第二十三話 【スライム平原】でレベリング!
作戦の変更により、一日だけ空白が出来た。メアリさんはマナクルス魔法学園へと出向いているので、今この場にいるのは俺とサタナとカラドボルグの三人だ。
「して、今日はどうするのじゃ?」
冒険者ギルドに隣接する酒場は昼間はカフェの役割を果たしている。サタナは相も変わらず、異常なまでの量の角砂糖を投入していた。
「サタナ。お前、無理してないか?」
「んん? 無理というのは?」
「それ本当に美味しいのか?」
俺は角砂糖が大量に投入された物体を指差した。
もはやそれをお茶と呼ぶことは不可能に近しかった。
「甘いは正義じゃ。聖書に記されていないというのならば、妾が直接書いてやってもいいのだぞ?」
「それだけはやめてくれ。先人たちの血と汗と涙の結晶を冒涜する真似だけはな」
「むう~、随分と失礼な言い草ではないか」
「お前、自分で人間が大好きだって言ってなかったか? お前が聖書に【甘いは正義】だなんて書いた暁には、大好きな人間たちが大粒の涙を、それこそ滝のように流すはめになるんだぞ?」
「軽い冗談ではないか、そんなにマジになるでない!」
「それもそうだな。まあ無駄話もほどほどにして」
言いながら、俺は一枚の書類を取り出した。
メアリさんに頼んで用意してもらったものだ。
「今日はこのダンジョンを攻略する」
机の上に置いたそれを、サタナは覗き込むような形で見た。
前のめりの姿勢になったので胸部が強調されていたが、ほぼ間違いなくワザとなのでスルーしておこう。
「D難度ダンジョン【スライム平原】……。釈然とせぬな。なぜ今更こんな所へ?」
「それなりの理由があるんだよ。ついて来るか? きっと面白いものを見せてやれると思うが」
「愚問だな」
サタナは一気にお茶(だった液体)を飲み干した。
「そう遠くない未来に夫となる人物、それがレインじゃ。夫に寄り添わない妻などどこにいよう?」
俺はサタナの言葉を背に受けながら、足早に歩を進めた。
無駄話もほどほどにして、と前置きはしたからな。それでもなお続けるというのなら付き合ってやる道理はない。
「ちょっ、待って! 待ってくれ~い!」
支払いを済ませた後、俺は冒険者ギルドで手っ取り早く手続きを済ませた。
少ししてから、サタナが小走りでやってくる。
「置いて行くだなんて薄情者め!」
「薄情者? 人間界のルールも分からないお前が普通に生活できているのは誰のお陰だ? 俺とメアリさんのお陰だとは思わないか?」
サタナは色々と無知だ。例えば、ゴールドを見ても価値を理解できないくらいには。
「思わぬ! 妾は生まれついての王じゃからな。レインは特別としても、あのメアリとかいう女が妾に尽くすのは生物として当然のことなのじゃ。妾に尽くせる幸福を噛みしめながら感謝の意を表明するくらいはしてもらわねばな」
平常運転といった感じだな。
なによりも自由を重んじるとか言っていたが、ここまで振り切れていると逆に清々しい。
「えーと、レイン様、ですか?」
サタナとの下らないやりとりの間に御者がやってきたようだった。
ローブから飛び出した猫耳と柔らかそうなふわふわ尻尾。彼女は獣人族なのだろう。年の頃は十かそこら。この年齢での労働とは、それ相応の理由があるのだろうな。
「私、リリルっていいまひゅ! えと、行き先は【スライム平原】で……」
ギルドから通達された情報を元に、冒険者を見つけ出し行き先の確認をする。御者の第一任務・確認作業。
だというのに、サタナはそれを遠慮なく妨害してみせた。
「むはぁ~~~! なんじゃお主は! フワフワのモコモコで気持ち良いのじゃ!」
「わふうっ? ななな、なにするんでひゅかあ~?」
「~~~! その舌足らずなところも最高にチャーミングなのじゃ! ふふっ、喜べリリルよ。妾はお前のことが気に入った! ペットにしてやろう!!」
「ひい! ななな、なんでひゅかこの人は~? 怖いですよぅ~」
「サタナ、その子から離れろ」
「何故じゃ? こんなにもモフモフで可愛いのに」
「何故もなにもない。見て分からないか? 嫌がっているだろう」
俺は少しばかり揚げ足を取ってやることにした。
「お前は縛ることも縛られることも嫌だと言っていたな。そしてそれをしないとも言っていた。だが、今のお前はその子を縛っている状態なんだ。自分では気づいてないようだがな」
「な、なんと!」
俺が言うとサタナはすぐにリリルを解放した。やはりそうだ。一見すると滅茶苦茶に見えるが、サタナにはサタナなりの優先順位があるのだ。自由主義が第一、自分の感情は二の次といったところだろうか。
「むう、まさかこの妾が鉄の掟を侵してしまうとは。驚かせて済まなかったな、リリルよ」
「い、いえ。大丈夫……でしゅ。とりあえずは荷台に乗り込んじゃって下さい。お二人を【スライム平原】までお運びしなきゃなので」
随分と困らせてしまったな。
帰りにチップでも渡すとするか。
☆ ☆ ☆
「では、私は次の仕事がありますので。後ほど迎えに上がりましゅ!」
そう言ってリリルは、少し急ぎ気味の様子で来た道を引き返していったのだった。
「して、面白いものとはなんじゃ」
「そう急かすな」
俺はカラドボルグを鞘から抜き、スキル【超威圧】を発動した。ここのスライムは少しだけレベルが高いので、スキルのレベルもそれに合わせて設定する。
「なんじゃ、最大出力にはしないのか?」
「そうしたらスライムが全部逃げてしまうからな」
高台から見下ろすと、既に多くのスライムが警戒態勢を取っていた。ただのスライムのみならず、ビッグスライムやスチルスライム、スカイスライムなどの亜種族も揃い踏みだ。
「これはいい経験値稼ぎになりそうだな!」
ザッ!!
俺は大地を蹴り高く飛んだ。
そして落下の勢いそのままに、まずはビッグスライムを両断。
『ピギャッ!?』
そのまま斬り返しで、浮遊していたスカイスライムを撃破する。
『ピギャ――――ッ!!』
ある程度のスライムを残しながら狩りを続けていると。
やがて、スライムが例の動きを始めた。
数匹が一ヵ所に集まり、ピョンッ! と飛び跳ね。
着地と同時に、数が増える!
「サタナ!!」
俺は浮遊するサタナに声をかけた。
「今日半日、お前はこの光景を見続ける事になるが……退屈になったら先に帰っていいからな!?」
平然と浮遊するサタナ。本気を出せば超スピードでの飛行移動も可能なのだろうな。あくまでも俺の憶測でしかないが。
「構わぬ。中々に面白い光景だからのう。それに、先に帰ってしまってはリルルを愛でられぬではないかっ!」
結局はそれが目的か。
リルルのためにも、サタナを制止する程度の余力は残しておく必要がありそうだな。そんなことを考えながら、俺は延々と仲間を呼び続けるスライムを斬り伏せていったのだった。
これにて第二章完結です!!
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