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第二十七話 さあ、授業を始めよう

 放課後とは言われたが、明確な時間の指定は受けていない。そんな頓智(とんち)を利かせ、俺は生い茂る草原に横たわりながら、心地良い風を受けていた。


 ここはマナクルス魔法学園の校庭。学業を終えた学生たちは各々に魔法の特訓をしていた。一見すればなんでもないような空間だが、校舎に被害が出ないよう魔法による結界が施されていた。


 何重にも張り巡らされた強力な結界なだけあり、触れただけでバチッ! と弾かれてしまった。流石は王国トップの教育機関。その名は伊達ではないということだ。


 それにしても装備というものは偉大だな。修行に励む学生たちを目に、俺はしみじみとそう思った。


 見た限り、彼らの魔力は俺の足元にも及ばない。彼らが本気で魔法を放ったとしても、俺が指を弾くだけ相殺できるだろう。


 だが、そんな彼らの魔力を何倍~何十倍にも底上げしているのが魔法の杖なのだ。カラドボルグと同格の魔法の杖を手にした人物は、きっと最強の魔法使いになるのだろうな。


 やがて陽は落ち、校庭から生徒の姿が完全に消えた頃になって。ようやくその人物は姿を現したのだった。


「貴様、私との約束を反故にするとはどういうつもりだッ!!」


 肩を怒らせながらやってきたのはダミアン先生だった。

 俺はあっけからんとした態度で応じる。


「別に約束を破ってはいないですよ」


「なんだと? 私は確かにこう言ったはずだ! 放課後職員室に来るようにと! しかしお前は来なかった! これは大幅減点だからな。内申点だけが唯一縋れる蜘蛛の糸だというのに……。お前の馬鹿さ加減には呆れるしかないよ」


「ええ? 放課後とは言いましたが時間の指定はしていませんよね? であれば、二十時だろうが二十一時だろうが放課後だと思うのですが」


「……はあ?」


「はあ? じゃないですよ。俺、なにか間違ってますか?」


 挑発するように言うと、ダミアン先生の顔は真っ赤に染まっていった。今にも噴火しそうな剣幕である。


「へっ、屁理屈をこねるなクソガキがあッ!!」


 怒鳴りながら、懐から手帳のような物を取り出すダミアン先生。教師の証明書……的な物なのかもしれない。


「この手帳には魔力が込められていてな。普段、我々教職員の行動は大きく制限されている。だが、時と場合によっては自分の意志一つでその制限を解除することが出来るのだよ。後悔させてやるぞ、レイン・ロッド! 魔法の「マ」の字も知らぬド素人がこの世界に足を踏み入れたこと、地獄の底で後悔するがいい!!」


 制限解除!!


 ダミアン先生が叫ぶと同時に、彼の全身から膨大な量の魔力が溢れ出る。Bランク冒険者と同等かそれ以上か。魔法ではない。純粋な魔力だけで大気が揺らいでいる。俺は素直に賞賛した。


「凄いですね」


「フハハッ! 今頃理解しても遅いわ! さらにこれを見ろ!!」


 今度は何だ? と目を向けると。

 彼が自慢げに取り出したのは一本の魔法の杖だった。


「これはAランクモンスター、ガーゴイルからドロップした魔炎の邪杖(ヘルブレイズ・ケイン)! 私の得意属性である炎を最大限にまで高め、ありとあらゆる全てを焼き尽くすのだ!! その有り様はまさしく地獄!!!」


 だが安心しろ、とダミアン先生は呟いた。


「本気で攻撃するつもりはない。教師権限を以って”おしおき”するだけだ。人との約束を破ったらどうなるか? 教師としてしっかりと教えてやらねばいかんからな。喰らえ! 魔炎玉ブラック・ファイアーボール!!」


 なんだか色々と捲くし立てていたが。

 要するに気に入らないから殴られろ、みたいな意味なのだろう。


 ゴウゴウと音を立てながら、黒い炎が草原を焼き焦がしながら俺の元へと迫って来る。少し前の俺なら黒焦げだっただろう。だが今の俺なら、こんなもの避けるまでも無い。


 ドゴォォオオン!

 と爆音を立て、魔炎玉ブラック・ファイアーボールが俺に直撃した。がしかし痛くも痒くもない。ちょっと焦げ臭いという、ただそれだけだ。


 モクモクモク、と煙が立ち昇る。

 煙の向こう側ではダミアン先生が哄笑していた。


「フハハッ! どうだ、思い知ったかレイン・ロッドよ! お前のような何処の馬の骨ともしれぬ有象無象がこの私をイラつかせたこと、それが間違いだったの……だ…………」


 言葉の途中で威勢が失せたのも無理はない。

 俺はノーダメージのまま立っていたのだから。


「えーと、なんだっけ?」


 正直、ダミアン先生の言葉は右から左だった。

 何を言っているのか理解する価値がないと、俺の脳がそう判断したのだろう。


「イラついたとか教育とか言っていたけど、この程度で何をどう教えるつもりだったんだ?」


 もう猫を被る必要も無いだろう。ここから先は俺のターンだ。


 徹底的にいたぶり情報を吐き出させてやろう。ま、こんな見るからに三下って感じの人間が古代魔法について知っているとも思えないが。


「なっ、バカな! この私の魔炎玉ブラック・ファイアーボールを防いだだとォ!? 一体どうやって! ド素人のお前がどうやって私の魔法を防げるというのだあ!!」


 言いながら、ダミアンは何度も何度も同じ魔法を繰り出した。

 

 が、やはり俺には傷一つつかない。

 根本的にレベルが違うのだから仕方がないが。


「防ぐというか……」


 俺は欠伸混じりに言った。


「防ぐまでも無いだろ、こんな攻撃」


 ダミアンは一瞬怯えたような表情を浮かべたが、すぐにキッと俺を睨みつけ、臨戦態勢に入った。どうやらさらに上位の魔法を繰り出すつもりらしい。


「ふざけるなよ、ガキが。たかが初級魔法を防いだ程度でいい気になりおってからに!! いいだろう、貴様には私が持つ最高の魔法をお見舞いして――


 ズォォオオオオオオオッ!!


 や…………る……」


 スキル【超威圧(フルプレッシャー)】のレベルを3に、対象はダミアンに設定し発動する。攻撃するまでも無い。これにてゲームセットだ。だが。


「おい」


「ひっ!?」


「お前に聞きたいことがある。でも、お前は性格が悪くて嫌な奴だ。だからまずは体に覚えさせておくことにした」


「ひぃい!」


「さあ、授業を始めよう」


 言うや否や、俺は鞘からカラドボルグを抜き、峰打ちでダミアンの腹部を殴打した。おそらくダミアンの側からは視認すらできていないだろう。


 メキメキ、ミシッ!!


「ヴッ――!!!!!」


 と同時に、俺は(くう)を蹴りダミアンの背後へと瞬時に移動した。吹き飛んできたダミアンを片手でキャッチし、そのまま地べたへと放り投げた。


 当のダミアンは。


「うげぇえええああ! がはっ、うぼえぇええ!!!!!」


 腹部を抑えながらみっともなく転げ回っていた。

 そんなダミアンの頭部を足蹴に、俺は質問を開始した。


「お前、古代魔法については知っているか?」


「がはっ、あ”……こ、ごだいばほう(古代魔法)、だと?」


「封印を解除する古代魔法――リェーイス。聞いたことあるか?」


「あ”、りまぜ……ん、ぼへぁ!」


 思ったよりもダメージを与えすぎたか?

 まあ意思疎通が出来ているのなら問題ないか。


「次の質問だ。あの白銀の少女……名はノエルといったな。あの子は何者だ? お前が減点を脅しに使った時、あの子だけがお前に謝罪しなかった。アレはなんだ」


「ヒュー、ヒュー……。お、お前には分からん、だろうが」


「ん? お前?」


「うぐ、く! あ、あなたには……分からないでしょうが。がふっ! あの、女は忌み子、なんだ。聖書……を、読んだことは、ぐふっ、がは! ……聖書だ。聖書を、知っていますか」


「まあ、軽くは」


「はー、はーっ。あの子の魔法は、闇。闇属性……。神を冒涜した者にのみ、背負わされる。ガフッ! 神を……冒涜だと? そんな愚行、許されるか」


「なるほど。つまりお前らはあの子を差別しているんだな?」


「ははっ! 差別だと!? はぁ、はぁ……。お前は何も分かっちゃあいない。闇魔法がどれだけ恐ろしいものなのか、はぁ、分かっていないんだ」


 ダミアンは立ち上がった。戦意は喪失しているようだが、表情は何故か笑っていた。


「クク、あの子をどうこうしてやろうなどとは思わない方が身のためだ。関わるだけで、フーッ、不幸が降り注ぐ。あの子は存在してちゃあいけない子なンッ、グバハァッ!!」


 さっきよりも幾分か威力を抑えつつ、俺は再度峰打ちをお見舞いした。


「もういい。お前から聞きたいことはもうないからな。今後、痛い目を見たくなかったら言動には気を付けろよ。という俺からの授業はこれにて終了だ」


 お疲れ様、と、気を失っているであろうダミアンに吐き捨てながら俺は校庭をあとにした。マナクルス魔法学園には学生寮がある。


 学生の朝は早い。故に夜更かしは厳禁なのだ。

 早く帰寮して、さっさと床に就くとしようか。

!!作者からの大切なお願い!!


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