第二十五話 いざ【マナクルス魔法学園】へ
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【スライム平原】でスライム狩りを終えた後。
十分ほど待機していると、やがて馬車を引く音が近づいてきた。
「むむっ! ようやく来たようじゃな!」
「むしろ少し早いくらいだよ。気を使ってくれたんだろう」
俺が指定した時間は日没だったが、陽は完全には落ちていない。溢れ出るエネルギーで世界を夕陽色に染め上げている。
「お待たせしましたぁ~」
そんなに急がなくてもいいのに。随分と仕事熱心で真面目な性格らしい。実直というか素直というか。ほんの一割で良いからその性格をサタナにも分け与えてやりたいものだ。
「大丈夫、待たされていないから」
俺はリリルの頭を撫でながら微笑んだ。
「本当ですかあ?」
「ああ。むしろ仕事が早くて驚いてるくらいだ。これから時々は君を指名させてもらおうかな」
俺が言うと、リリルの表情が目に見えて明るくなった。
爛々と揺れる瞳は夕陽に反射して煌めいている。
「ほっ、本当でひゅかあ!? それ、すっごく助かっちゃいますぅ!」
「ほーう? 指名などという制度もあるのか。冒険者という仕事は中々に面白のう」
「通常の二~三倍の料金は取られるけどな」
ちなみに指名した場合、ギルドに支払った料金の内の二割が御者に還元される仕組みだ。
「えへへ、御指名だなんて嬉しいなあ。私もっともっと頑張れちゃいます!」
頑張れちゃう、か。やっぱり好きでやってる仕事ってわけじゃなさそうだな。年齢を考えれば当たり前だが。
俺は思い出したかのような素振りで数枚の金貨を取り出した。
「そうそう。これ、良かったら貰ってくれないか?」
リリルは驚愕の表情を浮かべた。
そのままひっくり返ってしまうんじゃないかってくらいにオーバーなリアクション付きで。
「ななな、なんでぇ~?? こんな大金頂けるワケないじゃないですかあ! もしかして同情ですか? 同情してるんですかあ? 私が子供だから、だから御者なんて仕事を嫌々やってて、それで可哀想だって思ってるんですかあ?」
リリルの返しは想定内だった。
いくらやりたくてやっている仕事ではないにせよ、彼女なりにプライドを持っているはずだ。俺の善意に見えるこの行為はそのプライドを踏みにじる行為。だが――。
「違うよ、リリル」
俺はリリルの頭を撫で、再度微笑みかけた。
リリルは目元に涙を浮かべながら「何が違うんですかあ」と頬を膨らませている。
「見てみろよ、俺の装備を。武器に防具、そして腰袋。レベル上げの為に沢山スライムを倒したのはいいんだけどな、ゴールドが入りきらなくなってしまったんだ。だからって捨て置くのも勿体ないだろう?」
リリルは俺の身なりをまじまじと見回した。
それからクスッと微笑んだ。
「わふふっ。レイン様って案外抜けてるところがあるんですね」
その言葉を聞いて「なぬ?」とサタナが躍り出た。
「リリル。妾はお前のことを気に入っているが、もっと気に入っている人間がおる。それがレインじゃ! 妾はいずれレインと結婚する仲。故に! レインをバカにすることは許さぬぞっ!」
「ええ!?」
顔を真っ赤にしながら俺たち二人を交互に見やるリルル。
ああ、弁解するのが面倒くさい。
「リリル、聞いて欲しい」
「はい?」
「こいつと俺は結婚すると言ったな。あれは嘘だ」
「はあ?」
俺はサタナを黙らせてから、リリルに事情を説明した。
「――ということなんだ。つまり、この女は頭がおかしいんだよ」
「は、はは……。レインさんも色々と大変なんですね」
十歳足らずの子に憐憫の視線を向けられるのはなんとも切なかったが。
お釣りが来たから良しとしよう。金貨は受け取ってくれたし、俺たちの馬鹿なやり取りで笑ってくれたのだからな。
「なんか、今日みたいなのは初めてだったなあ」
帰路の最中、リリルがぽつりと呟いた。
「またお二人を乗せることが出来たらきっと楽しいんでしょうね。レインさんは優しいし、女の人は面白いし」
「妾が面白い? ふふっ、まさか妾にそのような言葉を投げ掛けるとはな。お前は中々の資質を秘めているのかもしれぬな」
なんの資質だよ。
「わふふ。褒めたってなんにも出ないでひゅよう。私の家は貧乏ですから」
言ってから、しまった! という風にリリルは口を閉ざした。少しの沈黙の後、「あ、でも!」と俺が渡した金貨を手に取り。
「今は大金持ちですけどね! えへへっ!」
気丈に振るまって見せたのだった。
「近いうちに指名するよ。その時はよろしくな」
俺が言うと、リリルは律義にお辞儀した。
遠くなるリリルを見送りながら、隣でポツリと呟く声がした。
「強き者じゃの、リリルは」
「そうだな。あの子は強い子だ」
サタナにしてはまともな台詞だな、と思っていると。
「やはり妾のペットになるべきだとは思わぬか?」
やはりサタナはサタナだった。
☆ ☆ ☆
「レベル152ですか。随分と荒稼ぎしましたね」
「ケルべズスを倒した分もあるけどな」
翌日の酒場兼カフェでの会話である。
【スライム平原】に出現するスライムのレベルが高かったということも手伝い、得られた経験値も膨大なものだった。俺のレベルはたった一日で60近くも上がったらしい。
「なるほどのう。レインはこのような手法で強くなったのだな?」
「このやり方に気付いたのは偶然だったけどな」
結果良ければ全て良しとはまさにこの事だ。人類史を見れば最高レベルは60。俺は既にその倍以上のレベルに達している。レベルだけで見るなら歴代最強の人類という事だ。
パーティを追放された時は絶望したが、今となってはヴェンには感謝だな。全ての始まりはヤツだったのだから。
……礼としてデス・オークの餌にしてやったというのは少し豪華すぎたかもしれんが。
「ところで、例の件ですが」
「例の件?」
首を傾げるサタナを放っぽり、俺はメアリさんと会話を続けた。
「手続きの方はスムーズにいったみたいだな」
「はい。もう既に編入の手続きは済んでいます。レインさんには二年の赤クラスに入ってもらうことになりました」
メアリさんの話によると、マナクルス魔法学園のクラスは色で分けられているらしい。色による優劣は特にないが、金クラスだけは特別なのだとか。
「金クラスには首席候補が集っています。彼らはとてつもなくプライドが高く常に気を引き締めています。出会った時にはくれぐれもご注意下さい。なにせ気が立っていますからね。なんでもないような事でもすぐに喧嘩に発展してしまうのです」
――というのはメアリさんの体験談らしい。
学生というのも苦労しているんだな。
「それで、妾はどうすればよいのじゃ?」
メアリさんは数枚の羊皮紙を取り出した。次から次……から次、から次へと。
積み重ねられたそれは書類と呼ぶにはあまりにも分厚く、重く、高すぎた。それは正に鈍器だった。
「……なんじゃ? それは」
「ダンジョンのリストです。貴女が案を出してくれたんじゃないですか」
メアリさんはニッコリと微笑んだ。
「友人の受付嬢に頼んで、【古代の】とか【古の】とか【退廃せし】とか、そんな古臭い言葉で命名されたダンジョンを片っ端からリストアップしてもらったんですよ」
「……」
「貴女は強いですから単身でも攻略できるでしょう。少しでも手掛かりを得られるように頑張ってくださいね! それがレインさんのためになるんですから」
「お主は悪魔か何かか?」
「まさか。私はれっきとした人間ですよ」
悲しげな表情を浮かべながら鈍器と化した書類に視線を落とすサタナ。そんな彼女を尻目に、俺はメアリさんの後をついて行った。
去り際、
チャリンッ。
俺は一枚の金貨をテーブルの上に放った。
「これは?」
涙目で問うサタナ。
俺は真顔でこう答えた。
「それで会計を済ませておいてくれ。頼んだぞ」
☆ ☆ ☆
「あなたがレインさんですか?」
平淡な声を発したこの女性、名をルーザ・フェインというらしい。この学園で長年に渡り教師を務めており、メアリさんとも顔馴染みなのだとか。
「どうも。レイン・ロッドです」
「話は聞いています。なんでも魔法の何たるかをその身で味わってみたいのだとか」
……は?
メアリさんを見やると、彼女はバツが悪そうな笑みを浮かべていた。なるほど、そういう設定というワケか。
「はい。俺は冒険者をやっているのですが、なかなかどうして歯応えを感じられない。この学園でなら強者、もしくはその原石に出会えるかもしれないと、そう思ったんです」
まるでサタナみたいじゃないか。
言いながら俺は自分を客観視していた。
「なるほど。その生意気な態度がいつまで続くか見ものですね。メアリさん、彼のことはこの学園でしかと面倒を見ますのでご安心を」
かくして俺はメアリさんと別れた。
これからしばらくは学園生活を送ることになる。彼女らのいがみ合いから解放されると考えると、嬉しいような寂しいような不思議な気分だった。
教室へと案内される道中、ルーザ先生は一言も口を開かなかった。どうやら第一印象は最悪らしい。
「着きました。私が呼ぶまではそこで立っているように」
一方的に告げて、ルーザ先生は教室の中へと消えていった。それから少しして「入りなさい」という声を受け。
俺はスライド式の扉に手をかけ、教室の中へと踏み入ったのだった。そして促されるがままに二歩、三歩と進み教壇の上に立ち、そして、
俺は驚愕のあまり「あっ!」と間抜けな声を発してしまった。
教壇から見て右奥の方の席に、見覚えのある少女の顔があったのだ。少女の顔は、まるで鏡に映したかのように俺と同じような表情を浮かべていた。
初めて出会った時には分からなかったが、少女からは、まるで芸術品のような雰囲気が解き放たれていた。
美しい白銀の髪と硝子のように透き通った素肌。そして、サファイアを彷彿とさせるブルーの瞳。
まるで妖精みたいだなと。
そんな第一印象を俺は抱いた。
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