第三十五話 ノエル、決闘を申し込まれる
デス・オーク討伐後、俺はスキル【超威圧】の対象をダンジョン全域に発動させた。もちろん、ノエルは効果対象外だ。
「少し様子を見てくる。ノエルはここに居てくれ」
ノエルを待機させ、俺はダンジョン外部の様子を伺った。だが、怪しい人物は一人もいない。分かりきっていたことではあるが、やはり追手は俺たちを見失ったようだった。
俺はダンジョン内へと戻り、ノエルにデス・オークの牙を手渡した。
「そろそろ帰ろう」
「でも、これは受け取れないよ。私一人の力で倒したわけじゃないもの」
「じゃあこれならどうだ?」
言いながら、俺はデス・オークの牙を二つに折った。
二人で倒した。だから二つだ。
「これなら、チームの勝利って感じがするだろう?」
ノエルは半分になったデス・オークの牙を手に取った。
それから小声で、
「でも、勇気をくれたのはレイン君だよ」
などと囁くのだった。
この謙虚な性格、半分くらいサタナに分けてやれやしないだろうか?
ダンジョンを出たあと、ノエルはすぐにスマホウ・フォンを取り出した。
「先生に連絡しなきゃ。もしかしたら遅れるかもって」
ノエル曰く、時刻は十時四十分を越えているという。
あと十分で二限が終了。遅れれば、単位は0ということだ。
それを先に言ってくれ、と思いつつ、
「ノエル、もう一度だけ乱暴を許してくれ」
「えっ、ちょっと、まさか」
俺は問答無用でノエルを抱きかかえ、再び大地を蹴っ飛ばした。
ドォッ!! と大地が抉れ、俺たちは猛スピードで空を飛んだ。
「アンッ、タの脚力は! どうなってんのよぉおお!!」
ノエルは悲鳴を上げながら、来た時と同じよう、必死に俺に捕まるのだった。決して振り落とされまいとする姿は小動物的で実に健気なものだった。
☆ ☆ ☆
「なっ、なっ、なんだって~~~!?」
マナクルス魔法学園の校庭にて、二限目の結果発表が行われる。評価基準は大きく分けて二つ。討伐したモンスターの強さ、そして攻略にかけた時間である。
ちなみに評価担当のレックはジェイを地下室へとぶち込んだあとで校庭へと戻ってきていた。拷問の続きは放課後、つまりは残業確定である。
「とはいえ、今回はトラブルもあったがな~。ま、結果としてお前らが無事なら良かったよ~」
などと言いながら、レックはあからさまに俺の方へと目線を据えた。丸眼鏡の奥の双眼は、まるで射抜くが如くに鋭かった。
「先生、納得できません!!」
右手を高々と掲げながら躍り出たのは、ポム・マルクスという生徒だ。金髪おかっぱに糸目小太り。見るからに金持ちのお坊ちゃまといった身なりで、事実、マルクス家というのはかなりの大富豪らしい。
去年この科目で一位を取った生徒らしく、二限開始前には、
「ふんっ! どうせ今年も僕が一番さ」
などとナルシストな振る舞いを見せていた。
ちなみに今年の結果は二位らしい。
「んァ~? なにが納得できない、マルクス。言ってみろ~?」
「今年のモンスター討伐はイレギュラーが重なっていました! 意味不明な黒服に時間取られるし、何故か二人一組になるし!」
叫びながら、ポムは忌々し気に一人の少女を指差す。黒縁眼鏡の茶髪ツインテール。確か名前はミッツェル・クローバーとか言ったか? あまり覚えていないが。
「ミッツェルが足を引っ張らなければもっとスムーズにモンスターを倒せました! そうすれば僕は二位になるだなんてことはなかった!」
「お~、そうかそうか。ま~たしかに零理あるな、お前の言い分も」
零理とは?
「ま、トラブルの件に関しては学校側にも責任がある。セキュリティが甘かった。だがな~、それを除けば今回の授業は至って平等に行われた~、そうじゃないか? そもそも、チーム分けの段階でミッツェルを選んだのはお前だろ~? なのに、いざ自分が一位を取れなかったら責任転嫁って、そりゃあ筋が通らないだろうよ~」
「ぐっ! そ、それは……」
ポムは強く拳を握りながら、それでもなお食い下がった。
「分かりました。ミッツェルに非はない、それは認めます」
ポムはミッツェルの元へと駆け寄り、「すまなかった」と素直に頭を下げた。思っていたよりも潔い性格をしているな。そう思いながら騒動を見ていると。
「しかし、やはり納得できません! どうしてあのチームが一位なのですか!!」
そう言って俺を……否、ノエルをビシィッ! と指差したのだった。
「なんでって……。ああ、そういう感じ? お前さぁ、もう少し大人になろうぜ~? 確かに気持ちは分るよ。闇魔法なんてキモいもんを固有属性に持つ女の子だもんなぁノエルは。俺も出来るなら視界に映したくないさ」
酷い言いようだな。
「ならばどうしてっ!!」
「いや、しょうがなくねえ? 流石にデス・オークの牙を持ってこられたらさ~。教師としては相応の評価をせざるを得ないだろうよ。俺にだって葛藤する気持ちはあるんだ。しかし、公平性を欠いたらその時点で授業は機能しなくなる~。ポム、お前は賢い生徒だ。いつか必ずビッグな人間になる男。ならばその懐の大きさを以てして、この場は収めてくれないか~? この俺、レック・オルタの名前に免じてよぉ~」
フム、見事な手腕だ。あの手の生徒は妙に自尊心が高い。だが、それ故に公平性などという筋の通っている言葉には弱い。
さらには相応の手練れであろうレックの名に免じてという謳い文句。ここまでされてなお騒ぎ立てるのであれば、それはすなわち、
「お前、俺の顔に泥を塗るってことだな?」
レックにそう言わしめるのと同義なのである。
つまり、ポム・マルクスはこれにて矛を――、
「しかしですよ!!」
収めなかった。
何だコイツ……。
「デス・オークといったらSSSランクのモンスター! そんなの学生の身分で倒せるハズがないでしょう!? 僕は納得がいきません。なにか裏があると、そう疑っているんですよ先生」
「なるほど~。ん~じゃあさ、お前はどうしたら納得してくれるんだ~?」
「ふふ、その言葉を待ってましたよ先生。おい、ノエル・レイウス!!」
ポムはノエルを指差し、高らかに宣言したのだった。
「お前に決闘を申し込む!! 時刻は今日の正午丁度。本当に不正がないというのであれば、この僕を打ち倒すことによって証明して見せろッ!!」
ノエルは困惑した表情で俺を見上げた。聞いていた話と全然違うじゃない、とでも言いたげだ。
そりゃそうだよな。自分が倒したモンスター、それがSSSランクだったなんて、普通は想像もしないだろう。
「ノエル、心配はいらない。今から俺が言う言葉をそっくりそのまま言ってやれ」
俺はノエルに耳打ちした。
ノエルはしばしの逡巡の後、俺が告げた言葉を一語一句違えることなく口にしたのだった。
「ほっ、ほえ、吠え面……かかせてやる、わよ」
さらには。
俺が言ったとおりに魔法の杖を真上へと突き上げたのだった。まるで中指を突き立てるような仕草で。
普段喋らない少女による強気な反撃。
沈黙の帳が降りたが、それを破ったのはレックだった。
「クッ、クックッ! ぶわぁ~はっはっはっはっはッ!!」
レックの哄笑に空気が揺らめく。
クラスメイトがざわざわとどよめきだしたのだ。
「何で笑ってるんだ?」
「ちょっと不気味」
「こわ~い」
「でも、なんかイイ!」
「ギャップってやつ!?」
「なにをしててもレック先生は格好いいわよ」
「イケメン大正義なりけり」
「いや~、ほんっと、レインが編入してきてから退屈しねェな~。聞いたところによると明日には特別講師が二人も来るみたいだし、本当に何がどうなってるんだ~~~? まあいい。ポム、お前の気持ちはよく分かった。その決闘、俺が責任を持って取り仕切ろう!!」
レックが言うと、ポムの表情がぱぁっと明るくなった。
「ほ、本当ですか先生!?」
「当たり前だ。こんなに面白れぇことを放っておくなんざ俺にはできないね」
「あ、ありがとうございますっ!!」
ポムは頭を下げると、ギンッ!! と凄まじい表情でノエルを睨みつけた。
その表情には「殺してやるぞクソ女」と書いてあるように見えた。
☆ ☆ ☆
「ねぇ、色々と説明して」
その後、俺たちは三限をすっぽかし第一図書室にやってきていた。ノエルが色々と説明して欲しいと懇願してきたのだ。
「ああ、分かったよ。ちゃんと説明する。でもそれは決闘が終わってからだ」
「え?」
「なにはともあれ、デス・オークを倒したのは半分はノエルの力。だから自分を信じろ。もうこれ以上卑屈になるな。自分と関わったら不幸になるだなんてこと、二度と言うな」
「……で、でも」
俺はノエルの頬に手を添えた。
透き通るような肌に、ブルーの瞳。そしてダイヤのような銀色の長髪。
本当、まるで芸術品みたいな女の子だよ。
「自分を信じろ。ノエルは絶対に勝てる。SSSランクモンスターを一緒に倒した仲間として、そして友達として、俺が断言してやるよ」
「あーもう!」
ノエルは俺の手を振り払い、気恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「レイン君さ、女の子との距離感がちょっとおかしいよ!」
「えっ?」
「でもまあ、ちょっとは元気が出た……かな? せっかくの友達が断言してくれたんだし、私やってやるわ!」
そう言うと、ノエルは魔法の杖を取り出し、それを真上へと突き上げた。
「吠え面かかせてやるっ……てね! ちょっぴりスカっとしちゃったわ」
ノエルはペロっと舌を出しながら、二ヒヒ、といたずらに笑ってみせた。
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