第三十三話 ノエルとの共闘
「えっと、ここは一体?」
「A難度ダンジョン【闇の洞窟】だよ」
俺は嘘を吐いた。もしもSSS難度ダンジョンだなんてことを知ったらノエルは怯えてしまうかもしれないからな。
「A難度って、課題よりも一つ上だけど……。ねぇ、帰ろう? レイン君。レイン君は知らないかもしれないけど、先生の言うことを破ったら減点なんだよ。Aランクのモンスターを倒したとしても意味なんてないよ」
「大丈夫、全ての責任は俺が負う。そんなことより先に進もう。ここにはエビル・オークが出現するらしいからな。首を取って帰れば、きっと大絶賛されるぞ?」
実際にいるのはデス・オークだし、そもそもエビル・オークはCランクのモンスターだが、この際細かいことはどうでもいいだろう。
追手らしき存在は確認できたが、俺の速度にはついてこれなかったみたいだしな。ここで二限が終わるまで時間を潰すのがベストだろう。
「ねぇ、それより教えてよ。さっきの質問はなんなの? なにをそんなに気にしていたの?」
「あーあれか。いやほら、ノエルが普段から邪魔されてるんなら許せないなって思って」
「だから、Bランクよりも上の成果を出すためにこんなところに来たって言うの?」
「まっ、そんなところだな。俺もクラスの奴らにはむかっ腹が立ってきた頃だったしな。ここいらでワッ! と驚かしてやろうと思ったんだよ」
俺が言うとノエルは呆れたように溜息を漏らした。
そして実際に「呆れた」と口にした。
「レイン君が強いっていうのはなんとなく察しがついてるけど、こんなにもバカだとは思わなかった」
「は? 俺がバカ?」
「だってそうでしょう? 分かり易く例えてあげる。今回の課題はBランクのモンスターを討伐すること。これをクリアすれば10点が貰えるの。でもこんなことしたら逆効果。Aランクモンスターの撃破で20点貰えても命令違反で-50点。結果は-30の赤点よ」
なるほどな。まあ俺の言ったことは全部嘘だからどうでもいいが。それに、ノエルが減点されそうになった暁には相応の手段に出るつもりでもいるし。
「今からスマホウ・フォンで先生に連絡するから、ちょっと待ってて」
そう言ってノエルは制服のポケットから小型の四角い物体を取り出した。
「なんだそれ?」
「これ? これはスマホウ・フォンと呼ばれる魔道具よ。人類が未だに発動できたことのない超高等魔法・テレパシーを再現することができるの。レイン君は魔道具科って知ってる?」
ノエルが流暢に喋り始めた。
もしかしたら、ノエルは魔道具というものが好きなのかもしれないな。
「なるほど。それは凄いな」
「でしょでしょ? それにね、この学園では有事の際に備えたスーパー兵器も眠っているという噂よ!」
「スーパー兵器?」
やけにチープな名称だな。
あまり強そうなイメージが湧かない。
「魔導砲っていってね。数百年間溜め続けた魔力を一気に解き放つことが出来る、まさしく究極にして最強の魔導兵器! これがあれば魔王だって一撃で倒せちゃうんだからッ!」
凄んでから、小声で「多分」とノエルは付け加えた。
というかだいぶ話が逸れちゃいないか? そう思い、俺はノエルの持つスマホウ・フォンを指差した。
「あ、いけない。思わず忘れちゃうところだった。……って、アレ?」
スマホウ・フォンの画面を見ながらノエルは固まった。
「どうかしたのか?」
「スマホウ・フォンが繋がらないの。多分モンスターの魔力を拾っちゃってるんだと思う。低難度ダンジョンなら、モンスターも弱いからこうはならないんだけど」
ノエルはスマホウ・フォンをポケットにしまい、
「ねぇ、こんなところ早く出ようよ。私、単位減らされたら本当に困るんだから」
と口にした。だがその相談に乗ることは出来ない。
何故ならノエルは今、何者かに狙われている状況なのだから。
「なあ、次の授業まであとどれくらいだ?」
俺は話を逸らすついでに時間を訪ねた。
「えーと、あと三十分はあるわね」
じゃあ、あと三十分はなんとしてでも時間を稼がないとな。さて、どう言い訳を並べ立てようか? と俺が腕を組んだところで。
空気を読んだかのようなタイミングでそいつは現れたのだった。
ズシン、ズシンと大地を踏みしめる重厚感は、まさしくオーク族の頂点に相応しい。
「あ、あれは……」
ノエルが青ざめた表情を浮かべるがそれも無理はない。A難度ダンジョンだと口では言ったものの、出現したモンスターの出で立ちは明らかにその領域を凌駕しているのだから。
サタナの言葉を借りるのであれば、細胞・遺伝子レベルで屈しているという事だ。
「いやー、アイツを見ると思い出すな」
「えっ? レイン君、あれと戦ったことあるの?」
「ああ。お互いに仲良しだった時期もあるぞ」
ヴェンを差し出したほんの一瞬だし、そもそもは【最果ての洞窟】に存在する別個体ではあるのだが。
ノエルはごくりと喉を鳴らした。
「ひょっとして、レイン君ってヤバイ人?」
「そんなことはどうでもいい!」
俺はノエルの肩を掴み、真剣な面持ちで言った。
「確かに俺は強い。子供の頃から冒険者をやってきてそれなりに鍛えられてはいるからな。だが、あれだけ巨大なモンスターを一人で倒すことは不可能だ。見ろ、手も震えているだろう? 強がっているが、実は怖いんだ」
実際は少し肌寒いだけなのだが、この際、利用できるものは全て利用してしまおう。これは絶好のチャンスなのだ。ノエルと親睦を深めるためのな。
とはいえ自分でも不思議だ。
過去の自分をノエルに投影してしまっている、というのもあるが。だとしても、どうしてこんなにまでノエルのことが気に掛かるのだろう?
まさか本当に一目惚れしてしまったのか? いや、一度酒場で出会っているのだから正しくは二目惚れか?
「ああもうっ! 冒険者だっていうから嫌な予感はしてたけど、本当にイメージ通りのおバカさんね、レイン君は」
「イメージ通り?」
「ええ! レイン君は私がイメージしてた冒険者そのものよ。後先考えずに突っ走って、目先の利益ばっかりに目が眩んで」
俺は全国の冒険者に心の中で謝罪した。
俺のせいで冒険者のイメージを落としてしまったのなら申し開きの余地もない。
「でも」
言いながら、ノエルは魔法の杖を取り出した。
「そういう破天荒なところ、ちょっと憧れちゃうかも!」
先刻までのノエルとは打って変わり、ちょっと強気な様子である。どうやら俺は、ノエルの母性本能をくすぐってしまったらしい。
「前衛は任せろ」
カラドボルグを引き抜きながら。
その代わり、と俺はノエルの方へと振り向く。
「後方支援は任せたぞ、ノエル」
デス・オーク相手なら数秒で終わる戦いだが、俺はノエルに自信を持って欲しかった。卑屈な性格にさせられてしまったノエルを変える方法は一つだけ。
与えてやればいいのだ。
圧倒的な成功体験を。
これから行われるのは、その為の戦いなのである。
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