第三十話 実技の授業②
そもそも本来の目的を忘れてはならない。
他の奴らからどんな目で見られようとも関係ない。古代魔法に繋がるなんらかの手掛かりを得る、俺のやるべきことはそれだけなのだ。
ノエルのことだけは気になって仕方がないが。
「次の授業はお待ちかねのアレ。二限目はモンスター討伐だ!」
レックの言葉に、ざわり! と空気が揺れた。
「今年こそは……!」
「やはり来たか」
「俺の手に掛かれば余裕だけどな」
「ふんっ! どうせ今年も僕が一番さ」
「それはどうかな?」
「はいはい静かに~。ちゃんと最後まで説明聞こうな~? 去年は一人でやってもらったこの課題だが、急遽予定変更! 今回は二人一組でチームを作ってもらう」
ええ~~~!? という声が上がったが、クラスメイトはまんざらでもない様子である。
確かに、友人とチームを組んでの課外活動は楽しいだろうな。だが、お前らが迫害してきたノエルの表情は薄暗いままなのだが、それについてはどう思っているんだ?
なんてことは考えるだけ無駄か。
どうせこの類の人間はなにも考えていないのだから。
チーム分けの結果は言うまでもなく。
俺は除け者にされているノエルと行動を共にすることになった。
「今から転移魔法でお前らをダンジョンに飛ばすからな~。どのダンジョンに飛ばされるかは運次第だが、最高でもB難度、命を落とすことはないから安心しろよ~」
転移魔法だと? これだけの人数を同時に?
そんなことが出来るとすれば、レックのレベルは俺にも匹敵すると思うのだが。
「大地の精よ、我に力を与え給え。転移魔法――ハドマク!!」
レックの詠唱と同時に、校庭に大型の魔法陣が展開された。なるほどな、と俺は得心する。
これだけ大規模な事前準備があれば、消費魔力を最低限に抑えながらの高度な魔法も実現可能だ。よく考えられている。
「んじゃ、いってらっしゃ~い」
レックは面倒くさそうに手をひらひらさせていたが。
俺には一つだけ引っ掛かっていることがあった。
ま、それは後ほどノエルに問うことにしよう。
☆ ☆ ☆
「ごめんなさい、レイン君」
木々の生い茂る自然豊かな森林のダンジョン。俺たちが飛ばされたのはそんな場所だった。
俺の隣にはちゃんとノエルが立っていた。
そして顔を見合わせるや否や、何故かノエルから唐突な謝罪が飛んできたのだった。謝罪される道理もなく、俺は若干たじろぐ。
「いきなりだな。俺は君から嫌な目に遭わされてもいないし、迷惑をかけられてもいない。要するに謝罪される理由はどこにもない」
「あるよ」
間髪入れずに返されたので、「それはどうして?」と俺が問うと。
「私と一緒に居たら、レイン君まで悪い目で見られる。今は陰口で済んでるけど、その内もっとひどい目に遭わされるかも……。だから、ごめん」
卑屈な子だな。……いや、違うか。
この子は卑屈な性格にさせられたのだ。自らを取り巻く周囲の環境に。
「気にするな」
俺は努めて明るく言った。
「別に一流の魔法使いになりたいとか、首席で卒業して家族を見返したいとか、俺はそういう目的があってここに来たワケじゃないからな」
「でも……」
「そんなことより、一つ聞きたいことがある」
俺は話題を切り替えるついでに本題に入った。
俺が今抱いている違和感は、この子の解答次第では氷解するかもしれない。
「聞きたい、こと?」
「さっきの的当ての時のことだ」
「ああ、あれね。あまり気にしないで。私の成績を下げたいと思っている人間なんていくらでもいるんだから。それに私、他のクラスの人にまで嫌われてるから。もっというなら学園中から嫌われてるし」
「だとしても、だ。あんな妨害行為が許されるとは到底思えないんだがな。それに、妨害行為がバレたらその生徒も減点対象になるだろう?」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
ノエルは言いながら首を傾げた。
「ねえ、一体何をそんなに気にしてるの?」
「単刀直入に言うぞ。今日みたいな妨害を受けたのは実は初めてなんじゃないのか? つまりは、魔法攻撃による直接的な妨害だ」
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俺の想像が正しいとするならば、レックの言葉にも説明が付く。
「急遽予定変更! 今回は二人一組でチームを作ってもらう」
二人一組。偶数クラスでそんな条件を出せば、俺とノエルが同じチームになるのは火を見るよりも明らかである。では何故そんなことをする必要があったのか。
あの妨害攻撃が、外部の人間によるものだったから。
それが俺の導き出した答えだった。
俺は一限のやり取りを思い返してみる。
「的の中心を射抜けばオッケー、というルールでしたね?」
そんな俺の問いに対し、レックは「まあな」と答えた。だが、俺が的の中心に穴を開けた後、レックはこう言ったのだ。
「フム、ちゃんと穴は開いているな」
射抜かれているな、とは口にしなかった。さらにレックはこうも言った。
「次同じことしたら相殺で0だから気を付けろよ~」と。
同じこととは、つまりはそういう意味なのだろう。
どんな方法を用いたかは分からないが、レックは俺のやったことを認識していたのだ。俺は魔法によって的を射抜いたのではない。そのことをレックは見抜いていた。
ダミアンの件があったはいえ、俺の実力の底は伺い知れなかったはず。だが、的当ての授業を通して悟ったのだろう。俺が実力を隠しているということを。
だからこその「急遽予定変更」なのだ。妨害行為を行った当事者の相手は自分がする。
ノエルの護衛は腕の立つ者に任せればいい。そうすれば、年に一度の授業を潰したという泥を被る必要性も無くなるしな。
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「確かに、そういう直接的な妨害は今日が初めてだったけれど」
「やはりそうか」
だとするならば、俺のやるべきことは一つ。
「ノエル、ちょっと乱暴するぞ」
「えっ?」
俺はノエルをお姫様抱っこの形で抱きかかえ、全力で地面を蹴飛ばした。向かう先はSSS難度ダンジョン【暗黒の廃城】である。
本来であればギルドでの手続きを介さなければならないが、そんな時間はない。ということで悪いが直行だ。後ほど降りかかるであろう面倒事はメアリさんやサタナと共に解決しよう。
「わ、ちょっ! きゃぁぁあああああああああっ!?」
ノエルは言った。自分は学園中から嫌われていると。しかしその認識は間違いらしい。
ノエルを狙う敵は学園外部にも存在している!
まさか、闇魔法とやらがここまで忌み嫌われているものだとはな。
ノエルは両目を瞑りながら、小さな両手でギュッと俺のコートを掴んでいた。決して振り落とされないようにと必死に。そんなノエルの健気な姿を見ていると、心の内側から何かが湧いてくるのを感じた。
ぐつぐつと煮えたぎるようなあの不愉快な感覚。
かつて俺が【神の後光】の連中に向けた感情。
どうやら俺は、久しぶりに怒っているらしかった。
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