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第二十四話 ノエル・レイウスの驚愕

今話から第三章に突入します。

そして、皆様のお陰でついに、15位の壁を突破出来ました。

本当の本当にありがとうございます!!

 鐘の音が鳴ると同時に私は本を閉じた。

 

 私にとっては毎日が憂鬱だ。先生が教室に入ってくるまでのこの短い時間も例外ではない。彼らは隙あらば、私のことを指差しては笑うのだから。


「見てみろよアイツ。今日も本と睨めっこしてるぜ?」

「仕方が無いだろう。彼女の友人は紙屑だけなのだから」

「我々とは存在している領域が違うのだ。それを肌で感じ平伏しているのだろう」


 ほら、また始まった。

 彼らお得意の陰口。でも、それも仕方がないのだと諦めるしかない。だって、私の魔法属性は闇なのだから。


 闇属性、それは古くから恐れられ蔑まれてきた属性だ。

 前世で神を冒涜した人間に背負わされる十字架、それが闇属性だと聖書には記されている。


 なにが聖書だバカバカしい。

 

 そんなものを信仰している人間は揃いも揃って馬鹿ばかり。でも、他人がそうだというだけならば、私はきっと我慢できたのだろうと思う。


「はぁ……」


 私は何度目とも分からない溜息を吐いた。

 曇天の日はいつも思い出す。父と母と、兄の言葉を。


「お前には価値がある」

「貴女は過去に類を見ない天才なのよ」

「お前は賢い子だ」


「聖書の百二十一頁を見てみなよ」

「いいか、暗黒の太陽はいずれ……」

「王家の血筋は決して滅ぶことはないのよ」


 なにが聖書だ。なにが王家の血筋だ。

 そんなもの、私に何の関係がある。


 私は私で他の誰でもない。私は自分が好きだ。


 母譲りの白銀の髪が好きだ。兄譲りの透き通った肌が好きだ。父譲りのサファイアのような双眼が好きだ。


 でも、家族のことは誰一人として好きじゃない。クラスメイトも先生も街を行き交う民衆も。

 

 そして、この世界そのものですら。

 私は私と、たった一人の友達。

 それ以外のありとあらゆる全てが嫌いだ。


 ガララ、と扉が開かれ、ルーザ先生が入室する。

 私は陰鬱な思考を振り払い、背筋を伸ばした。


「起立」


 ルーザ先生の平淡な声が教室に木霊した。私はスッと立ち上がる。しかし、他の生徒は座したまま微動だにしない。


 ああ、またこれか。


「おや、どうして誰も(・・)立たないのですか? まさか聞こえませんでしたか? だとしたらそれは失礼」


 ルーザ先生は数度咳払いして。

 そしてもう一度「起立」と口にした。


 今度はちゃんと、クラスメイトの全員が起立した。


「着席」


 ああ憂鬱だ。

 どうしてこんな差別を受けなければならないのだろうか?


 私はここにいる。ここに存在し、精一杯息をして生きている。なのに、その存在を周りの人間は認めてくれない。


 唯一認めてくれる家族も、私のことを道具としか思っていない。

 

 なんで。どうして。


 魔法の属性なんて、人の人格にはなんら影響も及ぼさない。そんなこと幼少の内に教えられることなのに。それなのに何故、闇属性を有しているというだけでこんな扱いを受けなければならないの?


 世界は理不尽で残酷だ。救いなんてどこにもない。

 でも、ここを追い出されたら私は――。


     ☆     ☆     ☆


 マナクルス魔法学園は、去る者追わず来るもの拒まずを信条に掲げている。例外こそあれど、実力さえあれば他に求められることなど何一つない。それがこの学園だ。


 強ければ偉く弱ければ虐げられる。

 ルールはいたってシンプルなのだ。


 そんなマナクルス魔法学園にも、たった一つだけ破ってはならない掟がある。それが、学生の保護だ。


 内部でどのような軋轢が生じていようとも、外部からの圧力には決して屈しない。ありとあらゆる権力を敵に回してでも、学生の最低限(・・・)の権利を保護する。


 マナクルス魔法学園が数多くの魔術師を世に輩出できたのは、鉄の掟を遵守してきたからである。


 生徒とはすなわち原石。磨けば磨くほど光り輝き、やがてその輝きはマナクルス魔法学園を眩く照らしつけ、威光となるのだ。


 あの(・・)マナクルス魔法学園から。

 あの(・・)マナクルス魔法学園で。

 あの(・・)マナクルス魔法学園を。


 優れた魔法使いを世に輩出する程に、マナクルス魔法学園は評価されていった。そして、そこに在籍している教職員の人間としての価値も上昇していったのだ。


 故に、学生の保護は最優先。

 たとえそれが、呪われた闇属性魔法の使い手であっても。


     ☆     ☆     ☆


 一昨年の三月。

 私は実家の金庫から有り金全てを持ち出し、家を飛び出した。長年の束縛に耐え兼ねてストレスが限界を迎えたのだ。


 マナクルス魔法学園の掟は知っていた。

 

 入学すれば、私のような人間でも守ってもらえると思った。現実はそんなに甘くはなかった。けれど、私は見事家族の束縛から解き放たれることに成功したのだ。


 私が入学してから一ヶ月が経った頃、兄が私の前に姿を現した。


 その日は、年に一度だけ行われる特別な授業があった。各自好きなダンジョン(Bランクが上限)に挑みモンスターを討伐するというのがそれだった。つまりは学外授業。そこを狙われた形だ。


 けれど。


「お帰り願おうか、ロイス君」


 教頭、ヴェルモンド・スーラ。

 何故か彼が、私の挑んだダンジョンにやってきたのだった。

 

 あのメアリ・ルーを教えたという伝説の教師。ヴェルモンド先生はとてつもない威圧感を解き放っていた。だが兄もかなりの腕利きだ。少しも怯む様子を見せなかった。


「僕に命令するとはいい度胸だな。死ぬか? 老いぼれ」


 二人がやり合えばダンジョンの崩壊は免れない。それどころか街にまで被害が及ぶだろう。けれどそうはならなかった。魔法局直属の憲兵隊が上位警告書を持ってきたから。


 上位警告書。発行された者は一枚目で5000万ゴールドの罰金を科せられる。さらに、二枚目が発行された暁には問答無用で地下牢行きだ。


「上位警告書だと? この僕に?」


「もう一度言うぞ? お帰り願おうロイス君。私の権限をもってすればこの場を穏便に収めることが出来る。この警告書の効力を無効にできるのじゃ」


「どうなっている。なぜ上流貴族である我々の領域に一学園が踏み入れるんだ!」


「教える義理はない。……して、どうするのかね?」


「ノエル、僕は君を愛している。君は賢い子だからね、賢い子は好きなんだ。あぁノエル、可愛い可愛い僕のノエル……。いつかきっと、君は僕の思い描く世界を理解してくれると信じているよ」


 一方的に捲し立てながら兄はダンジョンから消えていった。

 その後、ヴェルモンド先生が吐き捨てるように言った言葉を私は今でも忘れられないでいる。


「汚れた血族めが――いずれ根絶やしにしてくれるわ」


 私のことなど見えていないかのように振舞いながら、ヴェルモンド先生もその場を立ち去った。この学園の掟――生徒の保護は絶対なのだと、私はその時身をもって実感させられたのであった。






「授業を始める前に、今日は皆さんに一つ報告があります」


 ルーザ先生が告げると、教室内は波立つようにざわめいた。無言なのは私だけ。話しかけてくる人などいないのだから当然だけれど。


「今日から一人仲間が増えることになりました。……入りなさい」


 ルーザ先生の呼びかけで一人の少年が教室内に入ってきた。


 艶のある紺色の髪に威圧感のある二重の双眼。何故か制服は着ておらず、黒のロングコートの中には白無地のチュニックを着込んでいた。魔法学園なのに何故背中に大剣を携えているのだろうか……という疑問は後ほど解消されるのだろうか?


 なにはともあれ……だ。私にとって、その少年の身なりなどというものは些事に過ぎなかった。あまりの衝撃に全てどうでも良くなってしまった、といった方が的確かもしれない。

 

 何故なら、私は少年のことを知っていたからだ。

 

 この街で一番大きな冒険者ギルド。そこに隣接する酒場に、私は何度か訪れたことがある。


 唯一の友達がそこで情報を売買しており、【レイウス家】の動向を探るために私はその友達と取引を行っていたのだ。


 それを嗅ぎつけた兄は酒場へとやって来て私を連れ戻そうとした。少年が現れたのはそんな時のことだった。


 一目見て相当の手練れだと理解した。なにせ、あの兄が即座に下手に出たのだから。コイツとはやり合いたくない。兄にそう思わせるだけの何かが少年にはあったのだろう。

 

 あの時助けてくれた少年が今、目の前に。

 奇妙な偶然もあるんだなと。

 どこか他人事のように、私はそう感じていた。


 少年は私と目が合うと、「あっ!」と声を漏らし目を見開いた。


「どうかしましたか?」


 ルーザ先生の問いに、「何でもありません」と。

 少年は誤魔化すように首元を掻いてから、


「えーと、レイン・ロッド……十七歳だ。学園生活は初めてで至らない点も多々あるかと思うが、仲良くしてくれると助かる」


 そう言って一礼したのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

引き続き応援の程、よろしくお願いします!!

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