第三十七話 ノエル・レイウスVSポム・マルクス②
「なっ! これは、僕の魔法じゃないかッ!!」
その通りだ。
コイツらは闇属性を忌み嫌ってばかりで、理解しようなどと言う気は毛ほども無かったのだろうな。その結果がこれだ。
そして、ノエルが仕組んだブラフ。それが魔法名の詠唱である。
吸収球体と聞いた限りでは、魔力を吸い取る魔法にしか思えない。
だが、ノエルのあの魔法、その実際の名称は裏空間。空間に作用し、ありとあらゆるものを自由自在に出し入れすることのできる魔法なのだ。
完全に受け身な魔法であるが故に、そして目立つことを避けるために、ノエルがその真価を発揮させることはなかった。ただし、それは今までの話だ。
「まさかコピーのスキルを持っているのか!? そっちがそう来るなら、僕だってスキルで反撃してやる! 喰らえ、大鉄槌!!」
超巨大な鉄槌を顕現し、それを自由自在に操ることが出来る。それがスキル大鉄槌なのだが。ポムの行動は完全に悪手だ。理由は言うまでも無いだろう。
「吸収球体!!」
ノエルは再度、裏空間を発動する。ポムの繰り出した大鉄槌はこれにてノエルの武器となる。それどころか、
ドドドドドドドドッ!!
大鉄槌で海龍旋豪を叩き潰そうとして失敗したポムの元に、着実に水の刃が接近していく。
「うわわっ! ど、どうなっている!? 僕が発動したのは魔法ではなくスキルだ。つまりお前の吸収球体では吸収できるワケがないんだ! だってスキルは魔力を消費しないんだから!」
「考えてる暇なんてあるの? はやく海龍旋豪を発動して相殺しないと……死ぬわよ」
「……ぐっ! く、クソ! 海龍旋豪!!」
もちろんこれもノエルの作戦である。
危機感を煽り魔法を発動させる。そして、それをもう一度、
「吸収球体!!」
裏空間で吸収する。
もう、ここから先は勝負にすらならない。
同じ光景がひらすらに繰り返され、やがて――。
「はぁ、はぁ、はぁ……。な、んで。どうしてだっ!! お前、おかしいじゃないか!! だって、お前の吸収球体はその名の通り魔法を吸収する……まほ……」
(やっ、やられた~~~~~ッ!!)
ポムはここに来てようやく気付く。
マナ・ドレインなどという詠唱はあくまでもノエルの口から出た言葉でしかないということに。つまり、たったそれだけの情報を元に相手の魔法を推測するのは早計だったのだ。
「だ、だっ、騙したなッ!!」
「騙されるアンタがバカなのよ。とはいえ、私には人を殺す趣味はない。あのバカ兄貴とは違うのよ。だからこれで勘弁してあげる」
大鉄槌!!
ノエルが右手を振り払うと、大鉄槌はその動きをトレースした。横振りされた大鉄槌は、まるで小虫を振り払うようにポムを場外へと吹き飛ばす。
「ぶぎょぎょぎょギョェエ~~~ッ!!」
ドッゴーーンッ!!
優しいノエルらしい決着の付け方だ。もしも大鉄槌が振り下ろされていたなら、ポムはゴミクズのようにペシャンコになって死んでいただろうから。
『しょ、しょ、勝負有り~~~っ!! 一体全体誰がこの結果を予測できたでしょうか!? マナクルス魔法学園史上初の超異常事態と言ってもいいやもしれません!!」
実況は溜めに溜めてから、右拳を天高くへと掲げて絶叫した。
『勝者、ノエル・レイウスゥウ~~~~~ッ!!!!!』
空間が割れるのではないか?
そう思わせる程の大歓声。
だが、瞬時に世界は二人だけになる。
闘技場から俺を見上げるノエルと、ノエルを見つめる俺と。だいぶ魔力を消耗したのだろう。ノエルの額には汗が浮かび、息も上がっている様子だった。
だが、その表情はどこか誇らしげで。
自分一人でなにかを成し遂げたという達成感、そして充足感が全身を駆け巡っているのだろう。
俺は親指を立てて微笑んだ。それを見たノエルは、
「えへへ」
同じように親指を突き立てながら、満面の笑顔で応えてくれたのだった。
☆ ☆ ☆
その後、俺の隣で黙りこくっていたレックがぽつりとこう言った。
「んだよ、ああいう顔もできるんじゃねぇか」
「もしかして惚れちゃいました?」
からかうように言うと。
ゴツン! と、げんこつが一発飛んできた。
「下らねぇこと言ってんな~。俺ぁこれから大忙しなんだ」
立ち上がるや否や、レックは俺に背を向け会場の出口を目指していく。
去り際、片手をひらひらとさせながら、
「精々仲良くやれよ~」
などと吐き捨てていた。
レックらしさ満載の、実にナルシストな振る舞いだった。
!!作者からの大切なお願い!!
面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方には是非、↓の★★★★★評価とブックマーク登録で応援して欲しいです! ★は1つでも構いません。皆様の応援が執筆の励みになりますので、応援よろしくお願いします!! ここまで読んで頂きありがとうございます!!




