第四十話 【エイミュの書】
今日、筆が進むので結構更新するかもです。
次話は12時更新です!
クラスメイトから向けられるいくつかの眼光を潜り抜け、俺はノエルの元へと駆け寄った。最初にノエルとやり合っていた生徒は、数分もするとヒーリングルームへと逃げて行ってしまったらしい。
特に怪我をしたというわけでもないというから、やはりノエルの嫌われ具合は、ポムを倒してもなお変化無しということなのだろう。ちなみに当のポムはというと、心身ともに大ダメージを受けたらしく、十日間の休暇を申請したという。
「隣、座っていいか」
「ああ、レイン君か。いいよ」
俺たちは段差を椅子代わりに、課題に臨むクラスメイト一同を見やった。俺から見れば、彼らとノエルにはなんの違いも感じられない。しかし、向こうから見ればそうではないのだろう。難儀なことだ。
「おかしな話だよな。同じ人間なのに」
「同じ人間? 私の目には、レイン君は化け物に見えたけど。サティ先生もね」
茶化すようにノエルは言った。
「でも、俺と友達をやめようなんて思わないだろ?」
「うん。レイン君は私の恩人だから。あの時レイン君が現れなかったら、私はきっとあのバカ兄貴に連れ戻されていた。そしたら、道具のように扱われていたでしょうね」
だから、君を遠ざけた。
涼風に乗って、そんなノエルの声が届く。
「レイン君まで嫌われたらどうしようって。そう思ったら、ああするしかなかったの」
俺が編入してきてからの約十日間、ノエルは俺を冷たくあしらった。そのことを謝罪しているのだ。
「いいよ。全く気にしてないから」
「本当?」
「ああ、本当だ。……そもそも、俺がこの学園に来たのは魔法を学びたいからとか、そういうのが理由じゃないからな」
ノエルは「前も聞いた」と相槌を打った。
「それに、レイン君ってどこからどう見ても普通じゃないもん。レベル50を超えるバカ兄貴が下手に出た時点で相当の腕利きなのは間違いないしね」
ほう!
あの金髪眼鏡の優男=ノエルの兄貴は、あの時点では俺よりも10もレベルが高かったらしい。
スキル【超威圧】があるとはいえ、まともにやりあえば互角、もしくは劣勢だったかもしれないな。
「その、ノエルの兄貴ってのはどういう人間なんだ?」
俺の言葉に、ノエルは「ん-」と逡巡する素振りを見せた。もしかしたら、容易に心の深い所に踏み入りすぎたかもしれない。
「いや、言いたくないのなら言わなくてもいいんだ」
「いや、そうじゃないの」
でもね、とノエルは困ったような笑みを浮かべる。
「ちょっと説明が難しいんだ。子供の頃は仲が良かったんだけどね。でも、ある日を境にすっかりと人が変わってしまったの。確かあれは、【エイミュの書】ってのを見つけた時のことだったかなあ?」
【エイミュの書】とは聞いたことが無いな。
聖書の一つだろうか?
俺は頭の中でそんなことを考えた。
と、次の瞬間。
ノエルは、衝撃的な一言をあっけからんとした様子で言って見せたのだった。まるで当たり前であるかのように。まるで呼吸をするかのように。
「ああ、ごめんね。【エイミュ】っていうのは古代文字で【光】って意味なの」
途端、ありとあらゆる時間が静止した。
少なくとも、俺はそんな錯覚を覚えた。
風も、それに揺られる草木も、課題を必死に熟すクラスメイトの一挙手一投足も、そんな彼らを見守るレックの挙動も。そして、この世界の回転でさえも。
この世界の全てが色彩を失いセピア調に染め上げられていくような……。
そんな奇妙な感覚に、俺は襲われたのだった。
「――イン君? ちょっと、レイン君?」
ノエルが心配そうな表情で俺の横顔を覗き込んできた。
そんなノエルに、俺は一語一句、確認するように問い返す。
「古代文字……というのは?」
「あ、そっか。分からないのも当然よね。世界で一冊しか発見されてないみたいだし。変なこと言っちゃってごめんね? 今のは忘れて」
それは無理な相談だ。今の話を耳に、「はい全部忘れます」とはならない。まさかだ。まさか、こんな近くに手掛かりが居たとは。
「よく分からないが……、それで?」
いきなり食い気味にいったら、きっと不愉快な気持ちをさせるに違いない。そう思い、俺は平静を装った。
「君の兄の話」
「ああ、そうだったわね。それでね、私がその本を読んでたら態度が急変しちゃって。それに、父も母もあの日からおかしくなっちゃったのよ。しまいには聖書がどうのこうのって始まってね。私はそれが嫌になって、実家からお金を持って、単身この学園に入学したの」
「そう、か。そんな事があったんだな。それにしても分からないな。なんとかっていう本を読み始めたらおかしくなっただなんて。それは呪いの本なのか?」
さりげなく、話題を【エイミュの書】へと移した。
「呪いの本なんかじゃないわ。でも、何が書かれているかは教えられない。あんなもの、誰も知らない方がいいのよ」
言いながら、ノエルはどこか物憂げな表情を浮かべた。
そんな俺たちの背後から一つの声が飛んできた。
「お~、随分と仲良しじゃないか、二人とも」
「あっ、先生!」
レックだ。
ふわ~、といつもよりも大きな欠伸と共に、俺の横へと腰かけた。
「お前への自由行動は許可したが、ノエルには許可出していないぞ~。このままじゃあ減点になっちまうな~」
ノエルは「そんな……」と悲観した。
が、しかし。
「サボりは減点。だったらサボった分だけ挽回すりゃあいい。ノエル、後で職員室に来い」
「えっ?」
「とある理由で残業が続いててな~。お前に書類の整理を手伝わせてやる。それで減点はチャラだ。ま、嫌なら無理強いはしねェけど」
「やりますっ! いえ、やらせて下さい!」
ノエル、両手をギュッと胸元に。
気合に満ち溢れている! といった様相だ。
「お~ぅ、やる気があって何よりだ~」
土埃を払いながら立ち上がるレック。
ちらり、と俺を一瞥した後、ノエルを引き連れ校庭を去っていったのだった。一限終了まではあと十分。他のクラスメイトも、いつの間にか各自自由に行動していた。
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