第四話 スライムは仲間を呼んだ!
再び【ボポンの森】にやってきた俺は、昨日の出来事を再現しようと計画していた。
普通、ダンジョンに存在するモンスターの絶対数は限られている。だが、モンスターが仲間を呼んだ場合に限り、何故かその絶対数は崩れるのだ。詳しいメカニズムは謎に包まれ、多くのモンスター学者が研究の題材にしている。
スライムが仲間を呼ぶ習性を持つことは俺も知っている。だが、昨日のアレはどう考えても異常事態。なれば、なんらかの理由があったはずなんだ。
「あの異常事態の原因を解明できれば、あるいは……」
最近では経験値の高いモンスターの数が減ってきている。理由は分からないが、何者かが独占しているのではないか? というのが大衆の予想だ。
だがもしも昨日の出来事を再現できたなら。
もはや、経験値モンスターに価値などは無いのでは?
何故なら、ローリスクハイリターンを実現できるのだから。
「ま、時間はかかりそうだが、なっ!!」
独りごちながら、昨日と同じように、スライムに不意打ちを仕掛けた。
ザシュッ!!
『ピギィッ!?』
斬り心地にこれといった違いは感じられない。
おそらくスライムが弱すぎるからだろう。
「まずは一匹。他には三匹、か。とりあえずは様子見だな」
俺は剣を鞘に収め、その場に立ち尽くした。スライムたちにこれといった変化はない。そのように見えたのだが――。
「……!?」
一瞬だった。なにか違和感を覚えスライムの方に目をやった時。三匹のスライムが一斉に飛び跳ねたかと思うと、着地と同時に六匹に増えたのである!
(まさか分裂か!? いや、それにしては大きさに変化がないのは妙だ)
スライムは分裂することが可能なモンスターだが、その場合、分裂したスライムの大きさは小さくなるのだ。だが、あのスライム達にはそれがなかった。
「まあいい。次は二匹……」
ザシュッ!
ザンッ!!
『『ピギアーー!!』』
俺は二匹のスライムを撫で切りにし、もう一度立ち尽くした。無論ただ立っているわけではない。一瞬たりとも逃さぬよう、スライムたちを観察しているのだ。
(さあ、どうなる?)
しばらくすると、またあの瞬間が訪れた。
二匹のスライムが一斉に飛び上がり、着地と同時に、数が増える!!
「なるほど、ねぇ」
間違いない! と俺は確信した。
これだ。スライムの仲間を呼ぶという行為。それがこれなのだ。
理屈は分からん。どこから湧いてきているかも分からん。ただ一つ分かる事、それは――。
昨日の異常事態を再現することが出来るという事、ただそれだけだ!
「悪いな、ここからは一方的に狩らせてもらうぞ。弱い者イジメは好きじゃないんだが、致し方なしというヤツだ。恨むんなら、モンスターに生まれた自分を恨んでくれ!!」
その日、俺は日が暮れるまでスライムを狩り続けた。
何度撃破しても無限に湧いて出るスライム。しかも、死のリスクは皆無。
こんな最高のレベリングスポットを、俺は知らない。
「はぁぁあああッ!!」
無我夢中だった。
スライムを討伐する最中、俺はヴェンに言われた言葉を思い出していた。
「あの、レイン……様?」
御者に呼ばれ、俺はようやく狩りをやめた。
あまりにも遅いので、まさかとは思いつつも見に来てくれたらしい。
「へへ、余計なお世話でしたね。アッシでも素手で攻略できるんですから」
「はぁ、はぁ。……面倒をかけたな。今日は帰ることにするよ」
「そう、ですか。ところで――」
御者はふいと俺から顔を逸らした。
なんだ? なにかついているのか? そう思っていると。
「これ、お使いください」
渡されたのは一枚のハンカチだった。
「分かりますよ。アッシも泣きたくなる事くらいありやすから。でも、そんな時こそ抱え込まないで素直になってもいいと思うんですよ。って、これまた余計なお世話っすね! へへ、すいやせん」
どうやら俺は泣いていたらしい。自分では気付かなかったが――否、気付かないように目を背けてきたが【神の後光】を追放されたという事実には、それなりのダメージを受けていたようだ。
「ありがとう。あんた、名前は?」
「アッシですかい? アッシの名はバーシーって言いやす。冒険者の方々をダンジョンまでお運びするのが仕事、というのは言うまでも無いっすかね?」
「ふふ、良い人だな、バーシーさん。ありがとう。これは有難く使わせてもらうよ」
俺は涙を拭い、それから取り繕うように笑って見せた。
心の傷は簡単には癒されないが、今はバーシーさんの優しさが嬉しかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!