すら知らないだろうしな。だが、リリルが人質となっているとなれば話は別だ。俺はヤツに指一本触れることが出来ない。
圧倒的に優位なレベルの差。
ロイスはそれを、たった一通の手紙で逆転させてみせたのだ。まんまとしてやられた、というのが率直な感想。だがそれ以上に。
なんの罪もないリリルを誘拐し痛めつけたこと。
俺は何よりもそれが許せなかった。
必ずこの報いは受けさせてやる。
そして、どんな手を使ってでもリリルを助け出す。
どんな手を使っても。
☆ ☆ ☆
「あのさ~、そろそろ吐いたらどうなんだぁ~? その方が楽だぞ? 俺も、いつまでもお前みたいなゴミの為に残業したくないんだがな~」
場面は移ろいで。
マナクルス魔法学園の地下に存在する地下牢である。
様々な魔法の効果が何重にも重複しており、ある特定の人物に対しては超デバフを、ある特定の人物には超バフを施すような、そんな都合のいい空間だ。
故に、今両者の間にはレベルで例えるならば500以上もの差が生じている状態となっていた。この場においては、レックは小指一本でジェイを葬り去れるのだ。
「ぐ……、フフ。私、からは何も引き出せ、ませんよ。何故なら私は神に――」
ドゴッ!
「うおおおおっ!」
レックによる容赦のない一撃。
血と吐瀉物と糞尿が石造りの地面一杯に散らばる。汚らわしい光景だが、不快感は皆無だ。魔法によって異臭を完全に排除しているからだ。ただしレックのみ。
ジェイは、この汚物が放つ匂いを直に嗅がされ続けている状況だ。しかし、それでもなお彼の口から情報が漏れることはなかった。
「あ”~~~、クッソ怠ィな、お前」
同じ男性として非常に気が引けるが、とうとうアレをやる時が来たようだ。そう思い専用器具を手にした時の事だった。
バタンッ!!
と扉が開かれ、友人の魔法局員がやってきたのは。
「お~、お前にしては随分と掛かったじゃないか」
「うるせえ」
漆黒の正装に身を纏った髭面の男は、地下牢に入るや否や、葉巻に火をつけた。
「相変わらず、ゴミみてェな場所だなここは」
かつて彼は拷問師という職に就いていた。だが、百人あたりを殺したところで心が壊れた。メンタルを病み、もう死んでしまおうか? そう思った矢先にレックと出会ったのだった。
レックは彼に一本の葉巻を手渡し、こう言った。
「吸ってみろ~。ゴミみてェな味がするから」
「んだそりゃ」
なんだこいつは。頭がおかしいのか? そう思いつつ、夜景を眺めながら彼は葉巻を吸った。その葉巻は確かにゴミのような味がした。だが、不思議と胸がスッキリとする。
「なんだこりゃ?」
「マジックアイテム。一本300万ゴールドだ。感謝しろよ~」
レックが言うと同時に、彼は目を見開いた。
初めて出会った男。それなのに……。
「お前、俺の命に300万ゴールドも値段を付けるのか」
「バカか」
レックは吐き捨てるように言った。
言いながら、実際に唾を吐いた。
「人の命がそんなに安い訳ねェだろ」
このようなやりとりを経て。
彼、ブラン・ロードマンはレックの友人となった。
そして、レックの頼みなら大抵のことは聞くようになったのだ。
「何重なんてレベルじゃねえ。何千にも積み重ねられた魔法防御が履歴の復元をほぼ不可能な状態にしてやがったんだ」
「何千って。どんだけだよ~」
「ああ、相当にクレイジーだ。だが相手が悪かったな。魔法局の人間が本気になれば解除できない魔法防御なんてものは存在しねぇ」
レックは例の葉巻を一本取り出し、口に咥えた。
超高級品のマジックアイテム。精神的ストレスを一瞬で抹消する効果がある。
「拷問は疲れる。お前、よくもまあ百人もやったもんだぁ~。尊敬するよ」
「今はその話はいいだろ。それよりだ。いいか、落ち着いて聞け」
ブランは神妙な面持ちでレックの双眼を見据えた。
レックはマイペースに、ふわ~と煙を吐いていた。
「履歴からヤベェ人間の名前が出てきた」
ブランが言うと同時に、ガタガタッ! と音が響く。
椅子に縛り付けられたジェイが暴れているのだ。
「貴様!! ハー、はーっ……。余計なことを、喋ったら殺す!! 殺すぞッ!!」
それを見たレックは「やれやれ」と肩を竦め。
「おい、ゴミ」
カチャカチャ。
ある器具をジェイに取り付けた。それは、無理やりに目を開かせる道具だ。取り付けられれば、どんなに目が乾こうとも瞬きができなくなる。そんな鬼畜器具だ。
「次喋ったらマジで殺すぞ~?」
言いながら、レックはジェイの眼球に葉巻を押し付るのだった。
ジュァアッ!!
「ッ!! ぐっ、ギャワヮアアアアアアアアッ!!」
あまりの激痛に失神するジェイ。
そんな彼を背に、レックはブランに問いかけた。
「で? ヤバイ名前ってのは?」
レックの問いに、ブランは一筋の汗を流しながら答えた。震えるブランの右手が、事の重大さを物語っていた。
「……それ、マジ?」
レックの右手も同じように震えだす。
恐怖ではない。あまりの驚愕によるショック反応だ。
「ああ、マジだ」
言いながら、ブランはレックにスマホウ・フォンを手渡した。スマホウ・フォンの履歴の欄には一つの名前が記されていた。
――ヴェルモンド・スーラ、と。
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