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第三十四話 ノエルの笑顔

第三章、最終話です。

「ぉぉおおおおッ!!」


 俺はそこそこの速力でフロアを駆け抜けた。全力を出してしまってはノエルに華を持たせてやれない。それでは本末転倒だからな。


『グオオオオッ!!』


 デス・オークは巨腕を振るい、俺を羽虫が如く潰そうとする。しかし遅い。あまりにも遅い。


 まるでスロウ魔法をかけられているかのような動きに欠伸が出そうになる。速い敵の動きについていくのが大変なことは知っていたが、その逆も大変だとは思わなかった。


「くっ! なんていう攻撃力!!」


 俺は間一髪で(かわ)す演技をした。


 デス・オークの攻撃は壁面を破壊し無数の瓦礫を降り注がせた。俺はそれを避けつつ、時にはカラドボルグで防御した。本当は避けるまでも無いがノエルの手前、そうせざるを得ない形だ。


「レイン君っ!」


 瓦礫に潰されてしまったのではないか?

 そんなノエルの心配する顔が目に浮かぶようだったが。


 ドガッ!!


「大丈夫だ、問題ない」


 俺は瓦礫を剣撃で吹き飛ばし、再度臨戦態勢を取った。

 ノエル目線では両者互角。しばらくはこの拮抗状態が続くように見えるだろう。


『ォオ、オオオオッ!!』


「ダメだッ!」


 俺は押され気味を演じながら叫んだ。


「まるで隙が無い! 攻撃力も範囲も桁違いだ!!」


「くっ、だから言ったじゃない! 早く出ましょうって!!」


 仰る通りすぎて申し開きの余地もない。

 とはいえ、ダンジョンを出ていたら追手の手によってノエルが危険に晒されていた可能性もゼロではない。


 敵の数もスキルも分からない以上は慢心できない。万が一に備え、俺はノエルを危険に晒す訳にはいかなかったんだ。


 そもそも、レックが二人一組を言い出したのもそれを見込んでのことなのだから。


 口頭でのやり取りこそ無かったものの、俺はレックにノエルを任されたのだ。であれば、俺はその責務を果たさなければならない。


 ――あいつと関わるなら半端なことだけはするな。相応の覚悟を持て――


 レックの言葉は、つまるところそういう事なのだろうから。


「ノエル、一つだけ作戦を思い付いた。聞いてくれ!」


 デス・オークの攻撃範囲、これだけは目を見張るものがあった。大雑把だが、仲間を引き連れていては注意を逸らされてしまう。瓦礫片が散弾のように降りかかるわけだからな。だが――。




 俺はダミアンをボコボコにしたあと、学生寮へと戻る途中で、ある場所へと寄り道をしていた。それは学生専用の図書室だ。


 第一魔法図書室と名付けられたその部屋には、おびただしい数の本棚が螺旋状に連なっていた。放課後――つまりは夜だった為か、蝋燭を乗せたランプがプカプカと浮遊していて、どこかメルヘンな空気感が漂っていた。


 そんな異質な空間で、俺は【属性の章】なる本棚を見つけた。そこには魔法属性について記載された本が並べられており、そして闇属性について解説したものもあったのだ。


 俺はそれに目を通し、闇属性の基本性能を理解した。相も変わらず、何故ここまで忌み嫌われるのかは分からなかった。だが俺は思った。


 これはかなり強いじゃないかと。


 闇属性魔法の基本効果は二つ。

 それは、吸収と放出だ。そしてそれを応用することによって瞬間移動のような技も再現できるという。


 俺はその闇属性魔法の性質を利用することにした。


 ザザザッ! と俺はノエルの元へと退避した。

 デス・オークは俺に目も暮れず、ただただ破壊の限りを尽くしていた。


「さ、作戦ってなによ? 私は何をすればいいわけ?」


「見ていて分かるだろう? アイツはバカだ。思考を停止し、ただただ破壊を貪るだけのモンスター。なら、ノエルの魔法を上手く使えばヤツを倒すことが出来る!」


「えっ?」


 俺はノエルに作戦を告げた。


「……本当に、それであの化け物を倒せるの?」


 不安げな表情を浮かべるノエル。俺は華奢な両肩に手を添え、笑顔を作った。どんな時でも笑顔は人を癒してくれる。俺はメアリさんと接し、それを学んだ。


「大丈夫。俺を信じろ!」


 俺たちが話している間にも、デス・オークは大暴れしている。天井を、壁を、大地を。視界に映るありとあらゆる全てを破壊してしまいそうな程の剣幕だ。


「正直言うとね、ちょっと怖いよ。でも私、レイン君のこと信じてみる!」


 あんなに嫌われていたのに、あっという間に距離が縮まった。吊り橋効果さまさまである。そんなことを考えながら、俺はデス・オーク目掛けて走り出した。


 作戦はいたって単純だ。


 1 デス・オークの振りまく瓦礫片を闇魔法で吸収。

 2 デス・オークの頭上で、吸収した瓦礫片を放出。

 3 デス・オークは瓦礫に押しつぶされ倒される。


「はぁあああああっ!!」


 俺は必死の形相を演じながらデス・オークの周囲を縦横無尽に駆け巡る。その間、ノエルが瓦礫片を闇魔法で吸収しやすいようにサポートしていたのは言うまでもない。


 俺がデス・オークの気を引いていたのは一分程度。だが、たったそれだけの短時間で、ノエルは見事に作戦の第一段階を終えてくれた。


「下がってっ!!」


 ノエルの指示で俺はデス・オークから距離を取る。

 そして。


 ズォオオオ……。


 デス・オークの頭上に展開された闇魔法から。


 ドガシャァァアアアアンッ!!


 大量の岩石が、まるで流星が如くに降り注いだのであった。


『グギャアアアアアッッ!!』


 皮肉だな。

 デス・オークは自身が作り出した武器によって討伐されたのだから。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「見てみろよ、あれ」


 そう言って俺が指差した先には。

 デス・オークの牙が一本、残されていた。

 他には4000ゴールド。


「アイテムがドロップしたんだ。あいつを倒したから」


 俺が言うと、ノエルはフルフルと震えだした。

 かと思うと。


 ドサッ!!


 なんと、俺に向かって飛び掛かってきたのだった。


「ううううう~~~!!」


 俺を押し倒しながら、ノエルは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。可愛らしい顔が台無しである。


「ノエル」


 俺はそんなノエルの涙を指で拭きながら、再度微笑みかける。


「とりあえず、降りてくれないか?」


「あわわっ! ご、ごめん!」


 ノエルは恥ずかしそうに飛び退いた。

 かと思うと、今度はクスクスと笑い始めるのだった。

 感情の忙しい子だ。


「どうした?」


「なんでもないわ。ただ嬉しいだけ。こんなふうに誰かと協力して何かを成し遂げたことって、私なかったから」


 ありがとね、レイン君。

 言いながら差し出された右手を。

 どういたしまして、と俺は握り返した。


「なあノエル。いきなりなんだが一ついいか?」


「ん? なに?」


 俺は一呼吸の間を置いてから、ノエルに一つのお願い事をした。


「俺と友達になってくれないか?」


 一瞬、陽光が差したかのような錯覚を覚えた。

 それ程までに奇麗な笑顔を携えて、ノエルは応じた。


「ありがと。凄く嬉しいよ、レイン君」


 俺を見据えるノエルの瞳は。

 まるでサファイアのように美しく、光り輝いて見えた。

これにて第三章は完結です!

読んで頂きありがとうございました!!


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